福島県玉川村川辺鉱山の希元素鉱物

         福島県玉川村川辺鉱山の希元素鉱物

1. 初めに

   2005年の夏、岐阜県蛭川村の木積沢で本格的なパンニングを行い、岡本 要八郎、
  桜井 欽一両先生が選ばれた『日本産鉱物50種』にもある希元素鉱物の「苗木石」を
  原産地で採集でき、パンニングの効果が絶大なことを知った。
   希元素鉱物の第一人者であった長島 乙吉氏が希元素鉱物採集では”わんがけ”を
  多用していた理由を改めて納得できた。
   過去に訪れた希元素鉱物産地で、パンニングを使えばもっと良い標本が採集できる
  のではないか、と ”慾”が頭をもたげた。
   真っ先に思いあたったのが、福島県玉川村川辺鉱山のモナズ石であった。2001年に
  訪れた時には、ズリの土砂を篩って、土嚢袋に詰めて持ち帰って、洗浄し、ジックリ選別し
  モナズ石の良品を3ケ発見したが、この産地の目玉の「球状ゼノタイム」や「変種ジルコン」
  などは見つけられなかった。
   今回、栃木・福島・新潟鉱物採集の旅の途上、4年ぶりに訪れ、頭付き単結晶や双晶を
  含むかなりの数の「モナズ石」はじめ「球状ゼノタイム」や「変種ジルコン」(苗木石、シルト石)
  などを採集できた。
   砂金だけでなく、希元素鉱物採集における”パンニング”の効果に改めて感心した次第です。
  (2001年11月採集)(2005年10月再訪)

2. 産地

   福島県玉川村の川辺鉱山は、長島 乙吉・弘三親子による「日本希元素鉱物」の記述に
  よれば、『 水郡線泉郷から南 川辺部落から丘陵を東に1km許(ばかり)行くと北の谷に
  堀場が見える 』
 とあります。
   坑道が山道の脇に残っていますが、4年ぶりに訪れると、誰も採集した形跡がなく、産地は
  藪に覆われ、坑道の位置を探し出すまで手間取ってしまった。
   今回、カーナビの”地点登録”機能で、場所を記憶させましたので、次回はスムースに
  行けるはずです。

       
           入口                坑道
                  川辺鉱山跡

3. 産状と採集方法

   「日本希元素鉱物」によれば、ここは、花崗片麻岩を貫く脈性(ところどころレンズ状に
  膨らんだ)ペグマタイトで、初めは長石を採掘し、戦時中には「理研」(理化学研究所)が
  サマルスキー石を目的として小規模に採掘した場所で、坑道は余り深くありません。
   産地附近に水場がないため、坑道前のズリの土砂を土嚢袋に入れ別な場所に運び
  パンニングした。
   パンニングすると希元素鉱物は真っ黒い電気石(一部はサマルスキー石と思われる)
  赤〜赤黒色の鉄礬柘榴石とともに最後までパンニング皿の底に残るのでまとめて持ち帰り
  乾燥させてから、自宅でジックリ選別した。
   先を急ぐ採集では、”三ツ岩岳の土嚢袋作戦”のように、自宅に持ち帰って、ジックリと
  パンニング・選別するのも良いでしょう。

4. 産出鉱物

 (1)モナズ石【Monazite-(Ce):(Ce,La,Nd)PO4】
    モナズ石は、セリウムを主成分とする燐酸塩鉱物で、核燃料となるトリウムを含むため、
   放射能を持っています。
    今回採集した標本の放射能は、数がまとまると約1秒間に1カウントと、自然放射能の
   約50倍である。
    しかし、数ケの標本では自作ガイガーカウンタには全く反応しないので、希元素鉱物を
   採集する際、助けとなるガイガーカウンタは威力を発揮しない。
    川辺鉱山のモナズ石は、黄色〜黄褐色、ギラギラと脂ぎったガラス光沢を示し、薄板
   〜細長い柱状で産出する。
    比重が5.1と石英の約2倍あり、パンニングすると真っ黒い電気石(一部はサマルスキー石
   と思われる)、赤〜赤黒色の鉄礬柘榴石とともに最後までパンニング皿の底に残るので
   色の違いだけでも選別できます。
    最大幅9mm、長さ12mmの標本が得られたが、多くは5mm前後のものである。
   川辺鉱山のモナズ石結晶は、a面(100)とm面(110)の柱面が発達した薄板〜細柱状を
   示すのが一般的で、先端のv面(-111)の錐面が発達し、先端が尖って錐状になったものと
   x面(-101)とw面(101)からなる”クサビ状”の2通りが多いが、後者が90%以上を占め
   モナズ石の産地として知られる三重県竹原産のものと違いを見せている。
     注) ”-1” は、”バー付きの1”を示す。

 結晶形態   結 晶 図   採 集 標 本備  考
錐状結晶図の
裏面から見た形
クサビ状   

    「日本希元素鉱物」には、川辺産のモナズ石の双晶の結晶図が掲載されている。”傾軸双晶”
   と”共軸双晶の松茸”の2種が採集できた。

         
           傾軸双晶               松茸
                    モナズ石双晶

    これだけの分離結晶があるということは、かなり高い確率で”母岩付き”もあるはずと踏んだ。
   「日本希元素鉱物」には、『鉄電気石にともない・・・・・・』 とあるので、鉄電気石を含む石英塊は
   捨てないで持ち帰った。
    自宅でジックリ眺めると、やや黒ずんだ石英塊と電気石の境界や電気石の内部にモナズ石が
   あることがわかった。

          ↓ 頭付き単結晶(黄色いのは全てモナズ石)
      母岩付き

 (2)ゼノタイム【Xenotime-(Y):YPO4】
     Y(イットリウム)を含むリン酸塩鉱物で、モナズ石の”Ce(セリウム)”を”Y(イットリウム)”が
    置き換えたと思えばよい。
     川辺鉱山産のものは、「日本希元素鉱物」に”球状ゼノタイム”と記載されているように
    球状をなすことで、他の産地と大きな違いを見せている。
     変種ジルコンと平行連晶をなし、また両者は密接に共生し、球塊をなすことも多く、俗に
    ”菊花石”と呼ばれていたようです。
     ゼノタイムの比重は4.4〜5.1で、モナズ石同様パンニング皿の底に最後まで残る。
     z面(011)、τ面(121)、a面(010)の錐面が発達し、細長い両錐状になった結晶が放射状に
    集合し、全体として球状をなしている。個々の結晶は、下の結晶図よりも細長い。
     灰緑色〜灰褐色、ガラス〜油脂光沢の結晶が(変種ジルコンに?)埋もれているのが観察
    できる。
     表からの写真では、球状(正確には、半球状)に盛り上がっているのが、裏からの写真では
    母岩との接触面(平坦面)に灰黒色両錐状のゼノタイムの集合状態をお解りいただけると思う。

             
           結晶図             採集標本・表         採集標本・裏
                            球状ゼノタイム

 (3)変種ジルコン【Zircon:ZrSiO4】
     ジルコンに希元素鉱物を含む変種ジルコンで、青緑色を示すところから苗木石
    【Naegite:(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4】の系統と思われる。

         
           結晶図                採集標本
                 変種ジルコン【苗木石】
 (4)シルト石【Cyrtolite:ZrSiO4】
     著量の希土類元素を含む変種ジルコンの1種で、福島県の石川、川俣地方でのみ
    産出が知られている。
     黄褐色、錐状結晶で、ゼノタイムと平行連晶をなして産することが多いようである。

      シルト石

     「日本希元素鉱物」では、木村 健二教授ほかの分類に従い、シルト石を次の様に
    定義している。

     『 希土類元素の著量を含む変種ジルコン 』

     ”著量”と言っても、それは相対的な問題で、石川産のシルト石の分析例は次表のように
    なっている。
     苗木石と違い、Nb(ニオブ),Ta(タンタル)などの土酸元素をほとんど含まず、Ce(セシウム)
    Y(イットリウム)という希土類元素を多く(>1%)含むところから、木村 教授は
    ”シルト石型”とされた。

組成SiO2Ce2O3
Y2O3
ZrO2
HfO2
UO2(Nb,Ta)2O5P2O5Al2O3
Fe2O3
H2Oその他
比率
 (%)
32.43.7958.711.06  痕跡1.311.22.1 −100.57

 (5)このほか、鉄礬柘榴石、鉄電気石、サマルスキー石、白(まれに黒)雲母などを採集できる。

5. おわりに

 (1)ここは、戦争中(1940年〜45年ごろ) 原子爆弾の材料として希元素鉱物を採集するため
   「理研」が力を入れた鉱山で、兵隊が歩哨に立ったとも聞いています。
    今では、訪れる人もいないようで、ズリは手付かず状態で、4年前とほとんど変わって
    いなかった。

 (2)今回、念願の「球状ゼノタイム」と「変種ジルコン」を採集することができた。それらの多くは
    ”粒が小さかったり、薄汚れた石英の破片もどき”であり、前回(2001年)のやり方では
    採集できる訳がなかった。
     目的とする鉱物に合わせて、採集方法も進化させないとダメだ、と痛感した。

 (3)次回は、ここで「理研」が採掘の主眼としたサマルスキー石を採集したいと期待しています。
    ( 今回、サマルスキー石も採集できたが、余りに小さい粒しかなかった )
    また、今回、ベリリウムに富む変種ジルコンの1種であるアルブ石(?)【Alvite】と思われる
   鮮緑色透明の錐状結晶集合体を採集した。同じものをいくつか採集し、鑑定をお願い
   したいとも考えています。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会 長島乙吉先生祝賀記念事業会
               昭和35年
 2)松原 聰:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
 3)益富地学会館:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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