山梨県下部町(現身延町)岩欠のぶどう石

     山梨県下部町(現身延町)岩欠のぶどう石

1. 初めに

   その昔、山梨県が甲斐國といわれた頃から、山梨の名産は、「ぶどう」と「水晶」
  と言われていた。最近でこそ、「ぶどう石」といえば、島根県美保関町古浦ケ鼻
  (こうらがはな)にその座を奪われてしまった感がないでもないが、昭和の末までは
  山梨県下部町(現身延町)岩欠(いわかけ:杉山とも呼ばれていた)で産するものが
  最も有名であった。
   「ぶどう」で有名な山梨県で、珪酸塩鉱物の一種である「ぶどう石」が産出する場所が
  ある、と知り、平成元年(1989年)、山梨県に転勤になるとほぼ同時に初めて訪れた。
  2002年に、約10年ぶりに訪れた時にも、ぶどう石などを採集することができた。
   2006年5月に、月遅れGWミネラルウオッチングに参加する兵庫県の石友・Nさん
  夫妻を案内して約4年振りに訪れたが、500円硬貨大の標本を1つ発見できただけで
  ”ほぼ絶産”状態であった。
   2002年に訪れた時も、この産地の成り立ちからして、絶産が近いことが予感された
  のだが、現実になってみると寂しいものがある。

   << 後日談 >>
   「標本玉手箱」と並んでミネラルウオッチング恒例となっている「オークション」の部に
  東京の石友・Mさんが数年前に採集したという「岩欠(杉山)のぶどう石」を出品してくれ
  たが、Nさん夫妻は残念ながら落札できなかった。

   ”絶産”となると、待ち構えたようにオークションに売り出す輩がいるので、折をみて
  新産地を開拓したいと考えている。
  ( 2002年6月採集 2006年5月再訪 )

2. 産地

   国道300号線を下部町(現身延町)に向かって走ると、「常葉(ときわ)トンネル」が
  ある。これを抜け、すぐに「常葉駐在所前」の信号を右に折れ、栃代(としろ)川に
  かかる「宝運橋」を渡り突き当りを右折すると、道は常葉トンネルの出口で、国道を
  跨ぐようになる。
   栃代川の上流に進むと岩欠の集落があり、ここを抜けると二又になり「有明寺入口」
  バス停がありここを右に約200m行くと「杉山橋」があり、これを渡ると左側に
  駐車スペースがある。
   ここから急な崖を下り、橋より上流側、両岸の河原の転石が産地です。
  ここは、先ほどの二又を左に行った道路の拡張工事の際に、切り崩した崖から
  産出したズリを捨てた場所と言われている。

    「ぶどう石」産地

3. 産状と採集方法

   転石にぶどう石の脈があり、その晶洞部分に、球果状をした結晶の集合体が
  ある。
  ぶどう石を含む脈のの部分をハンマとタガネで掻き採ります。

    採集風景【頭上に杉山橋が見える】

4. 産出鉱物

 (1) ぶどう石【Prehnite:Ca2Al2Si3O10(OH)2
     安山岩の晶洞に、濁沸石や方解石を伴って、球果状をした結晶の集合体で
    産出する。
     白〜淡緑青〜灰色まであり、特に淡緑色半透明のものは、マスカットを思わせ
    「ぶどう石」の名付けられた所以がわかる。
     晶洞部分には、方解石が結晶している場合もある。

     ぶどう石【2002年採集品】

    玉髄(メノウ?)や脈状の濁沸石は現在でも採集できる。

5. おわりに

 (1) 2002年に訪れた時、ぶどう石を含む転石そのものが少なくなり、幻の産地になっ
    てしまうかも知れない、と感じていたが、その予感通りとなった。

 (2) ここのぶどう石は、先に述べたように、近くの道路拡張工事のズリ石の中に含まれ
    ていたもので、工事箇所付近を何回か探索したことがあった。
     切り崩した崖には、コンクリートが吹き付けられ、その周辺の露頭では「ぶどう石」を
    含む部分を発見できなかった。
     あれだけ産出したのだから、脈の続きや転石の一部がどこかに眠っていそうな気が
    するのだが・・・・・・・・・・。

6. 参考文献

 1)西宮 克彦編著:山梨の自然をめぐって,築地書館,1984年
 2)山田 滋夫:日本産鉱物 五十音配列産地一覧表,クリスタル・ワールド,2004年
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