新潟県飯豊鉱山の鉱物

             新潟県飯豊鉱山の鉱物

1. 初めに

    2010年6月、福島県立博物館友の会の観察会が「新潟県阿賀町楢山」で日曜日に開催さ
   れる、と茨城県の石友・Tさんからメールがあった。参加資格を得るため、年会費2,000円を
   払い「友の会」会員になった。
    あそこまで日帰りで行くのはもったいないので、土曜日に福島もしくは新潟の産地を回る
   1泊2日のミネラル・ウオッチングを計画した。
    土曜日の朝、最初の観察地である「三川鉱山」を訪れると、既に先客が2名いた。向こう
   から、「MHですか?」、と声をかけてきた。その声の主は三重県の石友・Yさんだった。同行
   者は、北海道のKさんで、もちろん初対面だった。
    私の同行者は、2次鉱物には食指が動かないらしいので、早々にズリを後にすることにした。
   われわれが「飯豊鉱山」探査に行くことをYさんに伝えると、一度訪れているので案内して下
   さるとのことで、非常に心強かった。

    雨合羽に身を包み、ダムサイトから、道なき道を藪こぎしなら進むと、体中汗まみれになる
   のに、吹き溜まりには厚さ1m以上の残雪があったり、可憐なササユリが花を咲かせていた
   りと、春〜夏が一緒くたになっている。

       
           残雪               ササユリ
                   産地への道

    多少の事に驚かない私が、「ここを登るの!」、というような急な崖を直登することになる。
   その先のルートは筆舌に尽くしがたいが、何とかYさんが見覚えのある場所に到着した。そ
   こから探しだした坑口からは、肌を刺すような冷気が噴き出していて、眼鏡があっと言う間に
   曇ってしまうし、カメラも汗をかき、ひどい写り方だ。
    坑道は迷路のように前後左右斜め、そして縦に走っていて、限られたポイントでのみ「黄
   鉄鉱」や「ドロマイト(苦灰石)」が採集できるらしい。

    ライトに照らされて”キラキラ”と輝く「黄鉄鉱」には、私だけでなく皆さんから感嘆の声が上
   がり、「ドロマイト」の大きな塊には、どれを持ち帰るか、悩んでいた人もいた。
    登りと違ったルートで急な崖を下り、何とかダムサイトに到着した時は、毎日5km歩いてい
   る私ですら”バテバテ”気味だった。

    素晴らしい標本が採れる産地を案内していただいたYさんと、同行いただいた皆さんに
   厚く御礼申し上げる。
    ( 2010年6月採集 )

2. 産地

    ここは、数年前に「黄鉄鉱 巨晶」産地として脚光を浴びている有名産地なので、詳細は
   割愛する。
    産地はスリリングな箇所もあり、訪れるのなら、産地に精通したガイドのもと、体調を整え、
   万全の準備をして、事故がないようにしてほしい。

3. 産状と採集方法

    飯豊鉱山では、亜鉛、鉛をメインに、銅、鉄、炭酸カルシウムなどを採掘していたらしい。
   坑内の標識には、昭和30年代を示すものもあり、閉山時期は遅かったようだ。

    「黄鉄鉱 巨晶」の良品は、壁面から天井にかけて走る粘土脈の中に埋もれていて、脈の
   中から直接取り出すこともできるが、床面に堆積している青粘土の中から掘りだすのが楽
   だ。今回、フルイを持参し、水たまりでフルイ掛けした人は、1回に10個は採れたようだ。

    「ドロマイト(苦灰石)」は、鉱山が稼働中に崩した壁面の脇に山のようになっている中から
   好みのものを選んで、必要ならハンマーで”トリミング(整形)”するだけだ。

        
           「黄鉄鉱巨晶」             「苦灰石」
                      採集風景

4. 産出標本

 (1) 黄鉄鉱【PYRITE:FeS2
      金色、六面体のコロリとした単晶やそれらがいくつか組み合わさったものなどが見られ
     る。大きなものは、一辺が25mmのものもある。むしろ、15mm角程度のものに、結晶が
     シッカリしていて綺麗なものが多いようだ。

         
               母岩付き                 分離単晶
                          黄鉄鉱

      この産地の入り口には、赤谷鉱山があり、隣接する小岐鉱山で産出し「日本の鉱物」,
     に掲載されている「一見菱面体風」の黄鉄鉱のような面白い結晶形は見られず、ほとん
     どが単純な「六面体」だ。

 (2) 苦灰石【DOLOMITE:CaMg(CO3)2
      ガラス光沢、白色、半透明の菱面体結晶の集合として観察できる。方解石(石灰岩)
     【CALCITE:CaCO3】と菱苦土石【MAGNESITE:MgCO3】が合わさった鉱物と見ることも
     できる。

      採集ポイントの壁面全体が苦灰石で、晶洞部分に立派な自形結晶が観察できる。

         
                晶洞                  結晶集合
                          苦灰石

5. おわりに 

 (1) 念願叶った「飯豊鉱山」
      飯豊鉱山の「黄鉄鉱 巨晶」を初めて目にしたのは、平成16年(2004年)1月、鉱物
     同志会の「新年会バザー」だった。
      2cmほどの結晶が、2、3ヶビニール袋に入ったものが、100円で売られていたので、購
    入し、このときの様子をすでにHPに掲載した。

     ・平成16年鉱物同志会新年会
      ( New Year Meeting of Friend of Mineral in 2004 , Tokyo )

      飯豊(いいで)と聞くと、日本100名山の1つ『飯豊山』がある山形県飯豊町を連想する
     人がほとんどだろう。私も、標本ラベルを見て、新潟県にあった、と初めて知ったくらいだ
     った。

      単身赴任先にいるので飯豊鉱山の歴史、地質などについての学術的な資料を調べら
     れないが、インターネットによれば、昭和初期(1930年代)には、豪雪地帯ゆえ雪崩で鉱
     山で働く人々が多数犠牲になった悲しい出来事も繰り返されたようだ。
      ( 6月も末近いのに、1m以上も雪が残っている !! )

      「日本の鉱物」に掲載されている「ブルーあられ石」が産出した「赤谷(あかたに)鉱山」
     が近くにある。赤谷鉱山は、2005年10月に訪れているのだが、その奥の飯豊鉱山は、
     ”ルートが判りにくく、険しい””坑内が複雑で迷路のよう”、などと聞くだけで、尻込みし
     ていた。

      今回、一度訪れたことがあるYさんの案内で、産地を訪れることができ、産状を観察し、
     目的とした「黄鉄鉱巨晶」と「苦灰石」を採集でき、Yさんと同行いただいた石友に厚く御
     礼申し上げる。

 (2) 「ブルー霰石」の赤谷鉱山
      福島県立博物館主催の地学巡検の予定に、「赤谷鉱山」が入っているようだ。現在でも
     採れるとは思えないが、「ブルー霰石」を求めて、参加する積りでいる。

6. 参考文献 

 1) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石図鑑,北隆館,昭和48年
 2) 益富地学会館編:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 3) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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