南巨摩郡早川町のくいちがい石

南巨摩郡早川町のくいちがい石

1.初めに

益富博士の著書の1つに、「石・昭和雲根志」があります。この本は、益富博士の
紫綬褒章受賞記念会が昭和42(1967年)年に発行したものです。
 これに先立つことおよそ200年、近江国(今の滋賀県)に住んでいた木内石亭が
江戸中期の安永2年(1773年)から享和元年(1801年)にかけて、形の奇なる石のほか
只の石ころではないという見地から多くの石薬について、「雲根志」(前編・後編・三編)の
三部作として著しました。
「石・昭和雲根志」はその昭和版と言えるでしょう。この本には、「雲根志」はじめ
中国・日本の「奇石」に関する文献に記載されていない奇石・石薬を《新載》として
記述してあり、その1つに「くいちがい石」があります。
 益富博士が、再版に際しての中で『中国遼東省得利寺産の「くいちがい石」は
世界稀有の奇石だと紹介したが、愛知県三河大野の礫層中をはじめ、群馬・静岡・石川
愛媛の各県下に「くいちがい石」の存在が知られ唖然とした。』と述べておられます。
益富博士の生誕100年に当る記念の年に、山梨県下でも産出することを確認したので
謹んでご報告します。
(2002年10月採集)

2. 産地

山梨県南巨摩郡早川町の露頭が産地です。
露頭

3. 産状と採集方法

ここは、数百万年前の中新世後期〜鮮新世前期に砂礫岩が堆積したもので、当時は
陸地に近い、暖かい海であったと思われます。
ここには、露頭を底とする褶曲構造が見られ、褶曲に伴う剪断割理によって礫岩中の礫に
くいちがいが生まれたと想定される。従って、剪断割理面を追いかけ、運良く(?)その面に
当った礫を露頭から採集します。
もしかしたら、露頭から崩落した礫の中にもあるのかもしれません。
「くいちがい石」産状【白い線が剪断割理面】

4. 採集鉱物

(1)くいちがい石【Sheared Gravel:- 】
採集したものは、長径13cm、短径10cmで、ほぼ真ん中から、最大で1cmほど
くい違っています。割理面は真つ平ではなく、食い違い面には、方解石(?)が層をなし
これが接着剤の役割を果たしている様で、剪断の摩擦熱で溶融再固結したものでは
なさそうです。
くいちがい石

5.おわりに

(1)「くいちがい石」は鉱物と呼べないかも知れませんが、鉱物・石好きとしては
1つは持っていたいと思います。
「石の長者」と呼ばれ、85年の生涯を奇石の収集と愛玩に賭け、趣味より進んで
日本先史学の先駆けとなった木内石亭の生き様は、私の理想です。
木内石亭著の「雲根志」を探していますが、馬鹿高いので2の足を踏んでいます。
(2)「石・昭和雲根志」もかねがね読みたいと思っていましたが絶版で、全国の
古書店を探しても見つかりませんでした。
幸い、益富博士の生誕100年記念行事の一環で、第3版が発行されました。
京都の益富地学会館に申し込むと送ってもらえます。(1500円+税・送料)

6.参考文献

1)益富壽之助:石・昭和雲根志,白川書院,2002年
2)斎藤忠:人物叢書 木内 石亭,吉川弘文館,昭和37年
3)田中収編著:山梨県 地学のガイド,コロナ社,昭和62年
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