栃木県板荷鉱山の鉱物

    栃木県板荷鉱山の「サファイア」を求めて

1. 初めに

   栃木県鹿沼市の板荷鉱山があり、加藤、松原両先生の「鉱物採集の旅-東京
  周辺をたずねて-」に詳しく、記述してある。
   また、草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」にも 『コランダム』 の産地の
  1つとして、地図入りで紹介されている。

   2005年に知り合った石友・栃木県のSさん一家の娘・Yさんの誕生石がサファ
  イアということもあって、「サファイア」を求めて、板荷鉱山を5年ぶりに訪れた。

   宮城県の石友・Kさんとメールのやり取りをしていて、Kさんが言う「坑口」を見た
  記憶がないことから、2002年に訪れたのは、サファイアや自然銅の産出が報告
  されているズリや露頭とは違う場所だったことに気づいた。
   Kさんから詳細な案内地図と産地の写真を送っていただき、迷うことなく「坑口」を
  発見でき、広い範囲を探索してみた。

   しかし、目玉のコランダム(サファイア)はダメだったが、紅柱石、輝水鉛鉱そして
  鉄重石など、この産地の代表的な標本は採集できた。
   いつか、「サファイア」を探し出したいものと、念じている。
  ( 2007年3月採集 )

2. 産地

   東北道鹿沼ICでおり、小来川に向かって走ると有名な板荷の集落の次に木戸
  ケ沢の集落がある。バス停「唐沢」の約100m先を左に曲がり、「堂坂(どうざか)
  橋」(フィールドガイドには「堂沢橋」)を渡り、右に曲がり、約450mで「林道狢穴・梅
  の木沢線」に入る。
  ( 2002年にあった、林道の標識は2007年には見かけなかった )
   高藤神社の後ろを通り、沢を渡り、林道の入口から約1.3kmで橋の手前に駐
  車スペースがある。
   産地については、草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」に詳しいので参考に
  されたい。

3. 産状と採集方法

   板荷鉱山は唐沢鉱山同様に、花崗岩の貫入に伴った、典型的な気成鉱床とい
  われ、唐沢鉱山が花崗岩中に鉱脈が発達しているのに対して、板荷鉱山は、粘
  板岩と花崗岩の接触部に鉱物が濃集している。
   また、唐沢鉱山が蒼鉛(ビスマス:Bi)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの
  重元素を含む鉱物が採集できるのに対して、板荷鉱山は、アルミニューム(Al)
  硼素(B)、フッ素(F)など軽元素を含む紅柱石、トパーズ、蛍石などが見られるのも
  不思議というか、自然の妙である。

   尾根近くに露頭が続き、そこに坑口がいくつか観察できるが深さは浅く、試掘程
  度で、採掘は主に露頭から直接行われたものらしい。
   露頭の周辺には、ズリ石が散乱し、それらを叩いて採集する。

       
         坑口【Sさん母娘】              ズリ
                    板荷鉱山跡

4. 産出鉱物

 (1)紅柱石【ANDALSITE:Al2SiO5
     花崗岩の中に、細かい粒状やその集合で母岩を紅色に染めて産出する。
    あるいは、真っ白い石英塊の中に文字通り薄紅色の柱状結晶で産出する。
    柱状、とは言っても、「花園山」などの紅柱石に比べると「柱石」の名前を返上
    したくなるような代物である。

     紅柱石

 (2)輝水鉛鉱【MOLYBDENITE:MoS2
    花崗岩の晶洞部分や花崗岩の中に銀灰色鱗片状で産出する。

     輝水鉛鉱(A)

 (3)鉄重石【FERBERITE:(Fe,Mn)WO4
    黒色、板状結晶で花崗岩の中に産する。大きさは最大でも1cm程度

     鉄重石

 (4)自然銅【NATIVE COPPER:Cu】
     花崗岩の石英がやや多い部分に”赤銅色”、”微細な箔状”結晶が多数点在
    する。

     自然銅【Kさん恵与品】

     写真の標本は、宮城県の石友・Kさんからの恵与品で、Kさんも3回の訪山で
    2回しか採集できなかったという”希産”だけあって、われわれは採集できな
    かった。

5. おわりに

 (1)サファイア
     ここの目玉「板荷鉱山のサファイアを訪ねて」と題するページにまとめたが
    サファイはかすりもしなかった。
     Yさんも、持ち帰った”母岩”らしいサンプルを実体顕微鏡で穴が開くほど探
    したが、サファイアは見つからなかった、とメールいただいた。
     宮城県の石友・Kさんが「サファイの産状を教えて欲しい」というほどわかりにくく
    私自身、どのような母岩のどのような部分に出るのか、全く掴めていない。

     各種の文献やインターネットの情報では次のようになるらしい。

No     産    状    出     典
1紅柱石の間に薄くはさまって出る鉱物採集フィールドガイド
2 石英脈の小さな晶洞に
白雲母に埋もれ、輝水鉛鉱と
仲良く伴って、紙っぺらのように
薄い六角板状、淡青色の結晶で出る
3石英の中の白雲母に挟まれて産する
(サファイアと石英は接して産することはなく
間に白雲母を介する)
インターネット

     これらを参考に、再度チャレンジを考えている。

 (2) 採集に先立って、石友・Kさんから詳細な情報と標本を恵送いただいた。おかげで
    迷うことなく産地に到達でき、採集を楽しむことができた。Kさんに、厚く御礼を
    申し上げます。

     冒頭にも書いたように、過去に訪れたときには、今回と全く違った場所で採集
    していた。そこもズリらしく、「紅柱石」「輝水鉛鉱」などは採集できた。Kさんから
    送っていただいた地図には、別な場所にも坑口が書いてある。
     もっと広い範囲で探索すると面白そうである。

6. 参考文献

 1)加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅-東京周辺をたずねて- ,筑地書館,1985年
 2)草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
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