千葉県平久里(へぐり)のゾノトラ石

      千葉県平久里(へぐり)のゾノトラ石

1. 初めに

   某電子部品メーカーから招請をいただき、技術コンサルタントとして2008年1月
  千葉県に単身赴任した。
   2008年2月、仕事の道筋もある程度読めるようになり、千葉県の代表的産地の
  「鴨川」地区をまず訪れ、2週間後に「平久里」を訪れた。

   このときのミネラル・ウオッチングの目的は「ゾノトラ石」を初めとする炭酸塩
  鉱物だった。千葉県の石友・Yさんの情報では、『 運が良ければ、ゾノトラ石
  【XONOTLITE:Ca6Si6O17(OH)2】が見つかるかも知れない 』
、とあり
  密かに闘志を燃やしていた。

   しかし、このとき、「肉眼サイズの自然銅」という ”瓢箪から駒” が飛び出し、
  「ゾノトラ石」は次回のお楽しみ、となった。

   2008年3月、満を持して、2回目の「平久里」ミネラル・ウオッチング行となった。
  6時前にマンションを出発、すぐ京葉道路にのり、「市原SA」で60歳以上シルバー
  割引の”朝食バイキング”をシッカリ食べ、9時前には「平久里」に到着した。

   何となく、匂いがする斑レイ岩の露頭を叩くと、いきなり「細かい針状」結晶が
  密集した鉱物が飛び出した。ルーペで確認すると、加藤・松原両先生の「鉱物
  採集の旅 東京周辺を訪ねて」にある写真そっくりの『ゾノトラ石 』だった。
   あまりのあっけなさに、拍子抜けした。この近くの蛇紋岩からは、美しい「霰石」が
  さらに近くの露頭では「方沸石」など未だ入手できていなかった鉱物種も採集できた。
   女性や小学生でも安全な場所なので、次回のミネラル・ウオッチングの候補地の
  1つになれそうだ。

   貴重な文献「千葉県の鉱物」を恵与いただいたMさん、産地情報をいただいた
  Yさんに厚く御礼申し上げます。
   ( 2008年3月採集 )

2. 産地

    千葉県富山町平久里は、館山自動車道「鋸南富山IC」でおり、10kmほどで
   産地に到着する。
    産地は、次の3箇所だが、1つ1つの範囲が広いので、今回のように、思わぬ
   鉱物に出会える可能性も高い。
    なお、産地Aの稼行中の採石場は、休みで、たまたま居合わせた方に了解を
   得て採集させていただいたが、いつも採集できるとは限らないので、悪しからず
   了解願いたい。

       
         @旧採石場          A稼行中の採石場

    
           B沢
                      産地

3. 産状と採集方法

   「関東地方の鉱物」にあるように、「はんれい岩」「玄武岩質凝灰岩」あるいは
  「かんらん岩」などが見られる。
   それらの露頭や転石の中で白い炭酸塩鉱物の脈が入った部分をハンマとタガネで
  割って破断面を観察する。

4. 産出鉱物

 (1) ゾノトラ石【XONOTLITE:Ca6Si6O17(OH)2
      斑レイ岩の隙間を満たすように極めて細い針状結晶、繊維状とも呼ぶべき
     細さのベージュ色(肌色)の結晶が集合しているのが観察できる。
      自形結晶が確認できるのは、平久里だけだろう。

         
               全体               拡大
                      ゾノトラ石

      加藤、松原両の先生の ” Xonotlite from Heguri ”には、平久里で観察できた
     結晶図が掲載してあるので、引用させていただく。
      先端が尖ったものと平坦なものの大別して2種類、細分すれば3種類ある
     ようだ。

            
               結晶図【” Xonotlite from Heruri ”から引用】

 (2) 霰石【ARAGONITE:CaCO3
      蛇紋岩のヒビ割れ面に、透明〜白色、薄長板状結晶が”花びら状”に集合
     した標本が得られた。
      今まで千葉県で採集した霰石の中で一番美しいもので、女性に好まれそうだ。

         
              全体               拡大
                        霰石

 (3) 方沸石【ANALCIME:NaAlSi2O2・H2O】
      透明、石榴石のような偏稜24面体結晶で玄武岩質凝灰岩の中に脈として
     見られ、脈の空隙には、写真のような径3mm程度の自形結晶の集合が見ら
     れる。
      屈折率が高く、”キラキラ”輝くので、晴れた日には数メートル離れた場所
     からでも気づく。

         
              全体               拡大
                      方沸石

 (4) 方解石【CALCITE:CaCO3
      ページュ色、不透明で稜が融けて丸みを帯びた”犬牙状”結晶が斑レイ岩の
     空隙の中に見られる。
      周辺にある”針状”結晶は、「ゾノトラ石」と思われる。

       方解石

5. おわりに 

 (1) ゾノトラ石とローゼンハーン石
      私のHPに「同質異像鉱物」なる1ページがある。

   ・同質異像鉱物
    ( Polymorphism Minerals , Tokyo )

      2005年12月、池袋のミネラルショーで加藤先生の講演を聴き、その内容を
     まとめたものである。
      「準同質異像鉱物」の章で、現在では全く別な組成とわかっているゾノトラ石
     とローゼンハーン石が分析精度が低い時代に、同じ成分で結晶系が違う「同質
     異像」と間違われていたようだ。

      普通、鉱物の化学式は単純な整数で表現できるが、ローゼンハーン石は
     【ROSENHAHNITE:Ca3Si3O8((OH)2-4xOx(CO3)x)】と方程式のようになって
     いる。

      ひょっとして、平久里でもローゼンハーン石が、と期待しているのだが、岡山
     県布賀のような『高温スカルン』と呼ばれる条件でないと難しいようだ。

 (2) 千葉の鉱物産地
      千葉に単身赴任して、1ヶ月半が過ぎた。あちこちの産地を回って、行くたびに
     新しい鉱物種や産状の標本が採集できる素晴らしい場所だ。
      『石(鉱物)なし県』、と名付けた人はよほど眼力がなかったのだろう。

      まだまだ、訪れてみたい産地、探してみたい鉱物種が残っており、単身不倫
     でなくて単身赴任はタップリ楽しめそうだ。

6. 参考文献 

 1) Akira Kato and Satoshi Matsubara: Xonotlite from Heguri , Chiba Pref. , Japan
                           National Science Museum , 1975
 2) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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