山梨県六郷町印章資料館

1.初めに

 2003年3月に、甲府市で開催された骨董市で水晶印材を入手し、5月にも何点かを
購入した。
 それらの内の何本かは、「角閃石」などのインクルージョンが入った山梨県産の
水晶の特徴を備えたものであった。
 山梨県甲府市の南に位置する六郷町の印章(ハンコ)は、100年の歴史を持ち
山梨県における生産量の70%、全国生産量の50%を占め、「日本一のハンコの町」
を誇っています。
 六郷町商工会館・地場産業会館の中に、「印章資料館」があり、館内には
様々な印材、印章の作業工程、完成した各種の印章そして印章にまつわる資料が
展示してあります。
 「印章資料館」で解説をしていて、昔は自身でも水晶印を彫っていたという人の
話では、HPに書いた私の予想に反して、インクルージョンの入った印材は、同じ物が
2個とないことから、特に珍重されたとのことであった。
 山梨県では、県立博物館の建設賛否が、2003年の県知事選の争点の1つでした。
解説をしている人は、『建物は造っても、収納するものが集まらないのでは・・・・』
と漏らしていました。山梨県の名産は、葡萄と水晶と言っても、古い水晶標本や
加工品は散逸してしまっていることを指しての発言でした。
 印材として水晶がもてはやされた時代はとうに過ぎ去り、今後作られることも
少ないので、私が入手した印材は、大切に保管していきたい。
(2003年4月訪問)

2.六郷町の印章の歴史

 六郷町のある河内地方は元々、藍の栽培と「岩間足袋」と呼ばれた足袋の生産に
生活の糧をゆだねていましたが、藍はインジコと呼ばれる化学染料の発達普及、足袋は
他府県の大量生産品に押されて、生活の基盤を奪われてしまった。
 困窮した農民や水運業者はこぞって、水晶の行商や篆刻業(ハンコ彫り)に転業して
いった。
 その足取りは、次のようであった。

明治30年(1897年)以降     行商人(六郷町)による売込み
                印材を中心とする水晶細工品全国に浸透。
大正7年(1918年)       ブラジルから原石輸入開始。
               六郷町の印材行商も第2次隆盛期を迎える。

 明治41,2年頃には、河内地方に第1回の水晶業の隆盛期を迎え、農閑期には
1000人を越える行商人が、全国津々浦々に至り、水晶加工品を売りまくった。
3. 「印章資料館」
 「印章資料館」は、地場産業会館の中にあり、その一角を占めている。
印章資料館【地場産業会館】
(1)印章の材料
   印章の材質には、各種のものがあります。
   @角類(黒水牛、オランダ水牛などの角)    A牙類(象牙など)
   B石類(水晶、瑪瑙、虎目石、ロー石など)
   C木・竹類(黄楊、黒檀、白檀、竹根、オノオレカンバなど)
   Dゴム
    などがあり、ご存知のように、象牙などは、ワシントン条約などの制約で
   加工・販売が制約され、シベリア産のマンモス牙など新しい素材を求めて
   模索しているようです。
  石類の印章材料
(2)手彫印章の作業工程
   水晶などの石類の印章は、タガネで荒彫りした後、最後の仕上げにタガネ平刀を
   小さなハンマで叩きながら使うそうです。
  水晶彫り
(3)印章関係展示
 「印章資料館」には、印章の材料、印章の完成品、中国の印章コレクター陳介祺が
 収集した、30挙191冊という最大無比の古銅印譜(古い銅製印を押したもの)
 などと共に、行商人が持参した印材のサンプルや各都道府県から交付された
 水晶行商鑑札が展示してあります。
  展示してある、水晶は、全てブラジル産だそうです。
  印章関係展示

  印材の展示品の中に、1点だけインクルージョンを含むものがあり、解説を
  している人に訊ねると、HPに書いた私の予想に反して、インクルージョンの入った
  印材は、同じ物が2つとないことから、特に珍重されたとのことであった。

4.「水晶印材」採集品

 2003年3月に引き続き、5月に私が骨董市で購入した水晶印材は、全部で5点でした。
   内訳は、紫水晶1点、透明1点、インクルージョン入り3点です。
   全ての印材には、前回買ったものと同じように、ラベルが付いています。

【No1】紫丸印
   前回購入したものより大きく、紫というよりピンク色に近い。
   「水晶宝飾史」によれば、明治末に山梨県での水晶採掘が禁止になると
    県外産の水晶を業者間で争奪したそうで、紫水晶は、次の2箇所のもので
   あった。
   @宮城県小原坑(雨塚山のこと)
   A鳥取県藤屋坑

   これは、紫色というより、品のあるピンク色に近いもので、いずれの産地の
   ものか、決めかねます。
紫丸印48mm【産地?】

【No2】透明角印
   何点かあった中で、傷、インクルージョンが殆どなく、透明度も高いので購入した。
   産地は、特徴がないので不明です。
透明角印36mm【産地?】

【No3】透明角印
   インクルージョンとして、水晶らしき結晶を含むものがあった。
   これも、産地の手懸りがなく、産地は不明です。
透明角印39mm【産地?】

【No4】透明丸印
   傷、インクルージョンが全くなく、透明度も高いので購入した。
   産地は、これも特徴がないので不明です。
透明丸印38mm【産地?】

【No5】草入り丸印
   角閃石と思われる草が入ったもので、向山産だろうと思います。
草入り丸印63mm【向山産?】

5.おわりに

(1)「印章資料館」があることは知っていましたが、湯之奥金山博物館や下部町の
   産地への行き帰り、いつもは素通りしていましたが、骨董市で入手した
   印材のことが知りたく、妻と二人で訪れました。
    HPに書いた私の予想に反して、インクルージョンの入った印材は、同じ物が
   2つとないことから、特に珍重され、貴重なものであることがハッキリした。
    そのような貴重な昔話をしていただいた解説員の方(お名前を失念)は
   80歳を越え、またお話をお聞きして、記録に残しておきたいと思います。
(2)開館日、開館時間は、次の通りで、入館料は無料です。
   平日   8:00〜17:00
   土日祭 10:00〜15:00

6.参考文献

1)六郷町役場:日本一のハンコの町 地場産業会館パンフレット,同町,2003年
2)山梨県水晶商工業協同組合編纂:水晶宝飾誌,甲府商工会議所,昭和43年
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