(1)まだ訪れたことがない産地
@蛭川村一柳鉱山・・・・・・・・・・・恵比寿鉱山、遠ケ根鉱山の中間にあり、「試掘坑」の
イメージが強く、産出鉱物も遠ケ根と似ているらしい。
A中津川市狩宿川・・・・・・・・・・・トパーズが採れるらしい。
(2)研究資料の補充
@木積沢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「苗木石」の追加採集
(3)定番コース
@中津川市鉱物博物館・・・・・・・展示内容、販売図録・グッズのチェック
まずは、行ったことがない産地を優先し、一柳鉱山を訪れることにした。兵庫県の石友・Nさん
夫妻もご一緒することになった。
蛭川村周辺を広く探索している石友・Mさんに一柳鉱山について聞くと、「訪れたことがない」
とのことで、産地、産状、産出鉱物も分からない状態で訪れた。一柳鉱山は、試掘坑にしては
規模が大きく、ズリ、何本かの坑道そして露頭が残されていた。
ここの目玉は 「亜砒藍鉄鉱」 だと、Nさん夫妻にお会いして初めて知った有様で
聞いたことも見たこともない鉱物を探せる訳がなかった。「亜砒藍鉄鉱」の”藍”に惑わされ
”青紫の皮膜”のついた砒鉄鉱(硫砒鉄鉱?)を大事に持ち帰った。
「名古屋ミネラルショー」のHPにも書いたように、会場で「一柳鉱山の亜砒藍鉄鉱」を売って
いたが、会場の照明が暗いのと標本が小さく、ルーペで見ても、どのような色・形かも判らず
貧相な割りに値段も高かった( たしか 2,000円 )ので買うのを見送った。
このHPを読んだ滋賀の石友・Nさんから2005年初めに採集したという肉眼でも判る立派な
「亜砒藍鉄鉱」の標本を恵与いただいた。これを見て、改めて自分の採集品を見直すと
”藍鉄鉱”と思ったものは単なる”錆び”であった。しかし、砒鉄鉱と共生する石英の晶洞に
「亜砒藍鉄鉱」があることに初めて気付いた。
現物を一度見ておくことの大切さを改めて知った次第です。良標本を恵与いただいたNさんと
採集に同行いただいたNさん夫妻に、厚く御礼申し上げます。
(2004年8月採集)
一柳鉱山
↓
産地情報がなかったので、最初はズリを漁っていたが、坑口や露頭があるのに気付き
新鮮な砒鉄鉱標本を採ろうとして露頭を叩いた。結果的にはこれが正解で、砒鉄鉱の塊の
中に「亜砒藍鉄鉱」があった。
(1)亜砒藍鉄鉱【Parasymplesite:Fe''3[AsO4]2・8H2O】
最近では、パラ砒藍鉄鉱の呼び名のほうが一般的のようである。針状〜短柱状〜薄板状
小結晶の放射状集合体で産し、色は藍青〜淡緑青色(新鮮時)〜緑黒(風化後)でガラス光沢を
している。
砒鉄鉱と石英が絡み合った母岩中に小さな晶洞があり、その晶洞の壁を覆うように付いて
いる。
砒藍鉄鉱【Symplesite:Fe''3[AsO4]2・8H2O】とは同質異像(化学式(成分)は同じだが結晶の
形が違う)の関係にある。砒鉄鉱や硫砒鉄鉱の分解物として生成されるとされ、スカルン
鉱床にでるものと、気成鉱床にでるものがあるとされ、一柳鉱山のものはトパーズなどの随伴
鉱物からして後者である。
(2)スコロド石【Scorodite:Fe'''[AsO4]・2H2O】
砒鉄鉱のように砒素(As)を含む鉱物が分解してできる2次鉱物で、普通は皮膜状で産出
することが多いが、石英や砒鉄鉱の晶洞部分あるいは褐鉄鉱の上に、灰緑色(新鮮時)
〜黒色(風化後)をした自形結晶がみられることがある。
自形結晶は、錐面、庇面の発達が顕著で、柱面はあまりは成長していない。
(3)砒鉄鉱【Loellingite:FeAs2】
鉄と砒素からなる銀白色の鉱物である。硫砒鉄鉱と似ているが、やや白っぽいことや
黄鉄鉱【Pyrite:FeS2】と共生しないことで鑑定できる。
ここのものは、”塊状”で鉄マンガン重石を抱き込んだ形で産出する。硫砒鉄鉱も混じって
いる可能性もある。
(4)鉄マンガン重石【Wolframite::(Fe,Mn)WO4】
石英脈や砒鉄鉱の中に、黒色・板状の結晶として見られる。
このほか、輝水鉛鉱、錫石、トパーズ、鉄リチア雲母、蛍石、自然蒼鉛なども産出が
報告されていますが、今回採集できなかった。
(2)単なる試掘坑で砒鉄鉱が採れるくらいだろうと、あまり期待しないで訪れた産地であったが
「パラ(亜)砒藍鉄鉱」という珍しい鉱物を採集できた。
見本となる佳品を恵与いただいた滋賀・Nさん、採集に同行いただいた兵庫・N夫妻に厚く
御礼申し上げます。
(3)一柳鉱山は、遠ケ根鉱山などと同じように、今となっては、古典的な産地で、「鉱物採集の旅」
が出版された当時と今とでは産地の周辺は一変しています。この本には、亜砒藍鉄鉱が
採集できるとは、一言も書かれていません。
故櫻井欽一博士の『古泉に水涸れず』の感を一層深くしました。
(4)一柳鉱山で採集の後、蛭川村の「紅岩山荘」に宿泊した。少し温めのラジウム温泉を
浴びた後、地元の食材を生かした食事をいただきながらビールで喉を潤すと、日中の
暑さが嘘のようです。