岐阜県中津川市狩宿川の希元素鉱物

    岐阜県中津川市狩宿川の希元素鉱物

1. 初めに

   加藤・松原・野村先生共著の「鉱物採集の旅 -東海地方をたずねて- 」に
  「岐阜県苗木地方の鉱物(1)」の章があり、岐阜県中津川市鉱物博物館近くを
  流れる関戸川の川砂の中から、小型のトパーズや錫石などが採集できる
  とある。
   この近くを流れる狩宿川でも、15年ほど前にトパーズを採集したことがあり
  ”オパールの女王” こと、愛知県の石友・Kさん夫妻に産地を教えたが
  「 採れなかった 」との残念メールをいただいた。産地が変貌し、もう採れなく
  なってしまった古い場所を教えたのではないかと、永らく気にかかっていた。
   2005年ミネラルウオッチング納めの一環として、狩宿川を訪れ、雪が舞う中
  1時間足らずのパンニングで、トパーズやゼノタイムと平行連晶をなす変種
  ジルコン(苗木石)、そしてウラノトール石(恵那石)など、苗木地方にちなむ
  希元素鉱物を確認できた。
   Kさん夫妻に産地の写真と共に結果をお知らせしたところ、『 訪れた場所が
  違うみたいで、妻が地団駄踏んで悔しがって、それが名古屋で震度4になった』
  と冗談混じりの返事をいただいた。
  ( この時、たまたま名古屋地域で震度4の地震があった )
   産地は今も健在で、ジルコンなど希元素鉱物は「木積沢」よりも量的に多い
  感触で、暖かくなってからの再訪を楽しみにしている。
   ご一緒いただいた愛知県の石友・Sさん一家に御礼申し上げる。
  ( 2005年12月採集)

2. 産地

    ここは有名な産地で、中津川市鉱物博物館主催の観察会が開催されたとも
   聞いているので、詳細は割愛します。

3. 産状と採集方法

   花崗岩ペグマタイトにあったトパーズ、希元素鉱物などが花崗岩の風化・崩落で
  川に流され堆積した、1種の漂砂鉱床と考えられる。

    狩宿川【20cmを超える積雪】

   ここでは、スコップで川底の土砂を堀り起し、フルイに入れ、川の中でふるうか
  パンニング皿に入りパンニングするかで、鉱物採集につきもののハンマは全く
  不要である。
   パンニングのほうが小さなトパーズまで見逃すことが少ない。小さなものが
  ほとんどの希元素鉱物を探すには、パンニングが最適である。

    フルイ掛けするS夫妻

4. 産出鉱物

 (1)トパーズ(黄玉)【Topaz:Al2SiO4(F,OH)2】
    透明、ガラス光沢の柱状結晶で産し、稀に頭付きも見られる。大きさは、最大
   でも1cm程度である。トパーズの色は、文字どおり酒黄色〜薄い青〜透明 と
   各種あるが、ここのものは、ほとんどが透明です。

        
         全採集品               頭付き
                   トパーズ

    採集を始めて間もない人から、トパーズと水晶の違いがわからないと言う声を
   たびたび聞きますので、下の表にまとめて示す。


 項 目  ト パ ー ズ   水     晶    備  考
条線 柱面に縦に筋がある
 柱面に横に筋がある
 
 
へき開         ↑
     平坦(フラット)

 c軸(頭と尻の方向)に直角に明瞭で
割れ口は平坦
割れ口は虹色を示すことが多い

         ↑
      ギザギザ

なし
 割れ口はギザギザ

 
断面
(頭や尻から見た形)
 ひし形
 六角
 
屈折率 水晶より高く
キラキラした感じ
 透明度も高い
 白濁しているものが多い 
比重 水晶よりチョット重い感じ。
 パンニングすると
錫石や希元素鉱物などの
重鉱物と共に底に残りやすい
           - 

 (2)変種ジルコン/苗木石【Altered Zircon/Naegite:(Zr,Hf,Y)(Si,Nb,Ta)O4】
    「日本希元素鉱物」誌には、『色は褐黒〜濃緑色、錐面が大きく発達し
    柱面は次第に細くつぼまったもの、或はそれらが多数集合し、肉眼的には
    頭が円く仏頭状になった集合体などがある。単晶では、長さ5mm 径1mm
    ぐらい、集合体中の個体もやはり5mmほどである。時に恵那石【著量のウラン
    と希土類元素やリンを含むウラノトール石:Uranothorite】を伴うことがあり
    両者は平行連晶する。
    ・・・苗木石薄片にはコルンブ石(サマルスキー石?)が嵌在しており・・・・・』

    とある。

     灰褐色〜緑色、ガラス〜油脂光沢で、錐面と、稀に柱面がみえるもの
    がある。写真のものはいくつかの結晶が集合したもの(集合体)で、ゼノ
    タイム【Xenotime-(Y):YPO4】と平行連晶をなし、反対面(右下)には陣笠状の
    ゼノタイムが見られる。
     まれに、球顆状のものも見られる。
     小一時間の採集で小さなものまで含めれば10ケ程度あり、「木積沢」で
    3日間で3粒しか採集できなかったことを考え合わせると、量的には多いと
    考えられる。

     苗木石【ゼノタイムと平行連晶をなす】

 (3)ウラノトール石/恵那石【Uranothorite:(Th,U)O2・nSiO2・2H2O】
     かつて、粟津秀幸氏によって ”橙黄石(Orangite)” と名付けられたこと
    からも分かるように、橙赤〜橙黄色で樹脂光沢を示し、錐面の発達した
    四角柱状結晶で正方晶系の晶癖を示す。トール石【Thorite:ThSiO4】の
    柱面に平行に結晶している。
     重鉱の中に、橙赤〜橙黄色の破片で「柘榴石」とも鑑定しかねるものが
    見られ、これもウラノトール石(恵那石)と思われる。

         
   トール石と平行連晶をなす            結晶図
                 ウラノトール石/恵那石

 (4)鋭錐石【Anatase:TiO2】
     黒鋼色、ピカピカの金属光沢をし、錐面の発達した”槍状”で産する。柱面
    に横の条線がある。
     今回採集できたのはこの標本1つのみであり、産出量は多くない。

     鋭錐石

 (5)モナズ石【Monazite-(Ce):CePO4】
     黄褐色、板状結晶で産する。破損したものがほとんどで、頭付き結晶は採集でき
    なかった。

     モナズ石

 (6)褐簾石【Allanite-(Ce):(Ca,Ce,Y)2(Al,Fe,Fe''')3(SiO4)(OH)】
     真っ黒いガラス光沢、柱状〜板状で産する。表面は変質し、ややガサ
    ガサになり光沢が失われているものが多い。

     褐簾石【柱状結晶】

     このほか、鉄コルンブ石、鉄マンガン重石、錫石などが採集でき、量的に
    多いのは錫石で、重鉱の90%以上を占める。

5. おわりに

 (1) 奈良県の石友・Yさんが「2005年に何回か苗木地方を訪れ、満足のいくトパーズを
    採集できた」 と、2005年秋のミネラルウオッチングの宿で採集品を見せてくれた。
     Yさん自身、「 縦に条線、と言われても、自分で手にするまで解らなかった 」と
    しみじみ話していた。

    『 習うより慣れろ 』 の世界ですね。

 (2) ものの1、2kmしか離れていない関戸川に比べ、トパーズは小さいが量的には多く
    希元素鉱物の種類と量も、今まで訪れた(パンニングした)苗木地方の産地の中で
    一番多いように感じられた。
     水がぬるむころ、再訪を考えています。

 (3) 15年ほど前、ここを訪れた時には、フルイ掛けで採集したガラス状の鉱物を見て
    水晶とトパーズを区別するのがやっとだった。
     今回、パンニングによって、トパーズだけでなく各種の希元素鉱物を採集する
    ことができ、この間に大勢の石友、文献、情報に教えられたことを改めて感じた。
     2006年も新たな産地、鉱物そして石友との出会いを楽しみにしている。

6. 参考文献

 1)加藤昭、松原聡、野村松光:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
 2)長島乙吉・弘三:日本希元素鉱物,長島乙吉先生祝賀記念事業会,1960年
 3)松原聡:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
inserted by FC2 system