千葉県鴨川鉱山の鉱物











            千葉県鴨川鉱山の鉱物

1. 初めに

   2000年ごろ、骨董市で千葉県「鴨川鉱山」の絵葉書を100円くらいの安い値段で
  入手したことがあった。千葉県に絵葉書に載るほどの鉱山があった、と知ったのは
  この時、初めてだった。その後、同じ絵葉書がネットオークションに出品され、既に
  持っている事は承知で、落札値 1,000円+送料+振込み料≒1,200円で入手した。

   某電子部品メーカーから招請をいただき、技術コンサルタントとして2008年1月
  千葉県に単身赴任した。
   赴任にあたり、「鴨川鉱山」の絵葉書があったことを思い出し、『絵葉書アルバム』
  をめくってみたが、探し出せなかった。千葉県関係の絵葉書では、何とか探し出せた
  「鋸山 石材切出シ」の1枚だけ持参した。

   「鴨川鉱山」絵葉書の絵は、”こんな海岸際に鉱山?”という思いとともに、記憶に
  残っていた。
   2008年2月初旬、単身赴任の”行状監督”に来た妻と、「ソーダ沸石」の産地である
  千葉県鴨川市八岡海岸を訪れた。千葉の石友・Yさんから聞いていた通り、ここでは
  「ソーダ沸石」以外に、「珪孔雀石」や「石膏」などが採集できた。

   採集できるポイントは狭い範囲で、そこはまるで”ズリ石”が積み重なった状態で
  青緑色の「銅の2次鉱物」とともに「石膏」が採集できた。「銅の2次鉱物」と「ソーダ
  沸石」の奇妙な組み合わせに違和感を覚えた。

   すぐ、ここに来る途中、この産地を俯瞰した風景が例の「鴨川鉱山」の絵葉書に
  そっくりなことに思い至った。
   ただ、ここで大きな問題が生じた。鴨川鉱山があったのは、インターネットで調べる
  と”貝渚(かいすか:インターネットに”かいすが”とあるが誤り)”という小字で、「ソーダ
  沸石」の産地は”太海(ふとみ)”とされていて、字名が違う。2,5000分の1の地図を見
  ると、”貝渚”は、海岸から4、500メートル内陸に入った場所で、絵葉書の光景と違う。

   鴨川市役所に行き、「鴨川鉱山」の位置について問い合わせすると、近くの郷土資
  料館の学芸員の方に聞いてくれた。詳細を知りたくて郷土資料館を訪れると、”貝渚
  ”は”岡貝渚(おかかいすか)”と”浜貝渚(はまかいすか)”があり、海岸近くが”浜貝
  渚”と呼ばれていたことが判り、これだとインターネット情報と矛盾しない。

  ( 【閑話休題】
    益富地学会館の「日本の鉱物」のソーダ沸石産地として、『八岡山太海』とある。
    ”山太海”も同じような意味の字名なのかと思っている )

   さらに、インターネットで、「ソーダ沸石」の産地を”貝渚”としているものもあり、「鴨川
  鉱山」がここにあった事が確認できた。

   絵葉書を入手した時点では、「鴨川鉱山」を訪れることはないだろうと思っていたが
  思いもかけず現地に立つことができた。これも還暦を過ぎた歳になって、千葉県に単
  身赴任したからであり、人生の不思議を感じている。

   鴨川市役所、郷土資料館の職員の方々と石友・Yさんに厚く御礼を申し上げる。
   ( 2008年2月採集 )

2. 産地

    「鉱物採集フィールドガイド」に掲載されている地図を引用させていただく。この
   本に稼働中とあった採石場も既に休止して久しいらしく、附近の様子はだいぶ変
   わっている。

       
            地図                 海岸
        【フィードガイドから引用】 
                      産地

       
          絵葉書                現況
         【探索中】 
                     鴨川鉱山

    絵葉書の「鴨川鉱山」は、現況に比べ”もっとコンモリした山(巾着山)”の麓、海岸
   沿いにあった、と記憶している。
    「鴨川鉱山」は、大正9年(1920年)まで稼行しており、戦後になって巾着山で採石
   が行われ、山の姿が一変してしまったようだ。

3. 産状と採集方法

   海岸の崖に、ズリ石と思われる茶褐色の小石が堆積した場所がある。ここでは青
  緑色の銅の2次鉱物や透明・薄板状〜針状の石膏が観察できる。
   熊手などでズリ石を掘りながら採集する。

     鴨川鉱山ズリ

4. 産出鉱物

 (1) 石膏【GYPSUM:CaSO4・2H2O】
     透明、薄板状や針状結晶の集合でズリ石の表面に見られる。
     輝銅鉱【CHALCOCITE:Cu2S】の硫黄(S)が、水分などで硫酸塩になって
    石膏が生まれたと考えられる。
     写真のように、『燕尾双晶(Swallowtail)』、日本では『矢筈(やはず)双晶』も見ら
    れる。

      石膏『燕尾双晶(Swallowtail)』

 (2) 珪孔雀石【CHRYSOCOLLA(Cu,Al)2H2Si2O5(OH,O)4・nH2O】
     青緑色、ガラス光沢の皮膜状でズリ石の表面に見られる。

      珪孔雀石

5. おわりに 

 (1) アタカマ石

     産地は、海辺から10mほどのところにあり、常時潮風が当たり、海が荒れた
    日には海水(塩水)がズリにかかることも考えられる。こうなると、銅の2次鉱物の
    1つ、アタカマ石【ATACAMITE:Cu2(OH)3Cl】が生成する必要条件は揃っているので
    期待して探した。それらしい標本を採集したのだが、確定するまでに至っていない。

      アタカマ石??

     このように、『 ○○の条件があれば、△△石(鉱)が来るかもしれない 』、と
    予想して採集する、『 待ち受け採集 』も、鉱物採集の醍醐味の1つだ。
     と同時に、鉱物についての愛着(知識)を深めるのにも役立つようだ。

 (2) ハンマの封印

      千葉に来て2週間、落ち着いたころに、ご当地の石友・Mさんから次のような
     メールをいただいた。

      『 はやくも、ハンマーの封印はハズレたのでしょうか? 』

      『 再びハンマに封印して 』、と悲壮(?)な決意で山梨県を後にしたが、来て
     みて、ミネラル・ウオッチングを中断したからといって、仕事がうまく行くわけでも
     ない、と悟った。
      ( 当然、”逆も真なり” )

      千葉での生活、その中で大きな比重を占める”ミネラル・ウオッチングを存分
     に楽しもう、と考えを改めた次第である。

 (3) 資料の管理
      大宅壮一の娘・映子さんと誰だったか(仮にA氏)の対談を読んだことがあった。
     大宅壮一が亡くなった後、映子さんが、蔵書を整理したところ、同じ本が出てき
     たので、「晩年の父は、既に持っていることを忘れて同じ本を買っていた」、と思
     ったらしい。
      これに対して、同じ文筆業のA氏は、「同じ本があると知っていても、膨大な蔵
     書の中から探し出すより、買った方が筆が進む」と言っておられた、と記憶して
     いる。

      私が、2枚も「鴨川鉱山」の絵葉書を買った言い訳である。

6. 参考文献 

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 2) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 3) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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