@ 「宝飾の道(ジュエリー・ロード)」
「甲州(山梨県)の名物は、葡萄と水晶」、と言われ、現在でも甲府市は『宝石の
街』と謳っている。私はそのルーツが、古代出雲(島根県)の玉作部(たまつくりべ)
で、出雲→京都の珠細工・小浜の瑪瑙(めのう)細工→甲州 というルートで玉作り
(宝石研磨)の技術が伝わったと考え、このルートを「宝飾の道(ジュエリー・ロー
ド)」と名付けてみた。
A 「鉱物採集は水晶に始まり水晶に終わる」
碧玉の化学式はSiO2で、水晶(石英)の仲間だ。2009年10月、小学生の『出前
授業』で、私たちと永い付き合いのある身近な鉱物として紹介した。
出雲の碧玉は、弥生〜古墳〜奈良・平安時代に管玉や勾玉などの宝飾品に
加工され、全国各地の古墳などから発見されていて、骨董市でこれらをいくつか
入手し、子どもたちにも披露した。
ミネラル・ウオッチングを始めた20年以上前に購入した「原色鉱物図鑑」には、
2010年の新春、古書店をのぞくと、日立製作所が発行した「技術史の旅」という1冊が
あれから1年、インターネット・オークションをながめていると『花仙山の水晶』が出品さ
このように、『出雲石』とも呼ばれる「花仙山の碧玉(青玉)」をはじめ、「出雲国計会帳」
玉造温泉は、「出雲風土記」に、『一たび
玉造温泉の東にある200m弱の小高い
花仙山周辺地図
採掘の様子を描く絵葉書を見ると、山腹に掘り込んだ穴の中でハンマーとタガネを使っ
採掘の様子
採掘跡には、碧玉(青瑪瑙)が落ちていたらしく、父親と一緒にそれを拾う子どもたちを
青瑪瑙拾い
ネットオークションで落札した水晶は、一番大きなものが35mmと可愛らしいものだ。
『 現在は採取地に入山できない為、拾う事が出来ません。(以前)雨上がりに、
水晶で有名な山梨県の水晶産地でも、今では表面採集で3cmを越えるものを探すの
花仙山でも、「水精玉」を奈良の都に送った頃には、大きな水晶が採集できた可能性
このページの中で、水晶と石英の呼び名について、貝原益軒が取り違えたという
「技術史の旅」には、花仙山で産出した原石を使った玉製品が載っている。
今回、「花仙山の水晶」を入手し、最近まで水晶が拾えたことを知り、かつては、
小さな水晶だが、私にとっては貴重な標本の1つになった。
(2) 「宝飾の道(ジュエリー・ロード)」
久しぶりに甲府駅に降り立つと、降りる駅を間違えたのではないか、と思わせるほど
( Presentation for Schoolchildren " Let's Study QUARTZ " , Nagano Pref. )
『佐渡の赤玉(あかだま)、出雲の青瑪瑙(めのう)』が載っていて、平成元年(19
89年)、山梨県に転勤して間もなく、山梨県六郷町(現市川三郷町)三沢川岸で
碧玉を採集した。その後、何回か訪れ、2002年にHPに記載した。
(Jasper of Misawagawa , Rokugo Town , Yamanashi Pref.)
あり入手した。この本には、『出雲玉作遺跡』という1章があり、島根県玉湯町の花仙山
で採れる碧玉などを加工した玉作り遺跡と出土品が紹介してある。さらに、オークション
に花仙山の碧玉産地を描く絵葉書が出品されたので入手した。こうして、材料はそろっ
たので、下のこのページをまとめてみた。
( Jasper from Kasenzan , Shimane Pref. )
れていたので入札すると、競争相手もなく落札できた。手元に届いた水晶を見ると小さ
なもので「管玉」や「勾玉」に加工するのは難しそうだが、その質は、「出雲国計会帳」に
あるような「水精玉」を作るのに十分なものだ。
にある「水晶玉」そしてそれらの原産地であったかもしれない「花仙山の水晶」まで総合
的にまとめるキッカケを与えてくれた石友・Hさん一家に厚く御礼を申し上げる。
( 2011年2月 情報 )
2. 産地
島根県松江市から宍道湖を時計周りに
回ると玉湯町に玉造温泉があるがある。
濯(すす)げば形容(かたち)端正(きらきら)
しく、再び浴(ゆあみ)すれば万(よろず)の
病(やまい) 悉(ことごと)に除(のぞ)こる』
とある名湯だ。
山が花仙山だ。
3. 産状と採集方法
花仙山の碧玉は、火山の噴出物の中に脈状や塊状に成長したようだ。噴出物が風化
しても風化に強い碧玉はそのまま残り、山土の中から掘り出して採掘したようだ。
て玉の材料に適した良質の部分を欠き採っているのがわかる。
描く大正〜昭和初期の花仙山の絵葉書もある。
出品者に問い合わせすると、採集した時の様子や現況を次のように知らせてくれた。
稀に見つけることができた水晶です。 』
は簡単なことではない。ただ、昔を知るベテランの人たちの話を聞くと、「一昔前なら、
10cm以下は置いて帰った 」、らしい。
は高い。
4. 花仙山の水晶
(1) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2】
六角柱状や平板状の結晶をしている点は一般的な水晶と同じだ。中ほどから根元
にかけ、”雲”が入ったような気泡が見られる。柱面には、細かな水晶が見られ、”子
持ち”になっているものもある。
表面には”負晶”や”初生鉱物が溶けてできたと思われる”切れ込み”があり、複雑
な地質変動を受けながら誕生したことがうかがえる。
実体顕微鏡の20倍で観察すると、インクルージョンとして、「緑泥石」と思われる緑
色、団塊状の小さな鉱物がかろうじて観察できる。
単晶 両錐
花仙山産水晶
5. おわりに
(1) 「出雲の水精玉」
2008年12月、千葉県佐倉市にある「国立歴史民俗資料館」で見た、出雲国計会
帳にあった「水精玉」がこのシリーズのキッカケになっている。
( Minerals of National Museum of Japanese History , Sakura City , Chiba Pref. )
益富先生(もともとは、エレキテルで有名な平賀源内)の説に疑問を持った。その後、
「人国記」を読み、日本では、現在われわれが水晶とよぶものを既に奈良時代には
「水精」と呼び江戸時代には「水晶」が使われていたことを明らかにした。
( Study on Naming of Rock Crystal and QUARTZ
based on "Jinkokuki & Shinjinkokuki ", Yamanashi Pref. )
花仙山産水晶製管玉
【「技術史の旅」から引用】
奈良の都に進上する「水精玉」を作れるような大きさの水晶が採掘できたであろう
ことも確証を得た。
千葉県に単身赴任してから1年になろうとしている。最初のころは月に1、2回甲府に
帰っていたのだが、3男夫婦と孫が近くに住んでいることもあって、最近の”農閑期”に
は、1、2ケ月に1回しか帰っていない。
駅周辺の再開発が進んでいる。
駅の北口にはコンコースができ、「宝石のまち・甲府」を強く意識したモニュメントや
宝石鉱物のディスプレイが眼を楽しませてくれる。
「クリスタルアース」と名付けられたモニュメントは、山梨県の伝統工芸を生かし、約
6,200ケの水晶で直径1.2mの球形の”かご”を作り、その中に約900ケのアメシスト(
紫水晶)で、”葡萄(ぶどう)”をイメージした円錐形が収まっている。
毎時や特殊な印伝のストラップをかざすと、音と光も楽しめるようだ。
モニュメント 宝石鉱物展示
甲府駅北口 コンコース
6. 参考文献
1) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
2) 益富 壽之助:鉱物 −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
3) 飯塚 一雄:技術史の旅,株式会社 日立製作所,昭和60年
4) 富田 徹郎:卑弥呼と神武天皇,フジテレビ出版,1995年
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