神奈川県丹沢・ザレの沢のいぼ石(菫青石)

神奈川県丹沢・ザレの沢のいぼ石(菫青石)

1.初めに

  草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」に、『神奈川県西丹沢のベスブ谷』と題する1章が
 あり、白石沢のベスブ石と共に、『ザレの沢のいぼ石』が紹介されている。
  いぼ石は、菫青石が分解・変質し、真っ黒いホルンフェルス母岩の表面から突出したもので
 見るからに、おぞましい感じです。同じ菫青石でも、京都・亀岡のものは、”桜石”として
 持て囃されるのに、大違いです。
  しかし、西丹沢のスカルン鉱物の代表でもあり、「白石沢のベスブ石」観察の帰途に立ち寄り
 その産状を観察でき、有意義な産地巡検であった。
(2002年5月観察)

2.観察場所

  「鉱物採集フィールドガイド」の記述の通り、中川温泉を抜け、「用木沢出合」のゲートの
  手前に駐車する。ここから、舗装された道を白石沢に沿って上流に向かうと舗装も途切れ
  道路右に「スカルン鉱物産地」の由来の標識がある。

    「スカルン鉱物産地」標識

   標識は、文字が所々薄れている上に、3分割され、読み難いこと甚だしいが、デジカメ写真を
   合成してみると、大略次のような内容が書いてある。
   (□は、皆さんで埋めて見てください。)

   『神奈川県指定天然記念物
    西丹沢の菫青石及□□□及大理石
    昭和50年□月7日指定
    □□□足柄上郡□□□川尻□7の2の内
    所有者 神奈川県□生保□□林
    面積  915,312平方メートル

    丹沢の白石沢、ザレの沢一帯はおもに
    凝灰岩から変わった各種のホルンフェルス
    □□石灰岩起源の大理石がみいだされ、丹
    □□代表的接触変成帯である。□□□□菫
    青石やベスブ石などの珍しい変成鉱物を産す
    □ことで古くから知られている。
    ザレの沢の支流□ー□口沢菫青石を含む
    菫青石岩をみることができる。□石の名で
    しられている。丹沢産の含菫青石岩は
    □□石が直閃石又は黒雲母と共□することで
    極めて特異なものといえよう。
大理石は
    □□□は唯一のもので、4つの層準にわたっ
    □5枚認められる。主として方解石の□
    □からなる白色のものと、これに□□石、カ
    ミントン角閃石、普通□石などを混じえた
    □色のものに区別される。ベスブ石は、こ
    □大理石のうち白石の滝付近の白色大理
    石中にスカルン鉱物として産するもので
    □□石、モンチチェリ石その他共産する
    □□的稀な鉱物である上に赤褐色半透明の
    結晶として産出することで保存の価値は□□
    □□のと考えられる。これらの岩石、鉱物
    □□□白石沢、ザレの沢一帯の地域を□□
    □□として指定した。
     昭和51年1月31日
          神奈川県教育委員会

    やがて、道は踏み分け道程度の登山道となる。「白石峠」の表示に従って、白石沢を
   右に左に何回も木橋を渡り、やがて九十九折れの登り道となる。
    その登り口で、沢から離れるが、その沢が白石沢の支流のザレの沢である。砂防ダムの脇を
   通り、10分も上流に向かうと、左から勢い良く流れ込んでいるのが走水(やりみず)沢
   である。

    走水(やりみず)沢

    ここを、50mも遡ると、右側からチョロチョロと合流している沢が「鉱物採集フィールド
    ガイド」にある、「キンセイ沢」である。

3.産状と観察方法

  「キンセイ沢」では、ここのほかでは見られない、粘板岩が接触変成を受けてホルンフェルス化した
 真っ黒い転石が見られることがある。その表面には、”いぼ状”の突起があり、これが目指す
 ”いぼ石”である。
  いぼ石を含む層は、上流からの岩屑に覆われ、なかなか見つからず、一休みしていて、その足元を
 何気なく見たら、『あった!!』、という感じでした。

    いぼ石の転石

  

4.観察鉱物

(1)いぼ石(菫青石)【Iboishi , Cordierite:Mg2Al4Si5O18・nH2O】
     菫青石は、もともとその名の通り、すみれ色をした結晶であったが、変成を受け、雲母化
    した、と「鉱物採集フィールドガイド」に記述されていますが、ホルンフェルス自体が強靭で
    それらが長年の風雨、水流で洗い流され、雲母だけが突起として残ったとは、考えにくく
    別な鉱物の可能性が高いと予想しています。

    いぼ石

(2)緑簾石【Epidote:Ca2(Al,Fe)3(SiO4)3(OH)】
     ザレの沢で目につく鉱物は、淡緑色の緑簾石です。母岩の晶洞の中に短柱状・透明結晶が
    見られることがる。

    緑簾石

5.おわりに

(1)草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」に書かれた所要時間通り「ザレの沢」を遡ったところ
   一向にホルンフェルスの転石は見つからず、尾根が見える場所まで行ってしまった。
    産地の嗅覚に聡いMさんの、『登ってくる途中にあった沢では』、との一言で、慌てて下って
   観察できた次第です。
(2)「鉱物採集フィールドガイド」に記述された古典的な巡検地『神奈川県西丹沢のベスブ谷』を
   新緑の眩しい時期に訪れ、大自然を満喫することができた。

6.参考文献

1)草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
2)益富地学会館編:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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