2003年10月鉱物採集会<BR>     岐阜県洞戸鉱山の日本式双晶と透輝石

2003年10月鉱物採集会
    岐阜県洞戸鉱山の日本式双晶と透輝石

1.初めに

 私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと
採集会を開催するようになって、3年目を迎えた。
 今回は、「岐阜・愛知の鉱物産地を訪ねて」と題して、岐阜県の洞戸鉱山
愛知県の久田野・白鳥山を2日間にわたり、延べ29名の皆さんと訪れた。
 初日の洞戸鉱山梅保木坑では、愛知県勢が日本式双晶を次々とヒットする中
関東勢は、意気揚がらなった。しかし、帰宅して、ジックリ調べるてみると
シッカリと「3連双晶」を確保していた。
 杢助坑の「透輝石」は、小さなものは採集できるが、1cmを越える標本を
採集するのは、厳しくなっています。
(2003年10月採集)
 

2. 産地

 産地への道順、位置などの詳細は各種のガイドブックに紹介されていますので、割愛します。

2.1 梅保木坑
   必ず、入口の建材店に断り、許可してもらえればれば、沢の直下まで車を乗り入れることが
  できます。いくつもの倒木の間を乗り越え、潜ぐって、障害物競走(古い!!。若い人たちは
  フィールド・アスレチックと呼んでいた)の難行苦行の末、ズリに到着。
   倒木を乗り越えながらのアプローチは、結構大変です。
     倒木を乗り越える参加者一行
2.2 杢助坑
   林道は、時々大型トラックが通りますので、駐車するときに配慮が必要です。

3.産状と採集方法

 「日本鉱産誌」によれば、洞戸鉱山は古生代の粘板岩、砂岩、チャート
 石灰岩とこれらを石英斑岩が貫く典型的なスカルン鉱床です。
  1939年、1942〜44年にかけ、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘した時に
 これに伴って透輝石の美晶、水晶の日本式双晶が産出したことで有名になったようです。

 【梅保木坑】
  試掘坑と思われる深さ3m位の坑道の前に約10畳敷のズリがある、狭い産地です。

      梅保木坑

  ここでの採集方法は、@ズリを熊手で掘るA表面採集するB沢でフルイ掛けする のいずれか
 ですが、今回(この時期?)、沢の水が伏流水となってしまい、全くない!!
   仕方なく、表面採集する愛知勢、ズリを掘ったり、石を割ったりする関東勢。
  明暗の分かれ目は、ここにあったようです。

  梅保木坑採集風景

 【杢助坑】
  試掘坑と思われる深さ3m位の坑道と西鉱体、東鉱体と呼ばれた深さ40mを越す
 本格的な坑道があり、これらの坑道の中と外のズリが産地です。
  東鉱体はほぼ直立していたようで、竪坑が上下にあり、落ちないように注意が必要です。
 下向きの竪坑には水がたまり、坑道の中でフルイがけして、水が濁って来ると竪坑が
 どこにあったのか分からなくなる。
  透輝石はがさがさのスカルン塊の晶洞部分に結晶したもので、母岩付きと分離結晶が
 採集できます。
  ズリは完全にシャッフルされ、何処が良いのか運次第です。坑道の中は、透輝石の
 出る場所と出ない場所があり、出る場所を初めに探るのがコツです。
  まず坑内に入ると、水が殆どなく、竪坑部分に残っているだけ。2003年7月に良品が
 採れた当たりを中心に、先ずは表面採集。千葉のK君は、私のHPのアドバイス通りに
 ピンセットを使っての採集でした。

  杢助坑採集風景

  坑の外では、沢の水を貯め、その中で坑外の土砂をフルイで篩って、透輝石や
 各種の鉱物を探す予定でしたが、沢の水は”チョロチョロ”しか流れておらず
 表面採集が主流でした。

4.産出鉱物

【梅保木坑】
(1)日本式双晶【Japanese Law Twin of Rock Crystal: SiO2】
   Kさんが、最大両翼2cmを筆頭に日本式双晶3つ、Hさんが、日本式双晶が数十ついた
  群晶と単晶1つと、愛知県勢が絶好調でした。
   Kさんは、いつも出し抜かれている息子のS君(この日は不参加)に、ようやく親父の
  沽券を示せたようで、至って満足そうでした。関東勢は、F君が珪灰鉄鉱を採集したに
  止まり、完敗でした。
   しかし、これで、終わらないのが、Mineralhunters の真骨頂。自宅に持ち帰った
  群晶の中に、8月の採集会で、奈良県のAさんの息子・T君が採集した日本式3連双晶
  (180°タイプ)と同じものがあるではないか。Hさんの群晶にあったと同じ”山(逆V)形"も
  ある。
    日本式3連双晶(180°タイプ)
(2)紫水晶【Amethyst: SiO2】
    ”紫石英”と呼ぶカケラは、比較的多いが、結晶面の見える紫水晶、まして
   頭付きなど夢のまた夢であるが、F君が小さな結晶を採集したと、11月のミニ採集会で話して
   くれた。
(3)珪灰鉄鉱【Ilvaite:CaFe2FeO(Si2O7)(OH)】
   珪灰鉄鉱は、”長柱状”で産出すると図鑑にはありますが、梅保木では、”粒状”で
   産出する。
    周囲を覆う方解石が溶けて結晶が顔を出したものや、水晶の上に結晶が晶出した
   ものがある。
    2003年7月、Yさんの息子Y君が採集したものは、方解石の母岩に約5mmの結晶が
   10個前後付いた、今では”博物館級”の標本でした。
    ここの珪灰鉄鉱は、”R面”がついていることでも知られているが、採集できた
   標本の数が少なく、特定できていない。
    今回、F君が、結晶面がキレイな小さな標本を採集した。
(4)石榴石【Garnet:Ca3Al2(SiO4)3-Ca3Fe2(SiO4)3】
   ここのザクロ石は、灰バン〜灰鉄ザクロ石と言われ、緑〜茶褐色〜黒色まで
   各種の色のザクロ石が採集できる。
    1cmを越える大きなものは、結晶の数面が見えるだけで、全周完全な結晶は
   5mm以下の小さなものです。
    杢助坑のものは、色が黒味がかっており、鉄分が多いように感じられます。
(5)その他
   魚眼石などの報告もありますが、稀産になっています。

 【杢助坑】

(1)透輝石【Diopside:Ca(Mg,Fe)Si2O6】
   無色〜黄緑色透明、先端が尖った平べったい柱状結晶で産出する。無色透明で
   小さなものは水晶と紛らわしい。

   分離結晶【1cmクラス】
(2)その他
   閃亜鉛鉱の結晶、銅の2次鉱物(孔雀石)を採集した人がいます。異極鉱の報告もあります。

5.おわりに

(1)『透輝石は、絶産寸前です』
   千葉のK君はピンセットを使って採集する程で、1cmが限界で、図鑑にある6cmなど
   夢のまた夢状態です。
(2)洞戸鉱山梅保木坑の日本式双晶は、お世辞にも美しいとは、言えませんが
   ”洞戸型日本式双晶”と呼ぶ人もある、独特なものですので、1つは標本箱に
   加えたい。
(3)この産地は、沢の水が多い夏向きの産地です。
(4)「障害物競走」について
   仕事柄、障害者の雇用促進に関する本を読んでいて、このHPに、「障害物競争」と書いた
   ことを思い出した。
    読んでいた本によれば
   『1993年の秋、各地で運動会がたけなわの頃、次のような記事が新聞に載った。「障害物競争」と
    いう言葉が、運動会のプログラムから姿を消しつつあるというのである。もちろん、
    運動会には欠くことができない、この競技そのものが消えてしまったわけではない。
    「障害物競争」という言葉が、障害をもつ人々にどのような気持を抱かせるか、
    どんな思いで、このプログラムを見るであろうか、という点を配慮して、この言葉が
    用いられなくなっているのだという。
     代わって「野越え、山越え」などの楽しいネーミングが登場している、ということで
    あった。』

     北海道のIさんのHPには、
    『障害とは、英語で”OBSTACLE"といいます。「障害物競走」の「障害」です。
     これは〔ある事を行うのに〕妨げとなるもの(事情)をいい。邪魔者という意味です。
     私たちの子どもは、「障害者」、障害物ととてもよく似た「障害者」と呼ばれています。
      私たちの子どもは、妨げになり、害になる、迷惑な特殊・特別な子どもですか。』

    別なHPには
    『一部の学校では、「障害物競争」消えているようだ。「山あり、谷あり競争」など
    別の名前をつけているという。「障害者」に失礼だからという考え方らしいが、
    ここまでくると行き過ぎのような気がする。

     障害物=障害となる物なら、障害者=障害となる者?

     障害者=(自己に)障害(をもつ、与えられている)者
     つまり、「障害者」の「障害」とは、障害物と違い、受身である。
     障害者自身が他人に障害を与えている意味では決してない。・・・・・・・』

     私も、この意見に近く、従って、HPもこのままにさせていただきます。

6.参考文献

1)加藤昭、松原聡、野村松光共著:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
2)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 T-b(銅・鉛・亜鉛),東京地学協会,昭和31年
3)名古屋鉱物同好会編:東海 鉱物採集 ガイドブック,七賢出版,1996年
4)日本障害者雇用促進協会編:障害者職業カウンセラーテキストNo18,同協会,1995年
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