山梨県甲府市の砒酸塩鉱物

           山梨県甲府市の砒酸塩鉱物

1. 初めに

      新年明けましておめでとうございます。

       

               2013年元旦の富士山

    2013年を迎えた。暦の組み合わせがよく、年末・年始の休暇が長い。22日から年明け6日まで
   16連休だ。
    21日に忘年会を終わらせ、連休初日の22日は近くに住む3男のお嫁さんと孫娘にクリスマス
   プレゼントを買い、23日は茨城県の古書店主・Oさん宅に年末のあいさつに伺い、その夜、山
   梨に戻った。

    帰省する息子たちとその家族のための準備を始めるのには少し早く、手持無沙汰な1日、
   『2012年採集納め』 、を兼ねて、気になっている産地を訪れることにした。

    そこは、古い水晶鉱山で、ここを本格的に調べ始めたのはH製作所を退職し、技術士試験
   の難関・総合技術監理部門の受験勉強をしていた2002年の冬だった。降り積もった雪の中、
   尾根から谷まで虱潰しに歩き回り、坑道とその前に広がるズリを丹念にマップに落としておい
   た。

    ・山梨県黒平向山鉱山の水晶
     (Rock Crystal of Mukouyama Mine , Kurobera , Yamanashi Pref.)

    その後、”YYコンビ”で訪れ、素晴らしい水晶を発見したのが知れ渡り、大勢の人が訪れる
   産地に変貌した。

    ・山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶 その2
     ( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine −Part2- , Kurobera Town
                                     Kofu City , Yamanashi Pref. )

     ここでは、「硫砒鉄鉱」起因と思われる「スコロド石」が採集できるのには気づき、HPにも
    載せて置いた。

     ・山梨県黒平・向山鉱山の水入り水晶
      ( QUARTZ including Water from Mukouyama Mine , Kurobera Town
                               Kofu City , Yamanashi Pref. )

    その後、訪れた人たちが『毒鉄鉱』をはじめとする、砒酸塩鉱物を採集、「ペグマタイト」誌に発表
   し、一躍脚光を浴びた。

    それから3年余りが経ち、今でも砒酸塩鉱物が採集できるのか、訪れてみた。10年前と同じ雪が
   薄らと積もった見覚えのある踏みわけ道を辿(たど)った。坑道内に入るのは、ほぼ5年ぶりで、坑
   道壁の叩かれ方をみると訪れた人が多かったようだ。

    砒酸塩鉱物は坑道内の特定の場所でのみ採集できたようなので、目星を付けた場所を丹念に
   探すと、『毒鉄鉱』や『スコロド石』などが採集でき、産地は健在なようだ。

    2012年は、仕事、私用が忙しく、山梨に戻る機会も少なく、地元でのミネラル・ウオッチングは子
   どもたちを案内するときくらいだったが、年末になってようやく地元での『採集納め』に相応しい標
   本を観察できた。
    ( 2012年12月 観察 )

2. 産地

    この産地は「ペグマタイト」誌などにも紹介されている有名な場所なので詳細は割愛する。

        
               坑口               乱舞する蝙蝠(コウモリ)
                        産地

    日当たりの悪い坑口付近は0℃前後だが、坑内は15℃前後あり、暖かく感じられ、冬眠中の蝙
   蝠たちが、突然の闖(ちん)入者に驚き、飛び交う。

3. 産状と採集方法

    坑道は、花崗岩に貫入した石英脈の空洞の中に成長した水晶を求めて掘られたもので、入口や
   途中に広い”ドーム”があるものの、奥の方は、人ひとりが四つん這いで進むのがやっとの広さしか
   なく、古い時代に採掘されたものと思われる。

    石英脈には、褐鉄鉱などで茶褐色に染まった部分が見られ、砒酸塩鉱物はこのような場所の特
   定の部分から産出するようだ。
    砒酸塩鉱物は、砒素(As)、鉄(Fe)を含む「硫砒鉄鉱」などや鉛(Pb)、ビスマス(Bi)を含む鉱物が
   分解し、成長が終わった後の石英(水晶)の表面に2次鉱物として生成したようだ。

    採集方法は、石英脈をハンマとタガネで掻き取るのだが、堅いので、それなりの装備と腕力が必
   要だろう。

4. 観察鉱物

 (1) 硫砒鉄鉱【ARSENOPYRITE:FeAsS】
      白銀色、硫化鉱物を伴って太い柱状結晶で産出する。「毒鉄鉱」や「スコロド石」の源鉱物と
     考えられる。

         
                全体                   部分
                          硫砒鉄鉱

 (2) 毒鉄鉱【PHARMACOSIDERITE:KFe3+4(AsO4)3(OH)4・6-7H2O】
      青緑色透明、立方体の結晶で”三角穴”と呼ぶ、多形水晶(石英)が作る空間に産出する。
     ここでは、最大1cmクラスの結晶が産出し、『日本一』、と呼んでも過言ではないだろう。

         
            水晶と共生                  拡大
                        毒鉄鉱

 (3) スコロド石【SCORODITE:Fe3+AsO42H2O】
      紫色を帯びる褐色、半透明、斜方複錐面で産出するのが一般的だが、下の写真のものは
     柱面が発達し、放射状の『菊花状』で産する。

      
              スコロド石【菊花状】

    このほか、「ビューダン石」、「アーセニオシデライト」、「カニュク石」らしき標本も採集したが、鑑定
   待ちの状態だ。

5. おわりに

 (1) 「初詣は氏神様から」
      2012年は、仕事、私用が忙しく、山梨に戻る機会も少なく、地元でのミネラル・ウオッチングは
     子どもたちや古い石友を案内するときくらいだった。年末になってようやく地元での『採集納め』
     に相応しい標本を観察できた。

      「初詣は氏神様から」、ということわざがあるが、その逆にミネラル・ウオッチングの締めを
     地元で行えたのは何よりだった。

 (2) 「好事魔多し」
      12月21日、金曜日、会社の忘年会だった。単身赴任先と山梨の自宅を結ぶ線の反対方向に
     あたり、普段行ったことがほとんどない千葉市内での立食パーティ形式の忘年会だった。社長
     以下、取締役から新入社員までが参加した。

      会の呼び物は、ビンゴ形式の『福引』だ。早々と”ビンゴ”したにもかかわらず、商品は、”ウマ
     カ棒”20本、という笑えない景品もある。
      「神戸牛」や「年末ジャンボ宝くじ10枚」などが次々と引き取られ、景品は残り2点になった。
     この時点で”ビンゴ”になったのが私を含めて3人だ。まず、ジャンケンで2人に絞られ、辛くも
     勝ち残った。
      残ったのは、N係長と私だ。N係長は、2012年から始まった工場運動の事務局で、分科会担
     当の私は、普段から無理をお願いしているので、勝ちを譲る形で先に商品の籤(クジ)を引いて
     もらった。(”残りものに福”を狙ったわけではない)

      N係長が引いたのは「カニ」だった。さて、”残りもの”は、『ipad ミニ』だった。なんでも、取締
     役員が欲しいもの、として挙がったのがこれで、取締役員の募金で購入した、と司会者から経
     緯の説明があった。

      まさに”残りものに福”だった。ただ、どうしたものかと、『未開封』のまま年を越した。

       景品の”ipad”

      2013年の年が明け、今年初めて骨董市を訪れた。とある出店の段ボール箱の中に、封筒や
     はがきが何通かあった。封筒のひとつを見て、”心臓が飛び出し”そうになった。
      『軍事』、と加刷された切手を貼った封筒だ。切手そのものは、ごくありふれた「3銭田沢切手」
     に「軍事」の文字を凸版印刷しただけで、簡単に偽造できるので、単片、未使用は要注意だが、
     使用済のエンタイアなら偽物の心配はない。

      店主に値段を聞くと、”いくらでも良いヨ”、とおおらかだ。何でも、この荷を開くのは、3箇所目
     ということで、目ぼしい品は、それなりの金額で売り払い、残りものを処分できれば良いらしい。

      他にも、昭和25年に最初に発行された年賀はがき(未使用)や使用済封筒などを混ぜて、
     『500円で』、と言うと店主は大喜びだった。

         
        「軍事」切手貼りエンタ              最初の年賀はがき
                                    【昭和25年発行】
                       骨董市の”残りもの”

      帰宅後、切手関係の専門カタログのページをめくる。発信日が昭和6年(1931年)4月7日、
     裏面を見ると発信地は、「南満州大石橋独立守備歩兵第三大隊」、消印は「大石橋」の昭和
     6年4月7日の時刻印だ。3日後の4月10日には、埼玉・上尾の到着印が押されているところから
     飛行機(航空便)で運ばれたのだろう。

      満州での「軍事切手」の使用は、昭和6年10月で終わっているので、後期使用例だろう。気に
     なるカタログの評価額は、XX万円だ。

      「好事魔多し」、とは古くからの教えだ。このようなときこそ、私のモットーの1つ、『篤く行う』
     に徹しようと、今日の仕事始めで心に誓った。

6. 参考文献

 1) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 2) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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