石川県七尾市の海緑石

       石川県七尾市の海緑石

1. 初めに

 『2004年 鉱物採集納め -Part2- 能登・加賀の鉱物』の採集旅行の時に、石川県の石友
Yさんから地元・七尾市黒埼産の「海緑石」を戴いた。

    
         海緑石
     硫化鉄鉱(黄鉄鉱?)と黒雲母(緑泥石?)を伴う

 それまで、「海緑石」の名前すら聞いたことがなく、Yさんには申し訳ないが正直言って
その有難味も良く分からなかった。
 正月休みに鉱物・鉱山関係の古書を探していると、昭和初期の岩波講座のシリーズで、
八木次男著「海緑石」があったので早速購入した。
 別な本を読むと、海緑石は、「琥珀」の産出にも密接に関係していることがわかった。
 これらの文献を読んで、「能登産の海緑石」が貴重なものであることを改めて認識する
とともに、前の「セラドン石」のページに続いて、地味な鉱物を見直す契機となった。
標本を戴いたYさんに、厚く御礼を申し上げます。
 以下、八木先生の論文を紹介します。
(2005年2月調査)

2.海緑石とは

 「海緑石」(Glauconite)は、1828年にケファースタイン(Keferstein)によって命名され
1855年にエレンベルヒ(Ehrenberg)によって初めて研究された。
 その分布は、カンブリア紀から現在までの堆積岩、特に海底のみの堆積物中に限られ、現在も
生成されつつある。
 この鉱物は、鉱物学的には、成分および諸性質が緑泥石および雲母族のそれに類似している。

(1)本邦海緑石の分布
    本邦の海緑石の分布は、白亜紀から新第三紀の地層で、地理的には樺太から北海道、本州
   九州、南は台湾までのある種の海成層中に見られる。
   (この本が書かれた昭和7年には、樺太、台湾も日本の領土であった。)
    本州における中新期層の海緑石は、北は青森県鰺ヶ沢付近より秋田、山形、南は能登に至る
   油田の下部層に発見される。

(2)現世海底における海緑石の分布
    現世の海底に於いて生成しつつある海緑石は、次の3種の堆積物の中に存在することが
   知られている。

   @藍泥中       極めて少量にして、化石の殻を充填するものと結粒状海緑石および
                鉱物粒を置換するもので、燐鉱物の結顆を伴う。

   A緑泥および緑砂中  粒状をなし、あるいは化石空隙を充填しており、一般に緑砂中に
                おける量は緑泥中のそれより多い。

    これらの、含海緑石の堆積物は、北緯40度付近から南緯40度付近の陸地周辺において
   発見され、その深さは82m〜1830mである。
    その分布は、下図のようになっている。

     海緑石分布

3. 緑石の堆積環境

   海緑石の生成する環境は、寒流と暖流の合流点付近であり、陸成的堆積物の堆積速度が
  速やかでなく、海流も緩慢である。海底温度は3〜15℃である。

4. 海緑石の物理的性質

   海緑石砂岩および頁岩あるいは石灰岩を肉眼や顕微鏡で精査するとその形態を次のように
  分類できる。

(1) 結粒状海緑石(Glaanular Glauconite)
     比較的大きな(1.3〜0.2mm)粒状をなし、葡萄状または乳頭状表面を有する楕円体
    扁平楕円体および円盤形などである。
     楕円体の長軸方向は、砂岩、頁岩の成層面と一致し、これらが堆積した当時、結粒状
    海緑石は既に定形を有し、水の淘汰作用を受けた事実を示していある。

(2) 集粒状海緑石(Globular Glauconite)
     小さい粒や不定形小粒状の海緑石で、単独の小球として存在することがあり、互いに
    連接集合して不規則な形を呈することもある。

(3) 色素性海緑石(Pigmental Glauconite)
     判然とした輪郭を示さず、基質物に漸移し、または石英、長石および他の砕屑物の
    周囲を取り囲むこともある。
     常に珪質あるいは粘土質の基質物中に色素性に存在し、少量ながらどの産地のものにも
    発見される。

(4) 砕屑物化石の間隙に発達する海緑石(Infilling Glauconite)
     本邦含油層中の石灰岩、石灰質砂岩、頁岩中に、縷々発見される。化石の間隙を満たす
    ものは、海綿の骨針、または放散虫の珪質化石の空隙を満たしており、前者は最も普通に
    見られる。
     石灰質の化石では、雲丹(ウニ)の管、有孔虫などの間隙に存在する例が多い。

(5) 砕屑物化石を置換する海緑石(Substituted Glauconite) 
     最初化石や鉱物の間隙に発達したものが、漸次その周囲を冒して拡張するに至った
    ものである。このような例は、鉱物においては長石に見られる。

5. 化学的性質

(1) 化学成分
     化学成分に関する定説なく、種々なる異論がある。その主因は、大きな単一結晶がなく
    常に微晶集合の細粒のため、純粋な資料を得るのが困難に起因すると思われる。
     化学式は、次のように示されるべきであろう。

     (K,Na)2O・4((Fe,Ca,Mg)O,(Al,Fe)2O3)・10SiO2・4H2O

6. 海緑石と他の鉱物の関係

(1) 海緑石と共存する砕屑物との関係
     海緑石と共存する砕屑物は、普通の砂岩および頁岩に見られと同様に石英、長石が
    その大部分を占め、長石は斜長石が多く、正長石は一般に稀である。
     砕屑物のうち、海緑石と特殊な親和関係にあるのは、長石類で、長石類が海緑石に
    よって置き換えられた如き例が多く、全く海緑石にに変化せるものがある。

(2) 海緑石と化石との関係
     化石での海緑石と密接な関係があるのは海綿の骨針で放散虫の遺骸はこれに次ぎ
   珪藻が海緑石化したものはほとんど例を見ない。

(3) 海緑石と新生鉱物の関係
     海緑石と共存する海底の新生鉱物は、硫化鉄、方解石、菱鉄鉱および緑泥石などで
    ある。これらのうち、海緑石の包嚢物としては存在するものは、硫化鉄の微球体または
    その微晶体である。
     方解石が包嚢物として存在することは稀である。硫化鉄は、海緑石化作用の完成前に
    泥土中に存在したものと海緑石化と同時期と見なして得るものとがある。

7.海緑石の成因的考察

(1) 海緑石の成因
     海底堆積物中の細粒泥土より変質したものと認められる。

(2) 生成環境
     泥土が海緑石に変化するには、多量の礬土の除去と加里および鉄の添加が必要で
    あるが、この作用は地上のラテライト化作用とは、全く反対である。
     マーレー(Murray)やコーレ(Collet)らは次のように説明している。
    泥土中の鉄が有機物の分解および硫化塩の還元によって生ずる流化水素に作用せられて
    硫化鉄となり、その酸化によって生じる硫酸によって泥土が分解せられ礬土を失い
    残留する珪酸が鉄と作用して海水中より加里をとって、海緑石を生ずる。
     ゴールドマン(Goldmann)は、硫化鉄が珪酸と結合して加里を海水中より取るもの
    とし、クラーク(Clark)は、海緑石生成最期の反応は水酸化鉄が加里および珪酸を
    吸着する作用と論じている。
     ハンメル(Hummel)は、ばん土が除去されて、加里、鉄の集中する作用を有機物の
    分解作用に帰しており、カユー(Cayeux)は、海緑石生成を鰓状鉄鉱の成因と対比し
    バクテリアの作用と述べている。

8. おわりに

(1)スレブロドリスキー著「こはく」を読むと「海緑石」に関する次のような記述がある。
   (翻訳が悪く、私なりの解釈を(?)に示しています。)

   『こはくを含有する沈殿物(堆積岩?)の大きな特徴は、その中にかなりの海緑石が
   あることである。そのお陰で、こはくの地層は、緑青色の色調をしており、それは
   "空色の土地"と名付けられている。
    海緑石のあるこはく鉱砂(砂鉱?)は、細工物に使用するこはくの主要な原材料(?)
   である。
    こはくと海緑石が一緒にあるということは、この二物質の形成が同じであったり
   また同じ条件で行われたと言うことである。』

(2)能登を代表する鉱物の1つである「海緑石」をいただき、今回も地味な鉱物を見直す
   契機となった。
    Yさんに、重ねて御礼申し上げるとともに、春になって雪がとけたら、産地案内を
   お願いしようと考えています。

9. 参考文献

1)八木 次男:海緑石,岩波書店,昭和7年
2)スレブロドリスキー著、岡田 安彦訳:こはく,新読書社,2003年
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