栃木県東沢鉱山のバラ輝石

1. 初めに

   2006年も余すところ1ケ月足らずになった。今年一番数多く通った産地は何と
  いっても栃木県栗山村の「西沢金山」だろう。ざっと数えただけでも、7月から
  11月までの4ケ月で8回、平均月2回のペースで訪れたことになる。

   「西沢」が頭にあって、ネットオークションを見ていると「東沢鉱山のバラ輝
  石」が出品されていたので入札・落札した。落札品は、昔の情報にあるような
  ”1cmを超える自形結晶”には及ばないものの、まとまった数が丸いガラス
  ケースに並ぶとなかなか見ごたえがある。

    バラ輝石【オークション品】

   出品者は、「西澤金山を訪れたが”ルビーシルバー”は採れなかった」という
  ので「ルビーシルバー」と「黄粉銀鉱」の見本を送ったところ、「バラ輝石」は
  物々交換という形にしてくれ、産地の情報も教えてくれた。

   北関東の骨董市を見た後、妻と2人で東沢鉱山を訪れた。産地は崩落した坑口の
  前に広がるズリで、マンガン鉱物も少なく、持参したピンセットでようやく摘め
  る2、3mmのバラ輝石と2mmほどのマンバン柘榴石が母岩に付いたものが採
  集できただけであった。
   先行者が1人いたようだったが、産地の状況を見て、早々に引き上げたらしい。

   「東沢鉱山のバラ輝石」は”絶産”に近い状況であり、オークションで手に入
  れようとした私の選択は間違っていなかった。現地を訪れ、小さなものだがこの
  産地特有の”真紅のルビー”を思わせるバラ輝石の頭つき自形結晶を採集
  できたのは、何よりだった。
   産地情報を提供してくれた、石友・Kさんに厚く御礼申し上げます。
  ( 2006年11月採集 )

2. 産地

   栃木県鹿沼ICから足尾町(現日光市)に抜ける鹿沼足尾線から林道に入ったと
  ころにある。「発光路(ほっこうじ)」というバス停が目印である。
   ここは、有名な産地で、情報も多いと思われるので詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

   東沢マンガン鉱山は、「接触変成層状マンガン鉱床」とされ、バラ輝石の自
   形結晶を産出することが、鉱物ファンの間に広まり、あっという間に、”絶産”
   になってしまったらしい。
    産地は崩落した坑口の前に広がるズリで、何回も掘り返された後が残り、杉
   木立の根っこまで掘り返されている。

       
        崩落した坑口跡              ズリ
                     東沢鉱山

    採集方法は、ズリの表面採集が一番良かった。この日は晴れていたので、バラ
   輝石の結晶面が”キラキラ”と光かり、それを目当てに持参したピンセットで摘
   み上げて採集した。
    近くに水場があるので、フルイ掛けもトライしたが、小さい目のフルイを持参
   したにもかかわらず”目が大き過ぎ”て、ひと欠片(カケラ)も採集できなかっ
   た。

4. 産出鉱物

 (1)バラ輝石【Rhodonite:CaMnSiO2
     バラ輝石の母岩の破面に自形結晶の一部が見える場合がある。分離結晶は
    へき開片や破片がほとんどで、稀に結晶面が見られ、今回採集できたような
    ”頭つき単結晶”はよほど運が良くなければ難しいらしい。
     しかし、破片でも、宝石の”ルビー”を思わせ、愛知県田口鉱山産の”パ
    イロクスマンガン石”に勝るとも劣らない美しさがある。

        
           塊状           頭つき単晶         へき開〜破片
                         バラ輝石

 (2)満ばん柘榴石【Rhodnite:CaMnSiO2
     真っ黒い二酸化マンガン鉱(軟マンガン鉱?)の表面に、5角12面体の無色
    〜黄褐色透明の結晶が見られることがある。

     満ばん柘榴石

5. おわりに

 (1) 初めて訪れた産地が、”絶産”状態、というのも酷なものがある。東沢鉱山の
    情報を知ったのは、数年前だった、と思う。
     「鉱物採集フィールドガイド」の巻末に掲げられた『主要鉱物産地表』を見
    てみると、『栃木県上都賀(かみつが)郡粟野町発光路(ほっこうじ)鉱山』
    の項に、”ばら輝石”とある。

 (2) インターネットの情報では、「東沢鉱山」と「発光路鉱山」は同じ、として
    いるもの、別物としているものがある。
     単身赴任先には、最低限の鉱物関連書籍しか持参していないので、両者が
    がどのような関係にあるのか、調べきれていない。
     いつか、ジックリ調べてみたいと考えている。

6. 参考文献

 1)松原 聡:日本の鉱産,滑w習研究社,2003年
 2)草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
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