山梨県塩山市平沢の氷長石とチタン鉱物

山梨県塩山市平沢の氷長石とチタン鉱物

1.初めに

 山梨県の代表的な鉱物の1つに、塩山市平沢の氷長石と板チタン石があります。
石友の東京都のTさん親子に会ったったときに、氷長石の晶洞部分に板チタン石が
付いたものを見せて貰った。それは、2002年9月の塩山市周辺でのミニ採集会で
採集したとのこと。
板チタン石【採集、撮影:Tさん】
 平沢の板チタン石は、是非ともマイ・コレクションに加えたくて、密かに
採集の機会を覗っていた。
 今回、石友の千葉県のYさんとF君を案内して、ちょうど半年ぶりに訪れたところ
ズリの様子は余り変わっておらず、氷長石と水晶など、この産地の代表的な標本を
採集できた。
 自宅で氷長石をクリーニングして、実体顕微鏡で覗くと、念願の”板チタン石”と
”6連輪座双晶をなすルチル”のチタン鉱物2種類が共生しているのが確認でき
”こいつあ春から、縁起が良いわい”状態でした。
 しかし、氷長石の産出は、行く度に少なくなり、探すのには勘と粘りが必要です。
(2003年3月採集)

2.産地

塩山市街から北に411号線を柳沢峠に向かって走り、竹森の水晶山を右に
見て坂道を登って行くと左手に「山女魚釣堀」があります。この先約300mで
道は2手に分かれますが、ここを左に進みます。(右は鈴庫鉱山方面)
約300mで、10台近く駐車できる、平坦な場所(送電線工事の基地跡)に着く。
ここから、約180歩山に向かって轍跡のある農道を歩くと、左がコンクリートの擁壁
右に植林したヒノキ林がある。
 一番手前のヒノキに30cm大の石を立てかけ、もう一つの皿代わりの石の上に
5円玉を置いて、目印を作っておきました。
目印の右手に、雑木林の中に通じる山道があり、民家を下に見ながら、これを
たどれば、約300mで、ズリに到着します。
平沢のズリ

3.産状と採集方法

 平沢の氷長石に関する情報を文献で探したところ、「本邦鉱物図誌<2>」に
高田 愛次郎氏が1919年に「地質学雑誌26」に発表した、とありますが
原文は見ておりません。「日本産鉱物文献集」にも、同じ記述があります。
 氷長石は、カリ長石の一種で、低温型の晶出で、ここから北にある鈴庫鉱山も
珍しい低温生成の鉱脈であることと関連しているのかも知れません。
 ペグマタイトの晶洞に最後の生成物として結晶したようです。今では採集禁止の
茨城県の山の尾も同じタイプのようです。
 ここは、ズリがあるのに坑道やそれらしいものが見当たらない不思議な産地です。
氷長石は、こんな場所に、と思うような場所に濃集していますので、このポイントを
外すと全く見つかりません。採集方法は、表面採集と熊手などでズリ(?)を
掘り返しながら、探します。

4.産出鉱物

(1)氷長石【Adularia:KAlSi3O8】
 三斜晶系特有の、クサビ型に尖った結晶で、真っ白というより酸化鉄で染まった
と思われる黄土色がかった結晶が晶洞部に密集した形で産出しますので、この手の
ズリ石を探すのがポイントです。小さな結晶を持つ標本なら、必ず探せます。
大きな結晶は、今回私が採集したような、真っ白〜やや透明感があり水晶のカケラと
間違えやすいものもあります。
氷長石結晶【最大20mm】

(2)チタン鉱物
 チタンの酸化物【Titanium Dioxides:TiO2】には、同質異像とよばれる関係にある
3種類の鉱物があり、同じ成分でありながら、結晶の形(外観)は全く違う。
@板チタン石【Brookite:TiO2】斜方晶系
A鋭錐石【Anatase:TiO2】正方晶系
Bルチル(金紅石)【Rutile:TiO2】正方晶系

 産地によっては、1種類だけのことも、2種類または3種類が共生するケースもある。
山梨県内、近傍のチタン鉱物産出状況は、下表の通りである。

産地板チタン石鋭錐石ルチル
平沢   ○   ○
竹森   ○  ◎ 
乙女鉱山   ○ 
黒平   ○ 
水晶峠   ○ 
川端下   ○ 
川上村湯沼   ○  ○ 

平沢のように、ルチルと板チタン石の組み合わせは珍しい。


板チタン石【飴色板状6角形】  ルチル【細柱状の6連晶】
           平沢産チタン鉱物

Danaの"A System of Mineralogy"によれば、ルチルは、6連(sixlings)あるいは8連
(eightlings)の輪座双晶をなすとあります。
 「ペグマタイト誌」に、山口県宇久鉱山のルチルの双晶が報告されていますが
全て{011}を双晶面とする接触双晶だったとのこと。輪座双晶は珍しいと思う。
 また同誌に、茨城県長谷鉱山産板チタン石の六連輪座双晶が報告されていますが
平沢のものはルチルだと思います。写真では、60度の角度をなして細柱状結晶が
3方向に見え、反対方向にも、結晶は伸びています。
長谷鉱山産板チタン石双晶【ペグマタイトから引用】

(3)水晶【Rock Crystal:SiO2】
ここの水晶には、次の3つのタイプがあります。
@透明なもの(数は少ない)
A錆びて茶色に変色した長細い柱状あるいは四角の鉄鉱(?)が表面に付着したり
 インクルージョンになっているもの。
B竹森の流れを受けたススキ入り
 中に入っているのは、苦土電気石ではなく、ルチルや鉄電気石(一部紅柱石?)のようです。

         タイプ@         タイプA          タイプB
                 平沢産水晶のバリエーション

 今回、広い範囲で探したところ、透明水晶の群晶をいくつか採集できました。
水晶の群晶
(4)モンモリロン石【Montmorillonite:(Al,Mg)4Si8O29(OH)4・nH2O】
白〜ピンク色の土状で、長石の分解物として産する。指先で、簡単に粉状になる。
モンモリロン石【ピンク色】
(5)このほか、日本式双晶やモナズ石があった、などの情報もあります。
ここの水晶は、ズリ粘土で覆われており、持って帰って洗ってみると思わぬ発見が
あるかもしれません。

5.おわりに

(1)私が、鉱物産地としての”平沢”を知ったのは、チタン鉱物の”板チタン石”の
   産地としてでした。今回、長年の念願が叶い、板チタン石が採集できた。
   小さな結晶が、あなたの氷長石の標本にも、付いているかも知れません。
   調べてみては、如何でしょうか。
   早速、石友のTさんから、ルチルの写真が送られてきました。
   これも、六連輪座双晶で、平沢では、六連輪座双晶が多産するようです。
ルチル六連輪座双晶【採集、撮影:Tさん】
(2)実体顕微鏡の20倍で鮮明に見える板チタン石が4倍のデジカメで撮影したので
   何だか良く分からない写真になってしまいました。微細な鉱物の写真撮影法が
   今後の課題です。
(3)下を流れる沢で、砂金が採集できるとの情報があり、パンニング皿を
   持参したのですが、氷長石とチタン鉱物探しに熱中し、砂金探しは
   次回以降のお楽しみです。

6.参考文献

1)伊藤 貞市:本邦鉱物図誌 第二巻,大地書院,昭和13年
2)原田 準平:日本産鉱物文献集 1872〜1956,北海道大学 地質学鉱物学教室
         日本産鉱物文献集編集委員会,1959年
3)E. S. Dana:The System of Mineralogy 6th ed. ,1920年
4)高田、岩野:山口県阿武郡宇久鉱山産金紅石の結晶および双晶の形態
         ペグマタイト 第35号,1999年
5)鈴木、小原、高田:茨城県常陸太田市長谷鉱山産板チタン石の結晶および
             双晶の形態について,ペグマタイト 第49号,2001年
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