長野県川上村川端下の緑簾石

          長野県川上村川端下の緑簾石

1. 初めに

   2008年の石友宛の年賀状には、2007年は、石友の御蔭で、『巨晶、美晶そして
  微晶』 
に恵まれた1年でした、と書き、採集品の一部の写真を添えた。

     石友宛年賀状【2008年】

   2007年6月、長野県川上村の石友・Yさんから、『 甲武信鉱山で素晴らしい緑簾
  石が出た!! 』
との電話をいただき、湯沼鉱泉社長の採集品を見せてもらい、
  これに関連した採集記をHPに記載した。
   そのページの「おわりに」で、次のように書いた。

   『 実は、今回、湯沼鉱泉社長が採集した品を見るまで、私が採集した「緑簾石」
    が甲武信鉱山産では一番だと密かに自負していた。
     この標本は、10年ほど前、愛知の石友・KNさん、大阪の石友・Tさんと3人で
    「日本式双晶」を追いかけていた時に、私が露頭を叩いて採集した母岩付標本
    である。

     この標本を採集した経緯は、標本の写真を添えて、近いうちに、書き残して置
    きたいと考えている。                                  』

   2008年が明けてすぐ、長野県のYさんから、『川端下で緑簾石の良いのが出そう
  だから行かザ』
、との電話をいただき、2つ返事で案内をお願いした。

   何でも、年末・年始に愛知県の石友・KNさんはじめとする”パワフル○人組”が日
  本式双晶を採集したすぐ近くの坑道壁を叩いて出したらしい。
   話をよくよく聞いてみると、10数年前、私が「緑簾石」を出したまさしくその場所だ
  った。

   Yさん、長野県の石友・Sさん、そして私の3人で坑道床や壁を掘ったり、叩いたり
  して、頭の尖った「緑簾石」の母岩付き良標本をいくつか採集できた。
   脈は、まだまだ続いており、追っかけて叩けば、さらに良品が採れそうな感じだ。

   産地は坑道の中なので、今回のように外が雪でも暖かく採集可能なので、湯沼
  鉱泉に宿泊し、社長の採集品を見せてもらい、場所を聞いて訪れると良いだろう。

     産地に向かう【2008年1月】

   案内、同行いただいたYさんとSさんに、厚く御礼申し上げます。
   ( 2008年1月採集 )

2. 産地

   甲武信鉱山についてはたくさん情報があるので、詳細は割愛する。「緑簾石」の産
  地については、湯沼鉱泉に宿泊し、社長から場所良く聞いて訪れると良いだろう。
   タイミングが良ければ、同行者が宿泊しているかも知れない。

   2007年11月に採集した”川上村の宝”「母岩付き 両翼21cmの日本式双晶」
  盗難防止策も完了し、「天然水晶洞」に展示されている。
   宿泊や訪れた折に、拝見すると良いだろう。

     双晶展示【2008年1月】

3. 産状と採集方法

   この一帯は、スカルン帯とされ、「緑簾石」「灰鉄柘榴石」「鉄へスティング閃石」
  そして日本式双晶はじめ各種の水晶などが坑道内、露頭そしてズリで採集できる。

   今回は、坑道の床のズリを取り除き、床や壁面に走る「緑簾石」の脈をハンマーと
  タガネで崩しながら採集した。
   脈には、「緑簾石」「灰鉄ざくろ石」そして「水晶」がメインのものがあるので、見極
  めながら追いかけるのがポイントである。

      
        緑簾石を含む脈    日本式双晶を掘った”平成の縦坑”
                     産状

4. 産出鉱物

 (1)  緑簾石【EPIDOTE:Ca2Fe3+Al2(SiO4)(Si2O7)O(OH)】
      第3紀の堆積岩(砂岩質)の晶洞の中に緑黒色、ガラス光沢の柱状結晶で「氷
     長石」や「灰鉄ざくろ石」を伴って見られる。
      脈が厚く、晶洞が大きい部分には、”立った柱状結晶”も見られる。

         
          全体【横 12cm】         拡大【結晶 2cm】
                      緑簾石

 (2) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
     湯沼鉱泉社長によれば、この周辺にあるいくつかの坑道で一番新しいのは
    昭和30年ごろまで水晶を掘ったものらしい。ここでは、「緑」「マリモ入り」など各種
    のインクルージョンを含むものや「松茸」、「両錐」そして「日本式双晶」など面白い
    形態の水晶が採集できる。

     今回も、茶褐色の「針鉄鉱(褐鉄鉱)」覆われた『平板』水晶を採集し、塩酸で
    洗ってみると、”条線”がほぼ直角に交叉し、”縫合線”も見られ、『日本式双晶』
    であることが判明した。

       日本式双晶【両翼 9cm】

 (3) このほか、川端下としては比較的めずらしい「灰鉄ざくろ石」が坑道内の壁から
    採集できる。

5. おわりに

 (1) 今回、「緑簾石」が産出したのは、以前から「日本式双晶」の産地として多くの
    人々に知られた場所で、古くは、昭和15年(1940年)に、桜井欽一先生一行も
    訪れている。( 桜井先生は、「緑簾石」の存在に気付かなかったらしい )

     このように、甲武信鉱山を含むこの地域一帯の産地を自分の掌(たなごころ)
    のように知り尽くしている湯沼鉱泉社長をして、『 どこで、何が出るか分からない 』
    と言わせるほど、魅力的な産地なのである。

 (2) 甲武信鉱山の「緑簾石」産地
     湯沼鉱泉社長などの話や私の経験を総合すると、甲武信鉱山(川端下を含む
    広い意味)で「緑簾石」が採れる(採れた?)場所は何箇所かある。

     川端下での「緑簾石」の産出に気付いたのは、私がミネラル・ウオッチングを
    始めて間もない、1993年ごろだったと思う。

     川端下の水晶坑道の中は、”Yサインをした左手首”のような形をしている。人
    差し指の部分は今はあらかた埋まってしまっているが、その当時は、斜坑があ
    り、その行き止まりに”晶洞”らしきものがあった。
     ( 人が”スッポリ”入れるくらいの大きさがあった )
     そこは、ズリなのかガマ粘土なのかよく分からない粘土質の土で覆われていて
    そこを掘ると、「両錐」や「巨晶」の水晶がまるで”ごぼう抜き”のように採集でき
    た。ただ、入口が狭く、”晶洞”には上半身を突っ込んで天井を向いて採集する
    有様だった。

     すでにHPに記載した愛知県の石友・KNさんとの”死の彷徨”の末、ここで、私が
    20cmを超える両錐を採集し、KNさんは「日本式双晶」も採集していた。

     ほどなくして、大阪の石友・Tさんを誘い、KNさんと3人でここを訪れた。この時
    の狙いは「日本式双晶」で、斜坑の突き当たりの”晶洞”を攻める作戦だったが
    入口がさらに狭まり、身体の大きな私は入り込めずあぶれてしまった。
     仕方がないので、坑道内を見て回ることにした。とある場所に緑簾石の脈が
    あるのに気付き、それを追いかけ、晶洞の中に立った母岩付き「緑簾石」を採
    集した。

         
          全体【横 11cm】         拡大【結晶18mm】
                      緑簾石

     これを見て、KNさんとTさんが「日本式双晶」そっちのけで、「緑簾石」の脈を
    追いかけたが、私が採集した以上のものは出てこなかった。

     以上が、2007年6月、湯沼鉱泉社長が採集した標本を見るまで、私が採集した
    ものが甲武信鉱山産では一番だと密かに自負していた「緑簾石」採集の経緯と
    その標本写真である。

 (3) 川端下の日本式双晶
     私の場合、平均すると、訪れるたびに1枚以上、日本式双晶を採集している
    勘定になり、小Yさんから『双晶のMH』、との異名(?)を頂戴している。

     御蔭様で、20枚以上の「日本式双晶」が集まり、その”晶癖”などバラエティに
    富んでいることもわかり、まとめておきたいと思うのだが・・・・・・・・・・

6. 参考文献

 1) 小出 五郎:長野縣川上村川端下附近の鉱物 我等の礦物 第十巻第六号
            同会,昭和16年
 2) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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