長野県川上村川端下(かわはげ)の鉱物

長野県川上村川端下(かわはげ)の鉱物

1.初めに

日下さんの「鉱物採集フィールドガイド」の双子水晶の章に、今でも
日本式双晶が採れる可能性が高く、鉱物産地として魅力に富む場所として
長野県南佐久郡川上村川端下(かわはげ)が紹介してあります。
川端下は武田信玄の時代に金を採掘したと言われますが、「水晶宝飾史」に
よると、明治初年に始まり、明治20年ごろ最盛期を迎えた山梨県を中心とした
水晶採掘坑道の1つであったようです。
11月の3連休に福島県の石友2人を案内して、長野県川端下の水晶ズリを
約10年ぶりで訪れた。
今年は、冬の到来が早く、盆地の甲府でも朝の最低気温が平年より40日近く早く
氷点下になるほどで、清里を過ぎると朝8時過ぎでも気温は氷点下でした。
川上村に入ると畑には雪が残り、採集が危ぶまれましたが、産地は思ったほどの
積雪はなく、川端下への途中、私のHPの愛読者、長野県木曾のIさんと一緒になり
初雪の残るズリや水晶坑で、両錐水晶や群晶などを採集できた。
(2002年11月採集)

2. 産地

川端下の産地は長峰(2065m)の北尾根の西斜面にあり、ここへの
アプローチは2つのルートがあります。
@日下さんの本に記述されているように、川端下の集落から林道を経て
 道なき道を水晶の大ズリを目指す。
A甲武信鉱山側から尾根をめざし、尾根越しに坑道を目指す。
いずれのルートも分かりにくく、断崖・絶壁などもあり、最初は誰かに案内して
もらうほうが安全です。
川端下水晶産地【鉱物採集フィールドガイドから引用】
尾根から約50m下った位置に水晶坑がいくつかあり、さらに50m下に
大ズリの上端があります。
川端下水晶ズリ【鉱物採集フィールドガイドから引用】

3.産状と採集方法

川端下水晶坑は、粘板岩に貫入した石英脈の晶洞部分に晶出したと思われ
坑道内やズリには、20cmを超える大きな水晶がゴロゴロしています。
ここでの採集方法は、つぎの通りです。
@ズリを掘り返す。
A坑道内の壁面を叩いたり、坑道内の土砂(ガマ粘土?)を堀り返す。

    左:ズリ【Iさん撮影】     右:坑道前
           川端下採集風景

4.採集鉱物

(1)水晶【Rock Crystal:SiO2】
「水晶宝飾史」には、川端下の水晶の特徴が次のように書いてあります。
百瀬孝吉氏(水晶工芸の第一人者)の観察として、『すりガラスのような感があり
透明度は小さく、一般に肌荒れが多い。』
山梨師範(現山梨大学)の矢崎好幸氏は、昭和8年に「山梨教育」に『磨りガラスの
ような透明度の低いものが多かった。』と書いています。
これらの記述からも分かるように、決して美しい結晶とは言えません。
これは、何回か熱水が浸入し、一度結晶した水晶の柱面を溶かしたり、錐面の上に
再び結晶が成長したためと推定されます。
このため、子持ち水晶、擬似松茸水晶などが多く、形態的にも両錐や平板も多い。
群晶も比較的簡単に採集できます。

                川端下産水晶
         左:両錐           右:群晶
また、インクルージョン(内包物)として、緑泥石を含むものなどもある。
平板水晶も多く、10年ほど前に日本式双晶をズリで採集したこともある。

(2)水晶以外の鉱物
日下さんの本にもあるように、氷州石(アイスランドスパー)と呼べる複屈折を示す
透明度の高い方解石や一抱えもある方解石の巨晶、灰鉄ザクロ石、柱石なども
採集できます。
これらについては、別な機会に紹介したいと思います。

5.おわりに

(1)川端下の水晶は、同行した木曾のIさんの言葉を借りると『 同じ川上村に
ありながら甲武信とも小川山とも違う、無骨で魅力的な形の水晶 』です。
(2)川端下の集落では、砂金採集をしていたとの情報もあり、来春にでも
パンニングにも挑戦してみたいと考えています。
(3)川端下は、ズリや坑道が広い範囲に散らばっており、面白い鉱物が採集でき
次回採集会の候補の1つに考えています。

6.参考文献

1)日下英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
2)篠原方泰編:水晶宝飾史,甲府商工会議所,昭和43年
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