茨城県希元素ミネラル・ウオッチングの旅

   茨城県希元素ミネラル・ウオッチングの旅

1. 初めに

   栃木県の石友・Sさん一家と湯沼鉱泉社長の仲立ちで知り合ったのは2005年
  8月だった。その当時小学生だった娘のYさんは、中学3年生になった。
   2008年3月、Yさんの春休みに、房総半島を巡るミネラル・ウオッチングをご一緒
  したのは既報の通りである。

   銚子で昼食の後、別れしな、Sさんの奥さんから『 Yが、希元素鉱物を採集したい
  と言うので、茨城県の産地を教えて欲しい 』
、と頼まれた。希元素鉱物は産地
  そのものが説明しても判りにくい上、鉱物はさらにわかり難い。
   「石(鉱物)なし県」でのミネラル・ウオッチングも一段落したので、いっそのこと
  案内するにして、「常陸太田市小妻(こづま)」と「高萩市大能(おの)」の産地を
  ご一緒した。
   『 希元素鉱物 大小シリーズ 』、である。

   2年ぶりに訪れた「小妻」の産地は誰も訪れた形跡がなく手付かず状態だったが
  「大能」の産地は最近誰かが訪れ掘り込んだ形跡があるものの、木々が生い
  茂り、あと数年もするとズリがあったことすら忘れ去られてしまいそうだ。

     大能ズリのYさん

   希元素鉱物には、『 ガイガー・カウンター 』があると採集、鑑定に便利で
  Yさんは自作してみたい、と意欲を燃やしている。私は昔、電子回路を多少かじっ
  ているので、アドバイスできれば、と思っている。
   ( 2008年5月採集 )

2. 産地

 2.1 常陸太田市小妻
     常陸太田市(旧里美村)小妻周辺には、ペグマタイトの採掘、試掘跡が数多く
    残っている。リチア電気石などリチウム・ペグマタイトで有名な妙見山もその1つ
    である。
     この産地もそれらの1つと思われ、産地には真っ白い石英塊や長石塊が木立
    の中にズリを形成している。
     ここは、茨城県の某氏に教えてもらったマル秘産地なので、詳細は割愛する。

      小妻のズリ

 2.2 高萩市大能
    茨城県北部には、長島 乙吉・弘三両氏の「日本希元素鉱物」に紹介された
   希元素鉱物が採れるペグマタイト堀場跡がいくつかある。
    その1つが、高萩市下大能(しもおの)ヒイシで、「乙吉氏が昭和13年(1938年)頃
   畑 晋、飯盛 武夫両氏と同行し、その時は露頭しかなく、小さなフェルグソン石を
   採集したのみであった。
    戦後、ここは開発され、昭和28年(1953年)乙吉氏らが木村 幹氏と訪れ、調査
   したところ、『 微斜長石中にサマルスキー石らしい鉱物、フェルグソン石、褐簾石
   変種ジルコン、モナズ石、そして緑柱石を採集した 』 とある。
    この産地には、愛知県の石友・KDさんと1998年12月に訪れたのが最初で、その
   後、私の茨城県への転勤に伴い身近な産地の1つになり、何回か訪れ、その度
   に各種の希元素鉱物を採集していた。
    しかし、2002年に山梨県甲府に戻ってからは、スッカリ足が遠のき、ここを訪れ
   るの2年ぶりだった。
    「日本希元素鉱物」には、いくつかの堀場が記載してあるが、今回私が採集した
   場所は「下大能ヒイシ」で、大きな堀場跡が残されている。
    しかし、産地は藪に変わりつつあり、近い将来、ここにペグマタイト堀場があった
   ことすら忘れ去られそうだ。

      
               ペグマタイト堀場                  産地
           【日本希元素鉱物から引用】            【2005年12月】
                                堀場跡
3. 産状と採集方法

   この地域のペグマタイト堀場では、肉肌色の微斜長石、真っ白い曹長石、石英
  (白、煙)、白雲母、黒雲母からなるペグマタイト脈の珪長石を採掘したと思われ
  る。
   「小妻」の産地では、鉄電気石を含む珪長石脈の電気石に伴うので、電気石を
  含む部分を露頭からハンマとタガネで掻き採る。現地では、粘土質の土にまみれ
  希元素鉱物を探すのは至難の業に近い。バラけて落ちたズリ石を土嚢袋に入れ
  沢まで運びパンニングする。このとき、露頭から採集したブロックを歯ブラシで洗い
  ながら、電気石表面と長石、石英との境目辺りをルーペで観察する。

   「大能」の産地では、ズリ石を土嚢袋に入れ沢まで運び大きな塊は歯ブラシで
  洗いながら表面をルーペで観察する。細かい土砂は、パンニングし、重鉱物だけ
  残し、それ以外は洗い流す。

     パンニングするS一家

4. 産出鉱物

                                            ◎:多い
                                            ○:普通
                                            △:まれ
                                           空欄:未確認

 鉱 物 名
 (英語名)
化 学 式  説    明採 集 標 本産地 備  考
小妻大能
フェルグソン石
(FERGUSONITE-(Y))
YNbO4  灰〜茶褐色の分解物に
覆われた四角柱状で
徐々に尖り(細くなり)
頂上部には四角い
平坦面が見られる
ケースもある。
    小妻では量は
多い

 強い放射能

ジルコン
(ZIRCON)
ZrSiO4  ガラス光沢、透明で
先端が尖った錐状
結晶の集合

 小妻のものには
油脂感のある
錐状結晶が菊花状に
集合したものもある。


  赤色透明宝石質【大能】


    菊花状【小妻】

 やや強い
放射能
ジルコン
(ZIRCON)
/変種ジルコン
(Altered Zircon)

 苗木石
 (Naegite)

(Zr,Hf,Y,etc)
(Si,Nb,Ta)O4
 緑褐色半透明柱状
結晶が平行連晶をなし
扇状に並ぶ
  
 やや強い
放射能
サマルスキー石
(SAMARSKITE-(Y))
(Y,Ce,U,Fe3+)3
(Nb,Ta,Ti)5O16
 黒色、ガラス光沢で
油脂感がある。
 塊状
   鉄電気石と
まぎらわしい
強い放射能
ゼノタイム
(XENOTIME)
YPO4  小妻のものは
灰褐色〜灰緑色の球状
で産する。
 大能のものは
ピラミッド状の
8面体で産し、
結晶形が教科書
通り。

ジルコンと平行
連晶をなすケースも
ある。


      球状【小妻】


      錐状【大能】

   
 ジルコンと平行連晶【大能】         




















 下側の柱状を
示すのが
ジルコンと
考えられる。

 外国には、柱状の
ゼノタイムもあるので
そうだとすると
ゼノタイム同志の
平行連晶

鉄コルンブ石
(FERROCOLUMBITE)
FeNb2O6  真っ黒い亜金属光沢を
示す板状結晶の集合で
産する。
  
モナズ石
(MONAZITE-(Ce))
CePO4  黄褐色透明〜半透明の
ガラス光沢を示す板状
結晶で産する。

  頭付き【パンニング品】
 
褐簾石
(ALLANITE-(Y))
CaYAl2
Fe2+(SiO4)
(Si2O7)
(OH)
 黒褐色亜金属〜樹脂光沢を
帯びた柱状結晶で産する。
  
磁鉄鉱
(MAGNETITE)
FeFe3+2O4  長石に挟まれ黒色
亜金属光沢の層状
〜塊状で産しまれに
八面体の自形結晶で
産する。
 強い磁性を示す。

 「日本希元素鉱物」に
”一本杉で美晶を産す”と
ある。


  八面体自形結晶【13mm】
  
鉄礬柘榴石
(ALMANDINE)
Fe3Al2(SiO4)3  大きなものは長石に
挟まれ黒色の層状
〜塊状で産し、まれに
結晶面が数面
見られる。
 小さなものは、
真紅、透明の
24面体で、表面に結晶
成長時の累帯構造を
残すものが多い。

 結晶面が数面見られる
      【20mm】


       ”刃状”結晶


     累帯構造を示す

  
鉄電気石
(SCHORL)
NaFe3Al6
(BO3)3
Si6O18
(OH)4
 長石の中に
柱状結晶として
見られる。
 希元素鉱物を
含まない部分は
結晶がシッカリ
しているが
多くは、ボロボロに
なりやすい。
 表面が白雲母に
覆われている
のも見られる

     母岩付き
   電気石と長石の
境界附近に希元素
鉱物が見られる。

4. おわりに

 (1) なぜ、希元素鉱物?
      私には多くの石友がいるが、『苗木石』など特定の「希元素鉱物」に興味を
     示す人はいても、これをメインに集めている人はいない。
      なのに、なぜ? しかも中学生が??、と思いYさんに聞いてみた。

      『 まずひとつは、まえにMHのホームページを見ていたときに、「お手製の
       ガイガーカウンターを持って」と書いてあったので、「へぇー、作れるんだぁ
       」と思い、自分でも作ってみたかった。
        それと、自分で作ったガイガーカウンターで放射線を検知してみたかった
       のとがあります。← 一番大きな理由です。

        もうひとつは、中津川で見てきた鉱物博物館の展示(ペグマタイトに放射
       性鉱物が含まれているので、中津川一帯は他の所より放射線量が多いと
       いうようなことが書いてありました)がずっと頭に残っていて、なんとなく
       それを思い返していたら、
「今年の夏休み自由研究のメインは希元素鉱
       物にしよう!」
と思いついてしまったのです。

        で、お母さんにガイガーカウンターのことを聞いてみたら「キットを売って
       るよ。」と教えてくれて、お父さんも「作るんなら協力するよ。」と言ってくれ
       たので、「あとは希元素鉱物だ。」と困ったときのMH頼みで、お願いしたの
       です。                                         』

       『 目ざせ 日本のマリー・キューリー !! 』

        キューリー夫妻がラジウムから放射線がでていることを発見したのが
       1898年で、今年はその110周年です。

 (2) ガイガーカウンターキット
      私が使っている自作ガイガーカウンターは、15年ほど前、秋月通商で販売
     していたキットで、5,000円程度だった。浜松ホトニクス製のガイガーミュラー管
     (GM管)をセンサーにして、ガンマ線と高エネルギー・ベーター線を検出すると
     圧電ブザーが2kHzの変調音で鳴る簡単なものだった。
      回路パターンの修正が必要だったり、組み立てるのは簡単ではなかったが
     一発で、”ぴっ ”ぴっ ”と鳴ったときは、嬉しかった。
      数年ほど前、浜松ホトニクスがGM管の製造を止めてしまったので、キットも
      販売中止になってしまったようだ。

          
                キット                  完成品
                       自作ガイガーカウンター

      現在、ガイガーカウンターを自作しようとすると、ネット上の回路図をダウン
     ロードし、部品を秋葉原で買い集め、GM管はロシアなど外国製のものを購入
     するしかなさそうだ。検出窓面積が大きいので、感度は良さそう。
      GM管だけでも1万円を超え、高圧用のトランスやダイオードなども必要で、
     かなりの費用と電子回路の知識が必要だ。さらに、半田付け技術も・・・・・・。

      『 がんばれ !! 』

5. 参考文献

 1) 長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会,昭和35年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
                  池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
inserted by FC2 system