水晶で作られた石器 その8

             水晶で作られた石器 その8

1. はじめに

    長かった冬も終わり、3月25日には甲府地方でも桜の開花宣言がだされ、春本番だ。2013年3月末に単身赴
   任先から山梨県に戻って以来、この時期は冬の間ご無沙汰していたミネラル・ウオッチングのリハビリ期になっ
   ている。リハビリに何が一番かというと、まずは歩くことで、川上村での石器観察がピッタリだ。

    南極から帰り、2月中旬に湯沼鉱泉の社長とお姐さんにお土産を持って訪れ、少し先になるが、今年も神奈川
   の私立小中一貫校の一泊二日の野外授業の予約をお願いした。
    行き帰りに通った川上村の石器産地は、30センチ以上の雪に覆われ、その後も雪が降ったようだ。しかし、桜
   前線の北上が話題になる頃になると、山梨県の標高の高い清里あたりの朝の最低気温がプラスになる日が続
   くようになった。

    3月下旬、川上村を訪れると、日蔭には雪が残っているが、広いレタス畑には雪がなく、石器観察ができる状
   態だった。畑に足を踏み入れると、暖かい春の日差しで霜が溶けてドロドロになっていて、初日は4,557歩(約4
   km)歩いただけでギブアップだった。
    一週間ほど経って疲れもとれたころ、再び訪れると前回のリハビリの効果がでたのか、13,322歩(約13km)
   歩いても余裕があった。
    2回の訪問で、観察できた石器や遺物は次のとおりだ。

    @ 水晶(石英)原石
    A 尖頭器(Point)とも呼ばれる”石槍”
    B 掻器(スクレーパー)
    C 石鏃(やじり)
    D 縄文土器
    E 大正11年(1922年)発行の一銭銅貨

    以前から川上村のKKだけでなく、KD、YK、YSなどの旧石器から縄文遺跡で水晶製の石器を確認していたの
   だが、今回も水晶(石英)の塊や剥片を観察でき、広い範囲で水晶が石器の材料として利用されていたことを
   確認できた。それだけ、この地域が水晶原石が豊富だった証(あかし)だろう。

    2010年に、この地域の一部を案内してくれ、石器観察の手ほどきをしていただいたYさんに厚く御礼申し上げ
   る。
   ( 2015年3月 観察 )

2. 産地

    ミネラル・ウオッチングで通っている長野県川上村の道路脇にあるレタス畑や原野に数多くの遺跡がある。も
   ちろん、遺跡に指定されている範囲には立ち入りできないが、そこを外れた場所が観察ポイントだ。

     
                石器観察地
           【八ヶ岳が見えるレタス畑】

3. 産状と採集方法

    畑を耕したときに掘り起こされた土が雨にあたったり、風に吹かれたりして、石器が表面に露出していることが
   ある。これらを観察するのだ。
    畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。

    この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
   始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。12月から2月までは雪に覆われているから、実質、観察できるの
   は限られた期間になる。

    2014年は気象が安定しなかったせいで、レタスの価格が高騰し、通常一箱1,200円くらいのところ、3,000円を
   越える値がついた時期もあった。同じ畑に年に何回か苗を植えて収穫するので、1回でも多くサイクルを回せば
   それだけ年収が増えるせいか、2015年は農作業が昨年より早めにスタートしていた。
    同じ畑に同じ作物だけを作っているので、年毎に土が痩せてきて、病気に弱くなったり、作物のできばえも悪く
   なる。その対策として、新しい土を運んできて上に被(かぶ)せる”客土(きゃくど)”が行われる。こうなると、もと
   もとあった遺跡の表面が20〜30センチも下になってしまい、石器が隠れてしまう。こうして、消滅しつつある産地
   も少なくない。

     
               客土された畑
        【客土された奥は一段高くなっている】

4. 観察標本

 4.1 水晶製石器の産出状況
      Yさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べ
     て新しい産地を開拓し、今回はさらに広い範囲を探索した。

      今までに訪れた産地で確認できた水晶製石器の状況を一覧表に示す。

                        ◎:数個確認    ○:産出確認     ×:産出未確認
 区 分          遺   跡 (時代)    備考
  YD
(旧石器)
  KD
(旧石器)
  KK
(旧石器)
  YK
(縄文)
  YS
(旧石器)
  BD
(旧石器)
 
水晶製石器   ×   ×   ○   ×   ×   ×  
水晶(石英)塊   ×   ×   ○   ×   ○  ○  
水晶剥片   ×   ◎   ○   ○   ○   ◎  
結晶面が見える水晶   ×   ○   ×   ×   ○  ×  
備      考        2010年に初訪問 2013年
 初訪問
 2015年
 初訪問
 

      過去に訪れて観察できなかった遺跡や新しく訪れた遺跡で、水晶(石英)の塊や結晶面の見える水晶を
     確認できた。この結果から、水晶の塊や剥片は広い範囲で観察できることが明らかになった。しかし、「水晶
     製石器」と呼べそうなものは、KK遺跡でしか確認できていない。

         
             結晶面が見える水晶                      石英の塊
               【長さ 7.5cm】                      【長さ 4.1cm】
                         石器に用いられた水晶(石英)の原石

 4.2 観察石器と遺物

      今回、観察できた石器と遺物の一部を紹介する。

区分 観察地
(時代)
 材 質      写    真   説       明    備考
スクレーパー
(掻器)
  KD
(旧石器)
黒曜石
    
            長さ 3.2cm
 肉などを剥がしたり
革をなめした。

 形状が親指に
似ているので、
「拇指状掻器」だろう。

今回も複数個観察
石槍
(ポイント)
  KD
(旧石器)
黒曜石    
            長さ 3.3cm
 ナイフとしても
使われた。
 
頁岩     
            長さ 4.4cm
  
  BD
(旧石器)
下呂石     
            長さ 7cm
   下呂石製石器を
多数観察 
石鏃   YK
(縄文)
黒曜石
    
            長さ 1.3cm
 
   
土器 粘土

            長さ 1.9cm
直線の文様入り    八ヶ岳周辺では、
数少ない縄文遺跡の
ひとつ
硬貨   YS
(旧石器)

     「桐1銭銅貨」 大正11年
(1922年)発行

 1銭銅貨は、
戦後間もなくまで
使われていた。
 埋もれてから70年
近く経っているだろう。

5. おわりに

 5.1 甲府盆地の春
      わが家の庭に春の訪れを知らせるのが、「山芍薬(しゃくやく)」と「シラネアオイ」だ。「山芍薬」は、2004年
     に、奈良県の石友・Aさんに案内していただいた某産地で採集したもので、種を播き、育ててここまで増えた。
      2015年は、花が咲くのが遅いようで、「信玄公まつり」が終わってもまだ蕾のままだ。しかし、日ごとに蕾も
     膨らんできているので、今週には咲きそうだ。

      「シラネアオイ」は、2011年に長野県白馬村にある山野草店で購入したもので、昨年は2輪咲いて驚いて
     いたが、2015年は4輪も花が咲き、予想以上に山梨の気候に合っているようだ。

         
                 「山芍薬」                       「シラネアオイ」
                                山梨の春

 5.2 『ミネラル・ウオッチング』シーズン開幕
      3月は、ミネラル・ウオッチングにこどもたちを案内した学校から招待され、発表会や卒業式に出席すること
     が多かった。このときにお会いした先生から、「今年もよろしく」と声がかかっていたが、早い学校では、5月か
     ら予約が入ってきて、いよいよミネラル・ウオッチングのシーズンの開幕だ。

      2014年2月の大雪で崩落した湯沼鉱泉の浴場は、GWまでに完成をめざして復旧工事が進んでいる。毎年
     開催して
     いる『月遅れGWミネラル・ウオッチング』は、『湯沼鉱泉の浴場復興記念』と題して、6月後半に
     開催を計画している。そのための下見、そろそろ出かけようと思っている。
      常連さんに加えて、新しく参加する親子もいるはずだ。全国各地の石友とお会いするのを、楽しみにして
     いる。

6. 参考文献

 1) 戸沢 充則執筆:矢出川遺跡群,長野県考古学会 矢出川遺跡群保存委員会,1983年
 2) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 3) 山梨県立考古博物館編:第23回特別展 縄文時代の暮らし 山の民と海の民
                     同館,2005年
 4) ミュージアムパーク茨城県自然博物館編:第44回企画展 ザ・ストーンワールド
                               −人と石の自然史−,同館,2008年
 5) 国立歴史民族博物館編:企画展示 縄文はいつからか!?,同館,2009年


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