岐阜県苗木地方の苗木石

         岐阜県苗木地方の苗木石

1. 初めに

  2002年12月に、1958年(昭和33年)の「地学研究」に掲載されていた岡本要八郎先生と
桜井欽一先生による”「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査”という記事を
ベースに『日本産鉱物50種』に関するページをHPに掲載した。
 それ以来、この雑誌に掲載されていた50種+アルファをできるだけ収集するように
心掛けていた。
 これを知った石友から恵与していただいたもの、ミネラルショーやオークションなどで
現金採集したもの、そして自力採集したものなどを含め、40種余りを手にすることができた。
 しかし、今となってはなかなか採集できそうにないものもあり、2005年6月初めの時点で
下記の8種(全て原産地標本に限る)が未入手であった。

区分No     標本    産地      備考
*印:他産地代用可
50種5方鉛鉱(八面体と六面体の集形)秋田県太良鉱山 
9黄銅鉱(三角式結晶)秋田県荒川鉱山 
19ルチル徳島県眉山  
30荒川石(ベスジェリ石<原文のまま>)秋田県日三市鉱山 
33苗木石(変種ジルコン)岐阜県苗木 
38褐簾石(花崗岩中の結晶)京都府白川 
45灰鉄輝石(結晶)大分県尾平鉱山 
番外@手稲石北海道手稲鉱山 

   このリストを改めて眺め直して、下記の条件で”自力採集できそうなもの”をピック
  アップしてみた。

 (1)産地が私の住む山梨県に比較的近い。(採集に要する時間、交通費などを考慮)
 (2)現在でも産地が健在の可能性がある(閉山して久しい、古い鉱山ではない)

   その結果、真っ先に候補に上ったのが『岐阜県苗木の苗木石』であった。
  空梅雨(からつゆ)の暑い日ざしの下、2日間粘って、ようやく”3粒”の苗木石を
  採集することができ、産地が健在であることを立証できた。
(2005年6月採集)

2. 産地

 長島乙吉、弘三両氏による「日本希元素鉱物」には、「本邦産ジルコニウム鉱物」の章があり
変種ジルコンを次の5種に分類している。

  @マラコン【Malacon】・・・・・・・水の著量を有す
  Aアルブ石【Alvite】・・・・・・・・ベリリウムを特に多く含む
  Bシルト石【Cyltolite】・・・・・・希土類元素の著量を含む
  C苗木石【Naegite】・・・・・・・・希土類元素および土酸元素(即ちニオブ、タンタル)の
                    著量を有す
  D山口石【Yamaguchilite】・・・希土類元素およびリンの著量を含有す

   同書には、『岐阜県苗木地方 の変種ジルコンは中津川市苗木、福岡村高山、蛭川村滑
  などのスズ石の漂砂鉱床に苗木石を産する』
とあり、中津川市から恵那市一帯で産する
  ものであれば”苗木産”と称して良いだろう、と勝手に判断した。
   更に、同書には、北は北海道から南は佐賀県までの変種ジルコン産地84箇所が記載されて
  おり、産出量の多い16産地の1つとして、『岐阜県苗木地方(福岡村木積沢の砂鉱に多し)』
  とあり、ここを訪れることにした。

    木積沢
 

3. 産状と採集方法

  苗木石はスズ石などの砂鉱に含まれて産するので、川底の土砂をパンニングして採集する。
 この産地では、圧倒的に錫石、ついでトパーズ(黄玉)が多く、これらに混じっている苗木石を
 確実に選り分けるパンニング技術が要求される。
  苗木石の比重は、スズ石の半分チョットしかなく、パンニングの”潮時”を見極める必要がある。
  何せ、”青緑色の粒”がパンニング皿の底に残っていれば、シメタものです。

 鉱物 比重    備    考
錫石7.0 
苗木石約4.1錫石の約1/2の比重しかない
トパーズ約3.6 
石英・長石約2.7土砂の99%以上を占める

    パンニング皿の中の土砂
 

4. 採集鉱物

 (1)苗木石【Naegite:(Zr,Hf,Y)(Si,Nb,Ta)O4】
    「日本希元素鉱物」には、『色は褐黒〜濃緑色、錐面が大きく発達し柱面は次第に細く
    つぼまったもの、或はそれらが多数集合し、肉眼的には頭が円く仏頭状になった集合体
    などがる。単晶では、長さ5mm 径1mm ぐらい、集合体中の個体もやはり5mmほど
    である。時に恵那石【著量のウランと希土類元素やリンを含むウラノトール石
    :Uranothorite】を伴うことがあり、両者は平行連晶する。
    ・・・・・・苗木石薄片にはコルンブ石(サマルスキー石?)が嵌在しており・・・・・・』
とある。

     今回採集した3つの標本、特に中央の”束状”になったものは、上記の苗木石の特徴を
    良く示している。

           
       恵那石と連晶             束状                   連晶(2)
     全体として六角形をなす   錐面が大きく発達し柱面は        (恵那石との連晶?)
                      次第に細くつぼまり、ロート状

                          苗木石の形態

     自作の”ガイガーカウンター”を近づけると、1分間に15カウント程度を示し、自然放射能の
    約10倍程度の強度である。

 (2)その他、私のHPの別なページにもあるように、希元素鉱物として「モナズ石」「ジルコン」そして
    「フェルグソン石」などが採集できた。

5. おわりに

 (1)ペグマタイト中の母岩付き「苗木石」は、2005年5月にも山梨県内で採集していたが
   岐阜県苗木地方の”原産地標本”が欲しく、文献を読み直し、2日間かけ何とか3粒を
   採集できた。
    今回採掘した土砂の量と採集した標本の重量比率は次の通りである。

鉱物採集量重量比率     備      考
錫石80g74ppmはかりで計量
苗木石約0.5g0.4ppmサイズと比重から計算
トパーズ18g17ppmはかりで計量
水晶20g19ppm頭付きのみ・はかりで計量
その他希元素鉱物約0.1g0.1ppm概算
土砂の総量約1,080kg≒100%体積と比重から計算

    「苗木石」は土砂の中に0.4ppmという微量しか含まれていない。”場所による当り外れ”は
    あるにしても、この数字は大きく動きそうにない。
     スズ石に比べ、重量で1/160、(体積では1/94 になる計算)の産出量しかなく
    まさに”稀産鉱物”である。
     スズ石を砂鉱として工場規模で採掘していた頃には、それに伴って各種の希元素鉱物が
    比較的簡単に入手できたと思われるが、個人がパンニングによって採集するのは
    並大抵の苦労ではない。
    (砂金であれば、同じ量の土砂から10g前後採集できる筈)
     改めて、「苗木石」が選ばれた理由を実感できた。

 (2)今回、1粒でなく”3粒”採集できたのは、大きな意味があった。
    もし、1粒だけだったら、”後にも先にも、これ1つしか採れない”と考えるしかなく
   途中で何度止め様かとも考えたが、”もう一粒、もう一粒”と頑張ってみた甲斐があった。
    それだけに、この3粒の苗木石には、愛着ひとしおである。

 (3)両氏による資格審査基準は、次の通りです。
   @全部あれば一流コレクター。
   A70%以上なら、立派なコレクター。
   B30〜50%では、まだまだ努力が足りない。
   C30%以下では、コレクターという資格はない。

    今回、「苗木石」を自力採集し、47種を揃えたことになり、達成率は 47/54=87%と
   ようやくAの仲間入りでしょうか。

    あなたは、どのグループですか?

6. 参考文献

 1)岡本要八郎・桜井欽一:「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査
                 地学研究Vol.10 No.5,1958年
 2)長島乙吉・弘三:日本希元素鉱物,長島乙吉先生祝賀記念事業会,1960年
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