2007年9月 北陸ミネラル・ウオッチング【ダイジェスト版】

  2007年9月 北陸ミネラル・ウオッチングダイジェスト版】

1. 初めに

   いつも産地を案内してもらったり、新産地探索に同行してもらっている東京の石友
  Mさんは、本州の有名鉱物産地をかなり回っている。しかし、北陸方面はほとんど訪
  れたことがない、というので日頃のお礼に、2泊3日で案内することにした。
   翡翠採集に詳しい、兵庫県のN夫妻にも連絡したところ、娘さんも交え、家族で参加
  してくれることになった。小松市周辺の紫水晶産地は、2年ぶりとなるため、最近の
  産地情報に詳しい、北陸支部のYさんにも声を掛けたところ、2日目から参加してくれ
  た。

   今回訪れた産地は次の通りである。

    @ 新潟県糸魚川市周辺のヒスイ採集、金山谷の新鉱物観察
    A 石川県尾小屋鉱山(金平金山)、遊泉寺銅山での紫水晶・緑鉛鉱の採集
    B 石川県赤瀬のオパール採集
    C 福井県赤谷(あかだに)鉱山での自然砒採集
    D 福井県中龍鉱山仙翁坑での水鉛(モリブデン)鉛鉱採集
    E 福井県面谷鉱山での蛍石採集

   Nさんは、禁酒節制した日頃の精進が実ったのか、初日には「青海のヒスイ」、2日目
  には「金平の紫水晶」の素晴らしい標本を採集した。
   さらに3日目、Yさんが、「赤谷の金平糖」、「仙翁坑の水鉛鉛鉱」のこれまた素晴らし
  い標本を採集でき、これらの産地がまだまだ健在なことが立証できた。

   いつもは、佳品を確実に採集するMさんは、今回は調子が今ひとつだったようで
  リベンジを期していた。

   この3連休は、台風接近もあり、天気が崩れるとの予報だったが、”晴れ男”健在で
  天気が良すぎ、あまりの暑さに皆さん”バテ気味”で、雨が恋しかったようだ。

   初日に泊まったホテルで、名古屋支部のSさん一家に”バッタリ”出会うなどの”サプラ
  イズ”
もあった。
   2日目の福井県美山町の定宿「みらくる亭」では、熱い湯に浸かり、冷えたビールを
  飲み、「松茸づくし」など、山海の美味を満喫した。
   食後、恒例の「玉手箱」には、「逸見石」「向山鉱山の水晶」など全国の標本が出
  品され、大いに盛り上がった。

   ご一緒いただいたMさん、Nさん一家、Yさん、そしてSさん一家の皆様に厚く御礼を
  申し上げる。
  ( 2007年9月採集 )

2. 金山谷の鉱物観察とヒスイ探し【第1日】

 (1) 糸魚川市(旧青海町)に集合
     早朝5:30に、Mさんが自宅に来てくれた。私の車に乗り換え、「韮崎IC」で中央道
    にのり、「豊科IC」で下り、大町、白馬を経由し、糸魚川を目指す。
     Nさん一家との集合場所、青海川河口近くの国道8号線の駐車場に着いたのが
    予定より早い9時ジャストで、既にNさん一家は到着していた。

     Nさん一家は「橋立ヒスイ峡」の採集禁止範囲外でのひすい探し、Mさんと私は
    「金山谷」の新鉱物観察に出かけることにした。( 妻は訳あって、車で待機 )

 (2) 金山谷の新鉱物観察
     Mさんにとってここは、何年か前に訪れたが、産地らしき場所に行き着かない
    ため、途中で引き返したいわくつきの場所だった。
     所々、危険な断崖の上をロープや木の根にすがって金山谷の奥を目指す。や
    がて、草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」の写真でお馴染みの、曹長石(ア
    ルビタイト)の巨岩が見えてきた。

        
          産地標識                曹長石巨岩
                     金山谷

     金山谷は、「奴奈川石(ストロンチア斜方ジョアキン石)」、「青海石」等をはじめ
    新鉱物が多数発見された、有名な場所である。

     「ストロンチア斜方ジョアキン石(奴奈川石)」は、曹長石の中に黄色の粒状で
    みられ、晶洞部分には『 錐状の自形結晶 』が観察できた。

      奴奈川(ぬなかわ)石

 (3) 出合の砂金
      金山谷での観察を終え出合に戻るとNさん一家も既に来ており、余りの暑さに
     河原でヒスイ探しをしていた。
      ここで、ご主人が採集した「ヒスイ」を拝見したが、真っ白いヒスイ輝石の中に
     緑色の模様(オンファス輝石)が入ったもので、見事なものだった。
      採集したのは、禁止区域ではなかったが、双眼鏡を持った監視員が巡回して
     きて、『禁止区域では採集してはダメ』、と念を押された、とのこと。

      ヒスイ【採集:Nさん】

      Mさんと私は、出合で砂金採集にトライしたが、小さなものが1粒取れただけで
     あまりの暑さに早々にリタイヤ。

      出合での砂金採集風景【撮影:Nさん】

 (4) 「親不知ピアパーク」の巨大ヒスイ
     今夜の宿がある石川県小松市に向かう途中、「親不知ピアパーク」の「ひすい
    館」にある巨大ヒスイを見ることにした。
     このヒスイは、もともと「橋立ヒスイ峡」にあったものだが、盗掘が激しく、保護す
    るため、ここに移設し展示することになったらしい。
     重さが数十トンもある巨大なもので、上のほうに橋立のヒスイ特有の「ラベンダー
    ヒスイ」部分が見られる。

      巨大ヒスイの前で

     ここにいる女性は、ヒスイの鑑定もできると言うことなので、採集した品を見ても
    らった。
     Nさんの奥さん採集品(小)・・・・・・・・・・・文句なしに、ヒスイ
     Nさんの奥さん採集品(大)・・・・・・・・・・・??
     私の採集品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒスイかな?
                              ( 自宅に戻って比重を測定すると凡そ
                                3.5あり、”ひすい”と判断した )

     この女性の判断基準の1つは、”手に持った重さ” とのこと。ヒスイは比重が3.25と
    石英(2.7〜2.8)に比べ大きく、『 手に持って、”ズシリ”と感じる 』らしい。
     この附近の海岸で採れたという緑色の鮮やかなヒスイを手に持たせてもらった
    ところ、なるほど、その通りだった。

     ここでは、「ヒスイ」や糸魚川周辺の地質・鉱物関連の書籍も多数販売しており
    「よくわかるフォッサマグナとひすい」(2,000円)を全グループが購入した。

 (5) 小松の夜は更けて
     「親不知IC」から北陸道にのり、「立山IC」で1度下り”距離調整”し、再びのって
    「徳光ハイウェイオアシス」でお土産を購入。加賀藩ゆかりの菓子、金箔工芸品
    そして九谷焼など、ほとんどが揃っている。
     何よりも驚いたのは、出始めのカニなどが叩き売り状態で安い!!
     このまま、自宅に帰るのなら、迷わず買うのだが、旅の途中では見送らざるを
    得なかった。

     名古屋支部・Sさん一家が紹介してくれて以来、私たちの定宿になっている小
    松駅前の高級・格安ホテルに夕闇がせまるころ到着した。

     夕食場所の予約に私だけ一足先にホテルを出ようとエレベータ前にいると、扉が
    開き、中を見ると、何と、”Sさん一家がいるではないか!!”
     そのときの私の表情は、Sさんの奥さんの言葉を借りると『 眼が点になり、身体
    は、フリーズして( 固まって)いた 』
     お互いに、予想もしない” サプライズ ”だった。

     夕食の後、Sさん一家も交え、ホテルのロビーで持ち寄った酒・肴で懇談会を
    開き明日の予定などを打ち合わせた。
     この時、この日金平を訪れたSさんの奥さんが、「これは何でしょう?」と差出し
    たのは、『 2cm近い緑鉛鉱の分離結晶 』だった。金平が初めてのMさんの採集
    意欲を否が応でも掻き立てたようだ。
     皆さん、早朝3時ごろから起きてきたので、22時にお開きとし、私もZzz・・・

3. 紫水晶、緑鉛鉱そしてオパールを求めて【第2日】

 (1) 金平の紫水晶と緑鉛鉱
     翌朝、7時からホテルで無料の朝食を食べていると石川県・Yさんから「 これから
    自宅を出るので、金平で会いましょう 」と携帯に入る。

     金平を訪れるのは、丸2年ぶりで、砂防ダムの建設が進むなど、産地の状況が
    かなり変化しているのには驚いた。青鉛鉱があれほどあった箇所には”青物”は
    全く見当たらない。紫水晶や緑鉛鉱が採集できた場所も、ほとんどが掘り返されて
    いる。

     Mさんを尾根附近の”縦坑”まで案内し、その近くで紫水晶の採集を始める。な
    かなか出てこない。何箇所かポイントを変えながらズリを掘るとようやく金平らしい
    紫水晶が出始めた。

     やがて、Nさんが『 紫水晶がありました 』、と声を上げた。近寄って見ると、金
    平離れした、”すっきりと透明感がある六角柱状”の群晶だ。
     ( それまで、私の採ったのが、”今日一”だと思っていたのに・・・・・・・・・・ )

     昨日の「ヒスイ」と言い、この日の「紫水晶」と言い、正に”Nさんディズ”である。

        
    Nさん採集品【長さ70mm】 私の採集品【長さ54mm】
                  紫水晶

     緑鉛鉱ズリの土砂を土嚢袋に入れ沢まで運び、パンニングすると10mm近い
    ものを筆頭に、かなりの量の緑鉛鉱を採集できた。
     帰宅後、実体顕微鏡で確認すると、大きなものの内2本は、『頭付き』であること
    が判明した。( Mさん、”頭付き”もあります )

        
      余裕でパンニングのNさん     パンニング品【最大9mm】
                      緑鉛鉱

 (2) 遊泉寺銅山の紫水晶
     名古屋支部・Sさん一家と金平で別れ、私たちは遊泉寺銅山を目指す。途中で
    トイレ休憩を兼ねて、昼食を摂る。
     食後のデザートに「自家農園の無農薬スイカ」を切って食べていただく。この日
    も快晴で、汗で失った水分・塩分そしてミネラルもタップリ補給していただく。

      スイカで塩分・水分・ミネラル補給【撮影:Nさん】

     遊泉寺銅山を訪れるのも丸々2年ぶりとなる。入口の公園近くには「バイオ・トイレ」
    なるハイカラなものが設置されていて、ブランクを感じる。

     Yさんが「呑兵衛谷」と名付けた、一升瓶が散乱するポイントに行くとズリが掘り
    返されて丸裸になっている。( 誰の仕業だ!! )
     ここでは、小さな紫水晶を拾っただけで、”絶産宣言”が出された。Yさんによれ
    ば、紫水晶がなくなり、「遊泉寺」の名がついた”白水晶”までがオークションに出
    回るような状態らしい。

     ポイントを移動し、ここからがMさんの本領発揮である。露頭を探し出し、そこで
    紫石英脈を発見してくれた。
     この日は、時間がなく、本格的な採集は次回のお楽しみ、となった。

      紫水晶【高さ24mm】

 (3) 赤瀬のオパール
      この周辺に「赤瀬のオパール」産地があることを思い出し、今夜の宿へのルー
     ト上でもあるので立ち寄ってみることにした。

      産地の露頭にはオパールを含む脈が見られ、その周辺の転石にもオパール
     を含むものもある。
      ”ノーブル・オパール”採集の可能性は低く、オーバーハングした露頭に、”長居
     は無用”
と、短時間で引き上げる。

 (4) 「みらくる亭」の夜は更けて

   @ 「みらくる亭」をめざして
      「加賀IC」で北陸道にのり、「福井IC」で下り、美山町の「みらくる亭」を目指し、夕
     刻が迫るころ、無事到着した。
      ここは、2003年、Nさん夫妻と泊まったのが最初で、以来何度かお世話になってい
     る。この地方特産の杉材を生かした造りで、静かな林の中に佇んでいる。

   A 松茸づくしで乾杯!!
      熱い湯に浸かった後、冷えたビールで乾杯!!
      「松茸づくし」や山海の美味を堪能した。料理のボリュームも満点で、妻などは
     食べきれないありさま。仲居さんの勧めで、松茸ご飯は夜食のおにぎりにさせて
     もらった。

        
              男性陣                女性陣
                宴会風景【撮影:Nさん】

        
              土瓶蒸し               松茸釜飯
                  松茸づくしを堪能

    B 「標本玉手箱」
       夕食の後、ミネラルウオッチング恒例の「標本玉手箱」を部屋で開催した。「逸
      見石」「向山鉱山の水晶」など全国の標本が出品され、大いに盛り上がった。

      玉手箱風景

    C 懇親会
       山梨の地酒を飲みながら、産地情報の交換や明日の予定などを話し合い
      22時前にお開き。この日も、”バタンQ”

4. ”金平糖”、水鉛(モリブデン)鉛鉱そして蛍石を求めて【第3日】

   早朝、6時ごろから起き出して朝風呂を浴びる。空を見上げると今日も”快晴”で朝
  から蒸し暑い。
   朝食の後、精算を済ませ、最終日のスタートだ!!
        

 (1) 赤谷(あかだに)鉱山の自然砒
      ”金平糖”と呼ばれる、自然砒の分離結晶を求めて、赤谷鉱山を訪れた。この
     地域は、2004年の集中豪雨で甚大な被害を受けた。2005年に訪れた時にその
     爪あとが生々しく残っていた。その後も、産地の様子は変わっていた。
      今回、Mさん、Yさんから別々の旧坑を教えてもらい、広い範囲に鉱山があった
     のを初めて知った。

        
           産地                旧坑
                   赤谷鉱山

      Mさんが2年前に訪れ、1日やって数粒しか採れなかったというが、ポイントを
     当てれば、2005年でもかなりの数採集できた。
      今回、Yさんが直径7mm、白銀色の”金平糖”を採集したが、確実に採れにくく
     なっているのは間違いない。
      ( 「”金平糖”はその日の夜には、真っ黒に変色した」、とYさんからメールが
        あった )

      名残惜しいが、Nさん一家とは、ここでお別れせざるを得なかった。

 (2) 中龍鉱山仙翁坑の水鉛(モリブデン)鉛鉱
      越前大野を通り、真名川の上流、仙翁谷の産地を目指す。悪路を覚悟してい
     たが、予想外に林道が整備されていて、拍子抜の感すらした。
      ”長い虫”3匹に出会いながら、急斜面を登り、ようやくズリに取り付いた。

      産地遠望

      しかし、最初の1つが、なかなか見つからない。ようやくサンプルを発見し、2人に
     ”異極鉱に伴う”産状を飲み込んでもらう。

      やがて、Yさんが『 あった!!』 と叫んで、見せてくれたのは、”キラキラ”光る
     結晶が肉眼でもわかる、リッチな標本だった。続いて、Yさんは「白鉛鉱」と「青
     鉛鉱」の結晶も探すなど、 ”大当たり” 状態だった。

      水鉛(モリブデン)鉛鉱【採集:Yさん】

      これを見て、私も必死に探すと、11cm大の母岩にビッシリ「水鉛(モリブデン)鉛鉱」
     結晶が付いた、今までで一番の良標本をゲットした。
      このほか、「青鉛鉱」、「方硫カドミウム鉱」などの2次鉱物の他、「閃亜鉛鉱」
     「方鉛鉱」など、中龍鉱山の鉱石鉱物も採集できた。

     【後日談】
       仙翁坑は、中龍鉱山の一部で、「アドベンチャランド中竜」があった(過去形)
      通洞坑とはつながっていた、と聞いたことがあった。
       帰宅後、”Google Earth”で見てみると、なるほど、尾根を隔てた反対側にある
      ことが実感できた。

      仙翁坑【Google Earthから引用】

 (3) 面谷鉱山の蛍石
      九頭竜湖の橋を渡り、面谷鉱山に到着したのは、15時を回っていた。小雨が
     パラつき出したが、採集を始めると ”ピタリ” と止んだ。

      最近、面谷鉱山の古い絵葉書を眼にする機会があり、それを片手にかつての
     鉱山の配置を頭に描いてみた。

      絵葉書に描かれた面谷鉱山

      蛍石のポイントを探すが、めっきり少なくなっている。ポイントを移動するが狙
     いの「自然銀」は程遠い。

      その内、雲行きが怪しくなり、急いで下山することにした。車に到着するや否や
     ”ザァー”と雨が本格的に降り出した。

 (3) いざ帰りなん
      面谷鉱山でYさんともお別れし、われわれは、北陸東海道→東海環状→中央
     道を順調に走り、21:30、無事自宅に帰還した。総走行距離942kmだった。

5. おわりに

 (1) 北陸方面を訪れたのは、2005年7月以来、丸々2年ぶりだった。昔と様子が一変
    し、残念ながら”絶産宣言”を出さざるを得ない産地も中にはあったが、訪れた産
    地の多くが健在で何よりだった。
     さらに、Mさんが新産地の露頭を発見し、継続しての探査が楽しみな場所も出て
    きた。

     正に、桜井先生が遺された 『 古川に水絶えず 』 である。

 (2) 2日目に金平を訪れたが、この日益富地学会の地学巡検がここで開催されたら
    しい。
     巡検のことを知ったのは、採集計画を立て、宿泊の予約も済ませた後、Yさんか
    らメールをいただいてだった。

     確か桜井先生だったかの、 『 採集会で皆より先に行って、良いものを採集す
    る輩がいて、苦々しい思いをした 』
、という趣旨の文章を読んだ記憶がある。

     今回、私たちの金平訪問と巡検がバッティングしたのは、全くの偶然で、名古屋
    支部のSさん一家と、ホテルのエレベーターで”バッタリ”出会う、”サプライズ”があ
    ったくらいだ。

 (3) 秋の彼岸間近というのに、連日30℃を超える真夏日の連続で、あまりの暑さに
    ”バテ気味”で採集に集中できないほどだった。
     涼しい時期に、再訪を企画したい。

6. 参考文献

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 2) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂,1994年
 3) C.W.Chesterman:National Audubon Society Field Guide to
               North American Rocks and Minerals,Knopf,1995年
 4) フォッサマグナミュージアム編:よくわかるフォッサマグナとひすい
                       同ミュージアム,2003年(?)
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