2010年3月に、八ヶ岳周辺で水晶製の石器を探し始めて8回目の春を迎えた。時には雪まじりの八ヶ岳颪
(おろし)が吹きすさぶく中、畑の隅から隅まで黙々と歩く石器探しは、春の訪れを肌で実感するのと同時に、
冬の間家に籠っていて鈍(なま)った身体を農耕やミネラル・ウオッチングができる体に鍛え直す、リハビリ期間
にもなっている。
3月中旬、例年になく20℃を越える暖かな(暑い?)日と一転して氷雨降る寒い日、例年通り石器観察を
楽しんだ。
( 2018年3月 体験 )
この地域は、高原野菜、とりわけレタスの有名産地なので、野菜の栽培が終わった11月から苗の植え付けが
始まる4月までの間で雪のない季節が適期だ。早い年だと11月中旬から2月下旬までは雪に覆われているから、
実質、観察できるのは限られた期間になる。
また、石器や土器を採集する愛好家は少なくないようで、畑には先行者が歩いた足跡を確認できることも
少なくない。そんなこともあって、いつ行くかは重要なポイントになる。
また、石器や土器は南牧村や川上村にまんべんなく分布しているわけではない。それは現在でも人が住ん
でいる場所と田畑や原野のままの場所があるように、1万数千年前でも人々にとって住みやすい場所とそうで
ない場所があったのだ。
それらの場所を先人に教えてもらったり、文献で調べたり、過去に訪れて成果があった場所を記憶しておいて
そこを重点的に観察するのが良さそうだ。
石材の種類 | 色など | 写 真 | 遺跡別 観察数 (ケ) | 観察数合計 | 東 | 西 | 北 | 個数 (ケ) | 比率 | 黒曜石 | 黒 | | 7 | 76 | 120 | 203 | 69% | 赤 | | 9 | 9 | 3% | 灰色 (他県産) | | 2 | 7 | 1 | 10 | 3% | 頁岩 | | 4 | 4 | 1% | チャート | 青白 | | 11 | 24 | 32 | 67 | 23% | 赤 | | 石英(水晶) | | 2 | 2 | 1% | 瑪瑙(めのう) | | 合計 | 45 | 95 | 411 | 295 | 100% |
1) この地域で石器観察をはじめた2010年、4年後の2014年、前々回の2016年、そして今回(2018年)
の調査結果を比較してみると、その比率に大きな変化は見られないことから、この地域の石器材料
のおおまかな比率とみて間違いないだろう。
2010年 2014年 2016年
石器に使われた鉱物・岩石内訳
2) 八ヶ岳周辺では、圧倒的に「黒曜石」の比率が高く、90%近くを占めている。以前単身赴任して
いた千葉県の縄文遺跡では、「黒曜石」が15%、「チャート」が85%だったのとは対照的だ。
・ 千葉県で石器拾い
( Stone Implement Hunting in Chiba , Chiba Pref. )
八ヶ岳周辺では「黒曜石」の入手が容易だったことと、割りやすく加工しやすい特性が相俟(あい
ま)っての結果だろう。
3) 水晶の比率は1%以下と少ない。以前、「石器作り」のページで報告したように、この地域には水晶
が豊富にあるのだから、材料入手の難易度よりも、加工しにくいことがその理由だろう。
・ 石器作りに挑戦
( Challenge Making Stone Implement , Yamanashi Pref. )
ただ、今回は訪れなかったがN遺跡のように、20%強が水晶の遺跡もあり、時代によって入手できる
石材の制約や人による好みなどがあったのかも知れない。
4.2 石器材料【縄文遺跡周辺】
石材の種類 | 色など | 写 真 | 年度別観察数 (比率) | 備 考 | 2010年 | 2018年 | 黒曜石 | 黒 | | 17 (100%) | 109 (93%) | 赤 | | 灰色 (他県産) | | 2 (2%) | 頁岩 | | 1 (1%) | チャート | 青白 | | 2 (2%) | 赤 | | 2 (2%) | 石英(水晶) | | 瑪瑙(めのう) | | 合 計 | 17 (100%) | 117 (100%) |
4.3 水晶製石器の産出状況
川上村での石器観察を手ほどきしてしてくれたYさんに教えていただいた水晶石器の産地は、旧石器時代
のKK遺跡だった。その後、文献やネットで調べて新しい産地を開拓した。
今回は、旧石器遺跡の近くで水晶製石器を観察できた。ここでは、過去にも結晶面が見える水晶や
水晶塊を観察した場所だ。
石英剥片【2018年3月】
今までに訪れた産地で確認できた水晶製石器の状況を一覧表に示す。
◎:数個確認 ○:産出確認 ×:産出未確認
区 分 | 遺 跡 (時代) | 備考 | YD (旧石器) | KD (旧石器) | KK (旧石器) | YK (縄文) | YS (旧石器) | BD (旧石器) | 水晶製石器 | × | × | ○ | × | × | × | 水晶(石英)塊 | × | ○ | ○ | × | ○ | ○ | 水晶剥片 | × | ◎ | ○ | ○ | ○ | ◎ | 結晶面が見える水晶 | × | ○ | × | × | ○ | × | 備 考 |
2010年に初訪問 コンスタントに観察 2016年も観察 2017年は、KDのみ訪問 |
2013年初訪問 2016年は未訪問 2017年は未訪問 |
2015年初訪問 2016年未確認 2017年は未訪問 |
4.4 観察石器と遺物
今回の訪問で、観察できた石器は次のとおりだ。
@ 尖頭器(Point)とも呼ばれる”石槍”
A 石鏃(矢じり)
それらの観察できた石器の一部を紹介する。
石器名 | 観察地 (時代) | 材質 | 写真 | 説明 | 石槍 (ポイント) | KDの西 (旧石器) | チャート |
長さ 30mm | 石槍としては 小型 |
石鏃 (矢じり) | Y (縄文) | 黒曜石 |
長さ 23mm | 縄文時代になって 狩猟で使った矢じり |
HPを読み直すと、3月初旬には「石器拾い」でウオームアップを開始するのが、そんなわけで今年はスタートが
半月ほど遅れてしまった。
これから、農作業を通じて、ミネラル・ウオッチングに耐えられる身体に鍛え直さねばと思っている。