岐阜県柿野東洞の灰鉄輝石と緑水晶-その2-
岐阜県柿野東洞の灰鉄輝石と緑水晶-その2-
1.初めに
私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと
採集会を開催するようになって、3年目を迎えた。
例年であれば、12月は、鉱物採集が難しい季節になっているが2003年は
暖冬の影響で、12月でも採集が可能であった。
しかも、暖かい時期には油断できない”ヒル”の心配も全くない。
今回は、「岐阜県の有名産地を訪ねて」と題して、岐阜県の相戸鉱山、柿野鉱山
福岡鉱山、関戸川、ちんの峠を2日間にわたり、延べ26名の皆さんと訪れた。
参加者は、静岡、愛知、三重、兵庫、と広範囲で、久しぶりの出会いを喜びながら
初参加の方々も和気藹々の採集会となった。
初日は、ジンクス通り雨天で、この日の最後に柿野東洞を訪れた。
加藤 昭・松原 聰・野村 松光先生共著の「鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-」に
「岐阜市北方の接触鉱床とスカルン鉱物」の章があり、その中に、
『柿野東洞の集落から山をかなり登ったところで、灰鉄輝石の美晶が多産し
「菊寿石」として採掘している。
これに伴って、草入水晶や磁硫鉄鉱も産出する。』とある。
相戸鉱山での採集が終わって、帰り際に、滋賀県のNさんが見せてくれた柿野の水晶は
褐鉄鉱を被っているが5cmの”X字形の透入双晶”と灰鉄輝石の入った緑水晶である。
思わず、参加者の眼がらんらんと輝きだした。
柿野の集落に着いた時には、雨は本降りだが、皆、イソイソと採集支度にかかる。
愛知県のKさんが、昔「菊寿石」を採掘したズリを発見してくれた。
そこで、緑水晶の群晶をNさんの奥さんと私がゲット!!
2002年6月の訪問に続く2回目の訪問で、この産地の目玉を採集できた。
(2003年12月採集)
2.産地
美山町を柿野川が流れており、この支流(東洞谷から流れてくる)沿いに
東洞に向かって走ると集落の手前、谷の反対側に墓地があり、欄干のない橋が
かかっている。
この橋の手前に2台くらい駐車できるスペースがあり、ここに車を停め
墓の真ん中を登っていき、沢を遡上する。約150m登ると、右上に、物置
(鉱山の施設だった?)のような建物が2棟あるあたりから上流が灰鉄輝石の
産地です。
昔「菊寿石」を採掘したズリは、更に上流で、一面”ズリ”らしい雰囲気を醸し出して
います。
柿野採集風景【Nさん撮影】
3.産状と採集方法
ここも、洞戸鉱山と同じように、古生代の粘板岩、砂岩、チャート石灰岩と
これらを石英斑岩が貫く典型的なスカルン鉱床です。
赤土(褐鉄鉱を交え、赤茶けてる)を含むズリを掘ると、灰鉄輝石の塊があり
晶洞を方解石が充填し、その中に灰鉄輝石が成長しており、緑水晶が族生しています。
”ズリ”採集の鉄則を守ると、良品が採集できます。
4.産出鉱物
(1)灰鉄輝石【Hedenbergite:Ca(Mg,Fe)Si2O6】
緑黒色をした針状結晶の放射状集合体として、産出します。母岩の方解石の中に
灰鉄輝石の透明結晶が含まれています。塩酸で方解石を溶かせば、綺麗な結晶が出て
きます。雨水などで方解石が溶け、灰鉄輝石の結晶が出ている標本もあります。
磁硫鉄鉱を伴う、灰鉄輝石もあります。
灰鉄輝石結晶 菊寿石【磁硫鉄鉱と共生】
(2)草入水晶【Rock Crystal includig Hedenbergite:SiO2】
灰鉄輝石の毛状集合体が取り込まれた(残った?)石英の部分があり
その晶洞部分に緑色の草入水晶がある。
緑色に色づいている原因は、灰鉄輝石の毛状〜針状結晶です。
稀に、頭付き緑水晶の群晶があります。
草入水晶群晶
5.おわりに
(1)「日本鉱産誌」によれば、この近くに柿野鉱山(金城鉱山)や新柿野鉱山があり
閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを採掘した。
柿野鉱山は、銀が370〜540g/tと、高い品位だったようですが、輝銀鉱などの
銀鉱石の記述が見られませんので、これらの銀は方鉛鉱や閃亜鉛鉱などに含まれていた
と考えられます。
(2)2002年6月に採集した緑水晶は5mmサイズでした。
『どのくらい大きなものまであるのか?』楽しみにしていましたが、3cmクラスを
採集できました。
6.参考文献
1)加藤昭、松原聡、野村松光共著:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
2)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 T-b(銅・鉛・亜鉛),東京地学協会,昭和31年