岐阜県平岩鉱山の蛍石

岐阜県平岩鉱山の蛍石

1.初めに

 「蛍石」で有名な岐阜県平岩鉱山は、是非一度は訪れたい産地の1つで、自分の手で
 是非採集したかった。
 なぜなら、私の住む山梨県には、蛍石の産地は知られておらず
 関東地方でも、茨城県の高取鉱山で採集したくらいで、産出が稀な鉱物である。
 一方、中部地方では、珍しくない鉱物とみえ、採集会の「標本玉手箱」には
 度々登場します。
 面谷鉱山産の「蛍石」を採集した余勢を加って、翌日に訪れ、ほぼ自形結晶を示すものを
始め、各種の形態の標本を採集できた。
 産地の情報を教えていただいた、愛知県の石友KさんとHさんに、厚く御礼申し上げます。

 平岩鉱山について、明治時代の和田維四郎氏による「日本鉱物誌」から第2次世界大戦後の
桜井 欽一氏による「日本鉱物誌 上巻 」を読んでも、掲載されていない。
 戦後数年を経て、昭和26年(1951年)に発行された「日本鉱産誌」にすら、平岩鉱山は1行も
記述されていない。
「日本鉱産誌」に、国内での蛍石鉱山が栄えなかった理由を次のように記述してあります。

 『・・・昭和12年(1937年)頃迄は蛍石の需要(供給?)の大部分を朝鮮・中華民國等に
仰いでいたため、僅かの鉱山が窯業用としての鉱石を産出していたに過ぎない。
 しかるに、1937年支那事変の勃発に伴う・・・国内各地の探鉱開発が急速に行わるに至った。』
 平岩鉱山は、戦後開発され、1960年代に最盛期を迎え、1970年代に閉山した、日本の鉱山の
歴史では、珍しいタイプなのである。
(2003年9月採集)

2. 場所

 武儀町平岩バス停の先から、橋を渡り、林道に入り、800mも走ると右手に白いズリが
見えてきます。

  平岩バス停

 ズリの写真を見た、奈良県の石友Aさんから、「林道が舗装されているのに驚いた」との
メールを頂いた。
 確かに、古い採集記事を読むと、林道で蛍石が拾えるような記述があります。

     
         北東から見る      南西から見る
                鉱山ズリ

3. 産状と採集方法

 3.1 平岩鉱山の地質・鉱床
   「東海 鉱物採集 GUIDE BOOK」によれば『平岩鉱山付近の地質は
    砂岩、泥岩、チャートなどが広く分布し、・・・・・これらの堆積岩に貫入している・・
    玉髄質石英・蛍石脈をなす。蛍石の鉱脈は、最大幅6m、深さは通洞坑の下200mまで
    採掘された。』

 3.2 採集方法
    ズリを掘ると良いとガイドブックにありますが、表面を丹念に見て回る表面採集で
   充分良品を採集できます。女性や子ども向きの産地です。

4. 採集鉱物

(1)蛍石【Fluorite:CaF2】
    一端は仏頭状をなし、他端はメノウのように層をなす、玉髄質石英の網目を充たす形で
   緑色の蛍石が採集できます。
    石英の層に沿って、緑〜青〜紫の蛍石が鉱染状に層をなすものもあります。
   また、稀ですが、分離結晶で、結晶面を残すものもありますが、殆どは劈開面です。
    熱ルミネッセンスを示すとありますが、”怖い”ので、試していません。
    紫外線を照射すると、福井県面谷産と同じように、緑色のものは、紫色になりますが
   白色や紫色のものに変化は見られない。

    これが何故なのか、仙台の石友Tさんに問い合わせたところ、早速、次のように
   ご教示いただいた。

    『蛍石の中に含まれている金属イオン、特に希土類元素の種類と有無、
     あるいは金属イオンの価数によって変わると言われます。
     無色のもの(例えば尾平鉱山大蔵谷)のものは、光るものはあまりありません。』

        
       緑の自形結晶         紫の自形結晶             鉱染状 
                      平岩鉱山産蛍石

   このほか、目ぼしい鉱物は見当たらなかった。

5.おわりに 

(1)ズリは広い範囲にあり、何処が良いのか、最初の訪山なので分からなかった。
   それでも、代表的な標本は採集できた。
    産地の情報を教えていただいた、愛知県の石友KさんとHさんに、厚く御礼を
   申し上げます。
(2)ここは、表面採集でも、色とりどりの蛍石が拾え、女性や子どもも参加する
   「採集会」向きの産地だと考えています。
(3)私の中学校の後輩のNさん(某校の学務課長)は覚えているかもしれませんが
   この中学校に隣接して工場があり、鋳物製品などを造っていました。
    私が中学1年か2年(1960年)のころ、ある雨の日、この工場のグランドに行くと
   紫、緑色をした小石が山のように積み上げてあった。
    その当時、鉱物にとりわけ興味もなく、何の石か知らずに、”キレイ”なので
   いくつか拾ってきたことを50年近く経った今、思い出しています。
    もしかしたら、平岩鉱山の「蛍石」だったのかも?

6.参考文献

1)工業技術庁地質調査所編:日本鉱産誌 U,東京地学協会,昭和26年
2)和田 維四郎:日本鉱物誌 第1版,東京築地活版製造所,明治37年
3)伊藤 貞一、桜井 欽一:日本鉱物誌 第3版,中文館書店,1947年
4)名古屋鉱物同好会編:東海 鉱物採集 GUIDE BOOK,七賢出版,1996年
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