福島県舘岩村蛍鉱山の鉱物

1. 初めに

   2006年7月、栃木県の石友・Sさん一家と西沢金山を訪れ、昼食を食べながら最近訪れた産地の
  話になった。Sさん一家は、「福島県の蛍鉱山」を訪れ、”ズリ”で蛍石のへき開片を採集した
  とのことであった。
   「蛍鉱山」では、細かい針水晶に伴なう、きれいな蛍石結晶を産することで有名なので、以前
  から訪れてみたいと考えていた。Sさん一家から産地へのルートを聞くと、松原先生の「日本の
  鉱物」の巻末に記載されている、とのことであった。
   石友・Mさんと西沢金山で「マチルダ鉱」を追い求めた翌日、蛍鉱山を訪れた。『幽澤』にあっ
  た坑道とその前に広がるズリで晶洞に針水晶と共生する蛍石や松茸水晶などの良標本を採集でき
  た。
   ズリでも私の妻は、頭付き蛍石自形結晶の集合体を採集するなど、女性や子供でも楽しめる
  産地である。
   「福島県鉱産誌」によれば、この地域では「幽澤」「鍋澤」そして「大澤」の3ケ所で採掘し
  たとされるが、「幽澤」以外の採掘場所は探査にもかかわらず確認できていない。
   これらの産地の探索が今後の課題である。
   ( 2006年9月初訪山、10月再訪 )

2. 産地

   石友・Mさんと2回にわたる探索・採集行と「福島県鉱産誌」の情報を総合して作成した地図は
  次のとおりである。

     蛍鉱山鉱床と施設配置【公開延期】

   松原先生の「日本の鉱物」に、地図がありますので、掲載は見合わせていただきます。ただ
  この本に『 20分ほど登るとズリが見える 』、とありますが、私の足でも30分〜40分かかっ
  た。(推して知るべし)

3. 産状と採集方法

 3.1 産状

     「福島県鉱産誌」に、『 鉱床は、高畑山の急斜面を刻蝕して東流する幽澤、鍋澤、大澤の
     3支流を南北に貫き、花崗岩巨礫に富む第3紀礫岩および角礫岩中に発達する網状石英蛍石
     脈で、幅0.1〜2.0mあり、延長は500m以上にわたっている 』

      沢の水面より約50〜70m上に数本の坑道が残っており、その前の斜面にズリ石が
     堆積している。

 3.2 採集方法
    採集方法は、次のいずれかである。

  (1) 坑道内で、蛍石石英脈を探し、タガネとハンマで、晶洞部分にある自形結晶を含む部分を
     そっくり掻き取る。
  (2) 坑道内の床面にある蛍石石英脈を含む転石の晶洞部分を欠きとる。
  (3) 坑道の前のズリの表面採集やズリを掘り、蛍石を探す。

    Mさんと私は(1)(2)、私の妻は(3)でしたが、どちらでも良品が採れる。

     ズリ(この上に坑道がある)

4. 採集鉱物

 (1)蛍石【Fluorite:CaF2
     石英脈の晶洞部分に針状の水晶を伴い、六面体、八面体の自形結晶をなして産する場合と
    石英脈と混在するように脈状(塊状)で産するケースがある。
     圧倒的に無色(白色半透明)のものが多く、緑色や紫色のものは比較的少ない。

         
          八面体(白色)            塊状(緑)
                      産状

     蛍石の表面から針状の水晶が生えていることから、蛍石が生成した後に、水晶の元となる
    熱水が浸入してきたと考えられる。このような蛍石の角部はやや丸味を帯び、熱水の影響
    で溶けたのだろう、と考えている。

     蛍石の上から水晶が生成

     蛍石にミネラライトを照射しても、明瞭な蛍光を示さないので、坑道内での探鉱にミネラ
    ライトは威力を発揮しなかった。
     

         
      紫の六面体(太陽光)          紫の六面体(紫外光)
                   蛍光状況

 (2)水晶【Quartz Crystal:SiO2
     石英脈の晶洞部分には細かい針水晶が族生している。坑道の特定の部分には、蛍鉱山とし
    ては比較的大きな2cmを超えるものが見られる。
     表面を褐鉄鉱に覆われているものは、蓚酸処理すれば、見違えるようにきれいになる。
     ここでは、「松茸水晶」を採集した。

         
            針水晶              松茸水晶
                    水晶2態

5.おわりに

 (1) 以前から訪れてみたいと考えていた蛍鉱山を初めて訪れ、この産地を代表する蛍石や水晶
    の良い標本を一通り採集できた。案内・同行いただいた石友・MさんとSさん一家に御礼申し
    上げます。

 (2) 「福島県鉱産誌」には、今回訪れた「幽沢」以外にも「鍋澤」「大澤」にまで鉱床は延び
    ていて、3ケ所で採掘した、とある。
     2回目の採集行でMさんと探査したが突き止めることができなかった。これらの産地の
    探索が今後の課題である。

 (3) 「日本の鉱物」にもあるように、蛍鉱山の針水晶をうっかり素手でつかむと、手指に刺さ
    り、”チクチク”と痛む。
     必ずゴム引きの軍手やゴム手袋を使用することをお勧めします。

6.参考文献

 1)福島県企画開発部開発課編:福島県鉱産誌,福島県(非売品),昭和40年
 2)松原 聡:日本の鉱物,株式会社学習研究社,2003年
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