長野県川上村の日本式双晶











          長野県川上村の日本式双晶

1. 初めに

   2008年が明けてすぐ、長野県川上村の湯沼鉱泉を訪れた。社長、お姐さん、そして
  12月中旬に生まれた4匹の川上犬(眼がようやく明いて可愛らしい)が、暖かく出迎
  えてくれた。
   この日は、石川県の石友・Yさんを「日本式双晶 巨晶」の産地に案内するのと、
  正月休みに訪れた”パワフル○人組”の成果を聞くのが目的だった。

   ”パワフル○人組”はKAさんをリーダーに、メンバーに交替があったが年末・年始
  (元旦も行った!!)延べ4日間登り、トータル4枚の日本式双晶を出した。その一部を
  湯沼鉱泉社長に見せてもらったが、両翼12cmのものが最大だったらしい。メンバーの
  1人、千葉・Yさんからいただいた年賀状には、この時採集したと思われる大きな”単晶”
  の写真があった。

    Yさんの採集品【年賀状から借用】

   私も参加する予定だったのだが、身辺が急にあわただしくなり、残念ながら見送らざる
  るを得なかった。

   私が最後にこの産地を訪れたのが、1ケ月以上前で、産地の様子も変わり、Yさんと
  私だけでは心もとないだろうと、湯沼鉱泉社長が案内してくれることになった。標高
  1,800m前後から上の日陰部分には、積雪が見られ、草下先生の「鉱物採集フィー
  ルドガイド」にある”大ズリ”には、10cm以上の積雪があった。
   坑道の入口には”ツララ”が見られたが、中に行くほど暖かく、快適だった。”パワフ
  ル○人組”の掘った深さ約3mの『縦坑』の底を掘り初めてすぐ、『日本式双晶』の片割
  れと両錐の平板水晶が2枚採れ、Yさんのものになった。
   午後、下の坑道を探ってみると、平板、単晶などが続々と採集でき、ほとんどYさんの
  お持ち帰り品になった。

   今回、これぞ、と言える『日本式双晶』にはお眼にかかれなかったが、清冽な空気
  の中、気のおけない仲間たちとミネラル・ウオッチングを楽しめたのは、何ものにも
  代え難かった。

   身辺が急にあわただしくなったのは、某電子部品メーカーから、技術コンサルタント
  として招請をいただき、面談、住まい選びなどがあったからである。その結果、1月末
  には千葉県に単身赴任することになり、『 再び、ハンマーに封印 』せざるを得ない。
   赴任してから仕事が軌道に乗るまで、採集はむろん、HPの更新もままならないと思
  う。読者の皆様のご健勝をお祈りしている。
   ( 2008年1月採集 )

2. 産地

   湯沼鉱泉に宿泊し、『 母岩付き日本式双晶 巨晶 』の現物を見せてもらいながら
  社長に産地を教えてもらうのが良いだろう。
   産地は、坑道の中なので冬でも採集可能である。最近、ここを訪れる人が多いので
  うまくすると同行者がいるかも知れない。

3. 産状と採集方法

   この産地は戦国時代(?)〜昭和にかけて水晶を採掘した場所で、坑道やズリで、
  日本式双晶が採集できることで知られ、過去に何回か開催したミネラル・ウオッチング
  でも当時中学生だったY君はじめ何人かが双晶を採集している。
   草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」にある”大ズリ”には、10cm以上の積雪が
  あり、凍結していて採集は無理だが、坑道内では十分採集可能である。

      
          ”大ズリ”               坑道
                     産地

4. 採集鉱物

   ここでの採集標本は、「水晶」が主で、日本式双晶、平板、両錐など結晶形態、「緑
  水晶」などインクルージョン、「鋭錐石」などの共生鉱物、と各種の楽しみがある。
   しかも、水晶の大きさが他所の産地ではお目にかかれないくらい大きいのが特徴
  である。

  区   分  説    明   標   本   例   備    考
単晶   

  
     単晶【長さ 6cm】

 この産地の水晶の
2,3面は美しいのだが
残りの面は”ガビガビ”が
ほとんどである。
 希に、全周”ピカピカ”も
ある。
平板
(ひらばん)
 ”平板”とは
扁平な晶癖をもつ
水晶の俗称

  
     平板【長さ 9.5cm】

両錐

     このほか、曹柱石【MARIALITE:(Na,Ca)4[Al(Al,Si)Si2O8)]3(Cl,CO3,SO4)】と思わ
    れる柱石の大きな群晶が採集できた。

5. おわりに

 (1) 今回案内した石川の石友・Yさんから、無事帰宅のメールをいただいた。

     『 肝心の成果は、ほとほと双晶に縁がないのか、・・・・・・・・・双晶は有りません
      でした。

      また暖かくなったら再挑戦したいですねー。                    』

     何回か訪れれば、きっと”幸運の女神”が微笑むことがあるはずだ。

 (2)  『 再び、ハンマーに封印 』
      お昼ごはんを外で食べるときに寒くないように、と産地に着くと真っ先に焚き火
     を起こすのが私の仕事になっている。
      焚き火を囲みながら、昼食を摂っているとなぜか”ホッ”とした気分になる。私に
     とって、”至福のひと時”である。

       焚き火

      2007年11月末、この産地を湯沼鉱泉社長と2人で訪れたとき、焚き火を囲み、
     お昼を食べながら「某電子部品メーカーから招請があるのだがどうしたものか」、
     と真っ先に相談した。

      社長は、『 チットばかし、金(ぜに)を貰うより、こうやって石採りを楽しんでいた
     ほうが良(い)いんでネエカ 』
、という。
      確かに、9ケ月の単身赴任から戻った、2007年4月から8ケ月の間、月替わりの
     ように『 巨晶、美晶そして微晶 』に恵まれている。これから先、何年健康でミネ
     ラルウオッチングを楽しめるか分からないが、単身赴任のブランクは、大きい。

      一方では、『技術士として、自分の技術を社会で活かせるのはありがたい』、との
     想いもある。還暦(60歳)をとっくに過ぎた”老兵”が『 ものづくり 』のお役に
     立てるのは、技術士の資格を取得する動機の1つでもあったからだ。

      こんな、葛藤を抱えながら下した結論は、『 再び、ハンマーに封印 』である。

      赴任してから仕事が軌道に乗るまで、採集はむろん、HPの更新もままならない
     と思う。読者の皆様のご健勝をお祈りしている。

6. 参考文献

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1998年
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