水晶で作られた石器 その11

          ( Stone Implement made of QUARTZ  Part11
                       Kawakami and Minamimaki Village , Nagano Pref. )

1. はじめに

    長かった冬も終りを迎えようとしている。甲府盆地の2018年の冬は、雪こそさほど多くなかったが、寒い日には
   マイナス8度を記録し、例年になく寒さが厳しかった。
    しかし、3月に入ると氷点下に下がらない朝もあり、庭の梅も満開になり、春の気配が感じられるようになった。

    2010年3月に、八ヶ岳周辺で水晶製の石器を探し始めて8回目の春を迎えた。時には雪まじりの八ヶ岳颪
   (おろし)が吹きすさぶく中、畑の隅から隅まで黙々と歩く石器探しは、春の訪れを肌で実感するのと同時に、
   冬の間家に籠っていて鈍(なま)った身体を農耕やミネラル・ウオッチングができる体に鍛え直す、リハビリ期間
   にもなっている。

    3月中旬、例年になく20℃を越える暖かな(暑い?)日と一転して氷雨降る寒い日、例年通り石器観察を
   楽しんだ。
   ( 2018年3月 体験 )

2. 産地

    ミネラル・ウオッチングで通っている長野県川上村の道路脇にあるレタス畑や原野に、数多くの旧石器から
   縄文時代の遺跡がある。もちろん、遺跡に指定されている範囲には立ち入りできないが、そこを外れた場所が
   観察ポイントだ。

     
                      石器観察地

3. 産状と観察方法

    畑を耕したときに掘り起こされた土が凍ったり、霜柱で持ち上げられてから溶けるのを繰り返し、バラバラに崩
   れ、雨にあたったり、風に吹かれたりして表層の土が取り除かれると、石器が畑の表面に露出していることがあ
   る。これらを観察するのだ。
    畑の表面を見ながら、くまなく歩き回ると”キラリ”、と輝く石器に出会えることがある。

        
                              ”キラリ”と光る石器

    この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
   始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。早い年だと11月中旬から2月下旬までは雪に覆われているから、
   実質、観察できるのは限られた期間になる。
    また、石器や土器を採集する愛好家は少なくないようで、畑には先行者が歩いた足跡を確認できることも
   少なくない。そんなこともあって、いつ行くかは重要なポイントになる。

    また、石器や土器は南牧村や川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住ん
   でいる場所と田畑や原野のままの場所があるように、1万数千年前でも人々にとって住みやすい場所とそうで
   ない場所があったのだ。
    それらの場所を先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶しておいて
   そこを重点的に観察するのが良さそうだ。

4. 観察標本

 4.1 石器材料【旧石器遺跡周辺】
      今回、遺跡別に観察できた石器の材料を分類した結果を下表に示す。

石材の種類 色など    写       真 遺跡別
観察数
(ケ)
観察数合計
西 個数
(ケ)
比率
黒曜石
7 76 120 203 69%

9     9 3%
灰色
(他県産)

2 7 1  10 3%
頁岩
4 4 1%
チャート 青白
11 24 32 67 23%

       
石英(水晶)  
  2    2  1% 
瑪瑙(めのう)  
         
合計     45 95 411 295 100%

      1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、前々回の2016年、そして今回(2018年)
        の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られないことから、この地域の石器材料
        のおおまかな比率とみて間違いないだろう。

         
                2010年                   2014年                  2016年
                                石器に使われた鉱物・岩石内訳

      2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、90%近くを占めている。以前単身赴任して
        いた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。

         ・ 千葉県で石器拾い
         ( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )

         八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あい
        ま)っての結果だろう。

      3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶
        が豊富にあるのだから、材料入手の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。

          ・ 石器作りに挑戦
           ( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )

         ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手できる
        石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。

 4.2 石器材料【縄文遺跡周辺】

石材の種類 色など    写       真 年度別観察数
(比率)
備  考
2010年 2018年
黒曜石
 17
(100%)
 109
(93%)
 

     
灰色
(他県産)

   2
(2%)
  
頁岩
 1
(1%)
チャート 青白
    2 (2%)    

 2 (2%)  
石英(水晶)  
       
瑪瑙(めのう)  
     
合     計  17
(100%) 
 117
(100%)
 

 4.3 水晶製石器の産出状況
      川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれたYさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
     のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。

      今回は、旧石器遺跡の近くで水晶製石器を観察できた。ここでは、過去にも結晶面が見える水晶や
     水晶塊を観察した場所だ。

     
             石英剥片【2018年3月】

      今までに訪れた産地で確認できた水晶製石器の状況を一覧表に示す。

                        ◎:数個確認    ○:産出確認     ×:産出未確認
 区 分          遺   跡 (時代)    備考
  YD
(旧石器)
  KD
(旧石器)
  KK
(旧石器)
  YK
(縄文)
  YS
(旧石器)
  BD
(旧石器)
 
水晶製石器   ×   ×   ○   ×   ×   ×  
水晶(石英)塊   ×   ○   ○   ×   ○  ○  
水晶剥片   ×   ◎   ○   ○   ○   ◎  
結晶面が見える水晶   ×   ○   ×   ×   ○  ×  
備      考 2010年に初訪問
コンスタントに観察
2016年も観察
2017年は、KDのみ訪問
 2013年初訪問
2016年は未訪問
2017年は未訪問
2015年初訪問
2016年未確認
2017年は未訪問
 

 4.4 観察石器と遺物
     今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。

     @ 尖頭器(Point)とも呼ばれる”石槍”
     A 石鏃(矢じり)

      それらの観察できた石器の一部を紹介する。

石器名 観察地
(時代)
材質 写真 説明
石槍
(ポイント)
KDの西
(旧石器)
チャート      
              長さ 30mm
石槍としては
小型
石鏃
(矢じり)
Y
(縄文)
黒曜石       
             長さ 23mm
縄文時代になって
狩猟で使った矢じり

5. おわりに

 ■ リハビリ
    2018年初の交通事故で負った頸椎ねんざ(俗に”ムチウチ”)の治療に通っている。私は、バックミラーで後続
   車がえらい勢いで突っ込んでくるのが見え、追突されるまでのコンマ何秒かでハンドルを握り直し踏ん張り、ヘッ
   ドレストに後頭部を押し付けるなど、多少なりとも身構えることができた。しかし、いきなり”ドス〜ン”、そして
   前の車に”バ〜ン”と訳もわからないうちにぶつかった妻には、心身ともにショックが大きかったようだ。

    HPを読み直すと、3月初旬には「石器拾い」でウオームアップを開始するのが、そんなわけで今年はスタートが
   半月ほど遅れてしまった。
    これから、農作業を通じて、ミネラル・ウオッチングに耐えられる身体に鍛え直さねばと思っている。

6. 参考文献

 1) 戸沢 充則執筆:矢出川遺跡群,長野県考古学会 矢出川遺跡群保存委員会,1983年
 2) 柴田 直子他編:川上村先土器時代 −由井茂也先生に感謝をこめて−,同氏,1992年
 3) 山梨県立考古博物館編:第23回特別展 縄文時代の暮らし 山の民と海の民
                     同館,2005年
 4) ミュージアムパーク茨城県自然博物館編:第44回企画展 ザ・ストーンワールド
                               −人と石の自然史−,同館,2008年
 5) 国立歴史民族博物館編:企画展示 縄文はいつからか!?,同館,2009年


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