千葉県平久里の「ゾノトラ石」と「トベルモリー石」

      千葉県平久里の「ゾノトラ石」と「トベルモリー石」

1. 初めに

   千葉県にある某電子部品メーカーさんから招請をいただき、技術コンサルタント
  として、2008年1月末、単身赴任した。

   「石(鉱物)なし県」と言われる千葉県だが、私の住んでいる山梨県とは毛色が全く
  違った鉱物が多いことを知り、『ハンマに封印』する前に産地に立っていた。

   それから半年近くが経ち、契約期間も残すところ1ケ月足らずとなった。この6ケ月
  のミネラル・ウオッチングを総括しておきたいと思い至った。

   『 千葉県を代表する鉱物 』 は何だろうか?

    2008年4月に東京上野にある科学博物館本館を訪れ、「桜井鉱物コレクション」を
   松原先生の解説で見学したのは既報の通りである。ここに展示されている鉱物が
   各都道府県の代表的な鉱物とも言える。

   千葉県産では『 平久里の「ゾノトラ石」と「トベルモリー石」 』の2種
  が展示してあり、これがある意味での代表鉱物となるだろう。

No  鉱  物  名産  地 標  本  写  真 備 考
@トベルモリー石南房総市平久里桜井標本
Aゾノトラ石南房総市平久里勝氏寄贈

    そんなわけで、平久里の「ゾノトラ石」と「トベルモリー石」についてまとめてみた。
   「トベルモリー石」の産地を案内していただいた千葉・Sさんに厚く御礼を申し上げる。

    さて、横浜の石友で職人でもあるKさんから、『 いよいよ年期明けですね 』、との
   メールをいただいた。千葉県にある某電子部品メーカーさんから招請をいただき、
   技術コンサルタントとして2008年1月末、単身赴任して早くも契約の最終月を迎えて
   いる。
    できの悪い職人にもかかわらず、最近スタートした新しいプロジェクトの方も見て
   欲しい、とのありがたい要望をいただき、契約は2009年の3月まで延長になりそうだ。
    湯沼鉱泉社長や大勢の石友と『晴雨読』の生活を楽しめるのは、少し先になりそう
   だ。
   ( 2008年7月まとめ )

2. 産地

   千葉県南房総市平久里が産地である。最近出版された「鉱物観察ガイド」にはカラー
  写真が掲載されているが最近撮影されたものではなく、30年近く前に出版された「鉱物
  採集の旅 東京周辺をたずねて」の写真そのままのようだ。
  ( ただ、白黒がカラーになっただけ )
   30年も経てば、産地の様子は一変している。

      
       「鉱物採集の旅」         「鉱物観察ガイド」
                 平久里産地

   有名な産地なので詳細は割愛する。ただ、「トベルモリー石」や「針状結晶のゾノトラ石」を
  産出するポイントは限られているようで、十分な情報がないと採集は難しいだろう。

   私は、「針状結晶のゾノトラ石」のポイントは自力で開拓できたが、「トベルモリー石」の
  産地は偶然出会った千葉県・Sさんに案内していただき、初めて知った。

3. 産状と採集方法

   「鉱物採集の旅」や「鉱物観察ガイド」などにあるように、平久里一帯には、凝灰岩や
  斑レイ岩そして柘榴石角閃石片岩の露頭あるいは転石が見られる。
   私が採集した「針状結晶のゾノトラ石」は斑レイ岩に伴い、「トベルモリー石」は柘榴石
  角閃石片岩に伴うものである。
   タガネとハンマーで、掻き取って採集する。

4. 採集鉱物

 (1) ゾノトラ石【XONOTLITE:Ca6Si6O17(OH)2
      斑レイ岩の隙間を満たすように極めて細い針状結晶、繊維状とも呼ぶべき
     細さのベージュ色(肌色)の結晶が集合しているのが観察できる。
      自形結晶が確認できるのは、平久里だけだろう。

         
               全体               拡大
                      ゾノトラ石

      加藤、松原両の先生の ” Xonotlite from Heguri ”には、平久里で観察できた
     結晶図が掲載してあるので、引用させていただく。
      先端が尖ったものと平坦なものの大別して2種類、細分すれば3種類ある
     ようだ。

            

               結晶図【” Xonotlite from Heruri ”から引用】

 (2) トベルモリー石【TOBERMORITE:Ca5Si6O16(OH)2・4H2O】
      真っ白い脈状で見られ、”陶器質”と表現される破面を示す。平久里のトベル
     モリー石はペクトライト脈と入り混じっていて、鑑定に苦しむこともある。

       トベルモリー石

      加藤、松原両の先生の ” A Barium-bearing Tobermorite from Heguri ”の
     タイトルにあるように平久里産のトベルモリー石にはバリウム(Ba)が含まれてい
     るのが大きな特徴となっている。

      トベルモリー石の名前は、原産地であるスコットランドのTobermoryにちなんで
     名づけられたもので、原産地は無論、イタリアなどから産出するものにもバリ
     ウムは含まれていない。

      また、平久里のトベルモリー石にストロンチウム(Sr)が含まれているとの報告
     があったようだが、再度分析した結果、含まれていないようだ。

5. おわりに

 (1) 千葉県を代表する鉱物
      千葉県に来て早くも契約期間の6ケ月が過ぎようとしている。「石(鉱物)なし県」
     言われながらも、私が住む山梨県などでは採集できない鉱物種も多い。

      改めて、千葉県を代表する鉱物を選ぶとなると悩ましい。なぜなら、選択基準が
     違えば違った鉱物が選ばれるからである。
      ( 野球のオールスターが、ファン投票、監督推薦、選手互選で違うようなもの )

      そこで、選択基準別にリストアップしてみることにした。

 選 択 基 準    鉱  物  名 産  地   備        考
国立科学博物館に展示
「桜井標本」
ゾノトラ石
トベルモリー石
平久里ゾノトラ石の針状結晶はここだけ
「トベルモリー石」は桜井標本ではない
幻の鉱物ラブラドライト
(中性長石)
鴨川「鉱物採集フィールドガイド」にある
有名標本にある鉱物砂鉄君津郡
銚子海岸
「金石舎」鉱物標本
岩本鉱産物商会標本
綺麗な鉱物ソーダ沸石鴨川「日本の鉱物」に記載
ピンク色の霰石銚子 
琥珀銚子白亜紀地層から産出 
新発見自然銅
(肉眼サイズ)
平久里
正確には、○○
2008年2月発見

  (2) 年期明け
      さて、横浜の石友で職人でもあるKさんから、『 いよいよ年期明けですね 』
     とのメールを6月末にいただいた。2008年1月末、技術コンサルタントとして単身
     赴任して早くも半年が過ぎようとしている。
      できの悪い職人にもかかわらず、最近スタートした新しいプロジェクトの方も見て
     欲しい、とのありがたい要望もいただき、契約も2009年の3月まで延長になりそうだ。
      湯沼鉱泉社長や大勢の石友と『晴雨読』の生活を楽しめるのは、少し先に
     なりそうだ。

      千葉にいる間に、「砂鉄」など、地味だが千葉県らしい鉱物は産地の現状を確認
     して記録に残しておきたいと思っている。

6. 参考文献

 1) Akira Kato and Satoshi Matsubara et al: Xonotlite from Heguri ,Chiba Pref. ,Japan
                             National Science Museum,1975年
 2) 加藤 昭、松原 聡:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 3) Akira Kato and Satoshi Matsubara et al: A Barium-bearing Tobermorite from Heguri
                             Chiba Pref. ,Japan
                             National Science Museum, 1984年
 4) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2003年
 5) 松原 聡、加藤 昭:鉱物観察ガイド,東海大学出版会,2008年
inserted by FC2 system