石川県小松市尾小屋鉱山金平坑の鉱物

      石川県小松市尾小屋鉱山金平坑の鉱物

1. 初めに

   「加賀・能登の鉱物を訪ねて 第2弾」の初日が無事終わり、名古屋のSさん一家が
 開拓してくれた小松市内の高級、格安ホテルに投宿した。街中での夕食の後、ロビーを
 お借りして恒例の「標本玉手箱」と懇親会が始まった。
  始まって間もなく、今回の案内役の1人、地元のYさんが、やおら取り出したのは
 ”尾小屋鉱山金平坑の紫水晶”であった。1つの水晶が枝分かれし4〜5cmの水晶が
 4、5本族生し、しかも全て頭付き、欠けが全くない姿は見事であった。
 (クリーニングには、長い時間かけたらしい)
  その夜は、明日はこれを採集するかと思うと、興奮して眠れなかった。翌日、当日参加の
 奈良・Aさん、名古屋・Iさんも加わり、YさんとSさんの案内で金平坑で採集した。
  ここでは、”キャンドル・アメジスト”と呼ばれる紫水晶以外に、緑鉛鉱などの鉛・銅の
 2次鉱物も採集できた。
  案内いただいた、YさんとSさん一家に厚く御礼申し上げます。
  (2003年7月採集)

2. 産地

   いろいろなHPなどに掲載されている産地だと思いますので、詳細はそちらを
  参照してください。

   「日本鉱山総覧」によれば、金平鉱山は金山として元禄(1700年頃)のころ発見され
  加賀藩時代には、民営、官営として大規模に稼行された。
   明治維新後、金平集落で共同権利を得て、住民が随意に採掘し、この間に乱掘した
  旧坑は無数にある。その後の鉱業権者は、富鉱に恵まれることがなかったが、昭和8年
  (1933年)ようやく金鉱194トン、銅鉱4トンを産出し、準重要鉱山となった。
   翌昭和9年(1934年)に減産し、その地位を失い、翌10年(1935年)金銀鉱725.4トン
  銅鉱24.6トンを産出し、再び準重要鉱山に返り咲いた。
   「日本鉱産誌」によれば、尾小屋鉱山と合併し、その支山となったのが、産出量が
  激減した昭和9年(1934年)であった。
   金平鉱山は、石英粗面岩の裂罅(割れ目)を充たす含金銀石英脈で、金の品位は
  7〜10g/トンであったが、金山の常として、下部は鉛・銅・亜鉛鉱、さらに銅鉱に移行
  していた。

3. 産状と採集方法

   ここは、金平金山(後に尾小屋鉱山金平坑)の一部で、古い竪坑や坑道(何れも陥没)
  が各所に残されています。この付近には、選鉱場があったと思われ、ズリが広い範囲に
  広がっています。
   採集方法は、次の3通りです。
   @表面採集・・・・・・・・緑鉛鉱の母岩付きや分離結晶はズリの表面を”舐める様に”
                見て周りながら採集する。分離結晶を採集するのには「ピンセット」が
                あると便利
   Aズリを掘る・・・・・・・2年前に兵庫県のNさん夫妻に初めて案内して頂いたときには
                紫水晶がズリの表面に点々と見られたのですが現在では少なく
                なっているので、紫水晶の良品を探すにはある程度ズリを掘る
                必要がある。
                (もっとも、Yさんが見つけたのは、表面採集だったらしい・・・・・・)
   Bパンニング・・・・・・・表面は雨に洗われ綺麗なズリ石も一皮下は粘土質の土砂で
                ドロドロに汚れていて、緑鉛鉱の母岩付きや単晶を見つけるのは
                難しい。
                 ズリの土砂を土嚢袋に入れ、川まで運び、川の中で泥を落として
                母岩付きを探し、残った土砂をパンニングして緑鉛鉱の単晶(群晶)を
                採集する。
                 最初ここを訪れた時、バケツに水を入れてズリまで運び、ズリ石を
                洗いながら探したことがあったが、非能率なのでやめました。

      表面採集【撮影:滋賀Oさん】

4. 産出鉱物

 (1)紫水晶【Amethyst:SiO2】
     ここの紫水晶は、オークションに”キャンドル(ロウソク)・アメジスト”と称して出品されて
   いるように、ハッキリした六角〜円に近い断面で中太、表面には小さな水晶が生えた
   ”子持ち水晶”状になっているものも多い。
    全体に色は薄く、母岩に近い根元の部分は濃い紫色で、先端が透明になっているものや
   その逆も珍しくありません。

           
            群晶              単晶
                   紫水晶

 (2)緑鉛鉱【Pyromorphite:Pb5(PO4)3Cl】
    緑鉛鉱というくらいですから、神岡鉱山産のもののように”緑色”が普通ですが
   ここでは”灰白色〜緑色〜褐色〜紫色”のものが産出し、緑色のものの方が稀です。
    光輝の強い、針〜マッチの軸ほどの柱状結晶が集合している母岩付きは美しい。
    以前は、3cm大の結晶が採れたという話も聞きますが、現在では1cmのものが
   あれば大きい方でしょう。
    量的には多く、1回のパンニングで、微細なものも含めると10g程度採集できます。

         
          母岩付き          分離結晶【パンニング品】
                  緑鉛鉱

 (3)青鉛鉱【Linarite:PbCu(SO4)(OH)2】
     青鉛鉱は、亜鉛・鉛・銅鉱床の酸化帯に産し、金平坑のズリで孔雀石と並んで
    良く目につく2次鉱物である。
     天青色、ガラス光沢で、母岩の空隙の中にはb軸方向に伸びた柱状〜薄板状の
    自形結晶も見られる。

     青鉛鉱

 (4)白鉛鉱【Cerussite:Pb(CO3)】
     ガラス〜金剛光沢の短柱状〜板状結晶で母岩の空隙に産する。

     白鉛鉱

 (5)孔雀石【Malachite:Cu2(CO3)(OH)2】
     石英(水晶)の晶洞にガラス光沢の針状結晶が球状に集合したものと皮膜状で母岩の
    表面を覆うものとがある。ズリに永い間あったものは、退色(いろあせ)しているのが
    1つの鑑定の目安です。

     孔雀石

 (6)このほか、閃亜鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱などの硫化鉱物が採集でき、2次鉱物として硫酸鉛鉱
   銅藍などが採集できるとの情報もあります。

5.おわりに 

 (1)金平坑周辺には、”狸堀り”を思わせる古い坑道や近世になって採掘されたと思われる
    コンクリートで坑口を塞いだ旧坑が数多く見られる。
    2年前には、鉱石の”搗き臼”も発見しており、元禄時代に開坑したことも納得できる。
    まだまだ、隠れたズリがたくさんあるような気がしている。

 (2)2年前、兵庫県・Nさんご夫妻に初めて金平坑を案内していただいたときには
    経験の浅い妻はもちろん、私も「緑鉛鉱」を採集するのに苦戦した。
     その理由は、次の2つであった。

    @母岩付き・・・・・・・どのような母岩に来るのかが分からない。
    A分離単晶・・・・・・・ズリの土砂と見分けがつかない。

     その後この産地を何回か訪れ、今では、苦労せずに探し出せるようになっている。
    鉱物採集では(も?)経験を積んで、”眼が慣れる”ことが大切なようです。

6.参考文献

1)石川県地方開発事務局編:石川縣地質鑛産誌,同局,昭和28年
2)石川県地方開発事務局編:石川縣地質図,同局,昭和26年
3)加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
4)澤田 久雄編纂:日本鉱山総覧,日本書房,昭和15年
5)日本鉱産誌編纂委員会:日本鉱産誌 T−a  主として金属原料となる鉱石
                 東京地学協会,昭和30年
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