奈良県桜井市針道の鉱物

奈良県桜井市針道の鉱物

1.初めに

2001年秋、梓鉱山での採集会のおり、「標本玉手箱」で兵庫県のNさんから
奈良県針道の黄鉄鉱を頂いた。小粒だがキラキラと輝き美しく、パッと見ただけでも
様々な結晶形態があるのが分かり、実際に産地を訪れ、自分の手で黄鉄鉱を
採集したいと思っていた。
今回の奈良県での鉱物採集を案内してくれたAさんと息子のT君が、最初に鉱物採集に
来たのがこの針道で、思い出の場所だと伺った。
鉱物採集を初めるキッカケは、やはり水晶か黄鉄鉱のようです。
奈良県鉱物採集の旅の最後に訪れ、黄鉄鉱のほか輝安鉱などを採集することが
できた。
案内していただいた、Aさんと息子のT君に感謝しています。
(2002年11月採集)

2.産地

桜井市の談山神社に向かって坂道を登って行き、「←針道」の標識で左折する。
針道の集落を抜け、林道の急坂を登る。4WDなら産地横付けだが、手前右の沢に
杉丸太を渡し覆土した駐車スペースに停める。
ここから、急坂を喘ぎながら300mも登ると林道は行き止まりになり、切り出した
杉丸太が積み重ねられた広場で、「ペグマタイト」誌などにも掲載されたお馴染みの
風景である。
針道の黄鉄鉱産地入口

この上50m位に、沢を掘り返した跡があり、絹雲母質粘土の中に黄鉄鉱がある。
産地【T君】

3.産状と採集方法

針道周辺には花崗岩が分布し、それらの中の長石などが変質し、絹雲母質の
粘土脈になり、この中に黄鉄鉱を初めとする各種の鉱物が含まれている。
この鉱脈ができたのは、約5,000万年前(恐竜が生きていた時代よりチョット後)と
言われる。
「日本鉱産誌」によれば、ここは多武峰鉱山と呼ばれ、大正の初期以来、断続して
水銀鉱山として稼行し、辰砂を採掘した時期があったようで、1943年(昭和18年)に
519gの水銀を産出したとありますが、この本が編まれた1955年(昭和30年)には
坑道は崩壊していたようです。
絹雲母粘土を採掘し、そのときの邪魔になった黄鉄鉱を捨てたと言われているのは
その後のことでしょう。
現地でピンセットで黄鉄鉱を摘み上げるのはいかにも流暢で、非能率的ですので
シャベルで粘土を掬ってビニール袋に入れて、持帰りました。
【後日談】
自宅に帰った後、この粘土を水洗いして、最後にパンニングして鉱物を選別しました。
遠くから採集に行く場合、このやり方がベストです。

4.採集鉱物

(1)黄鉄鉱【Pyrite:FeS2】
絹雲母質粘土の中にあるため、四周完全な結晶が多く、大きさは1cmどまりですが
6面体、5角12面体など各種の単晶とこれらが組み合わさった透入双晶などがあり
結晶形態学的にも面白い。
母岩に付いたものも見られます。

      いろいろな結晶      母岩付き
            針道産黄鉄鉱
(2)輝安鉱【Stibnite:Sb2S3】
輝安鉱はアンチモンの主要な鉱物で、市之川の日本刀を思わせる結晶が有名ですが
ここのは、黒色で金属光沢のある針状〜棒状結晶の集合体として産出します。
ベルチェ鉱【Berthierite:FeSb2S4】と外観はソックリなので肉眼での判定は難しく
ここでは輝安鉱としておきますが、両方が出ているのかも知れません。
輝安鉱
(3)このほか、ここでは辰砂が採掘されたはずですが、限られたスポットの粘土を
持ち帰っただけなので入っていませんでした。辰砂の結晶(比重7.65)なら黄鉄鉱
(比重5.01)や輝安鉱(比重4.63)よりはるかに重く、パンニングで残るはずです。
この近くには、大和水銀鉱山はじめ大小の水銀鉱山があり、いずれも鉱染状であり
大きな結晶はなかったと思われます。

5.おわりに

(1)黄鉄鉱には、整流(1方向にだけ電流が流れる)作用があり、第2次世界大戦前
から戦後のある時期まで、Ge(ゲルマニューム)やSi(シリコン)が半導体整流素子と
しての地位を確立するまでの間、無線電波を検出する検波器として使われた。
「日本鉱産誌」には、針道はじめ国内、台湾合わせて15の鉱山産の黄鉄鉱について
電波の検出感度の良否を研究した結果が掲載されています。針道産のものは
13〜14位と余り芳しい成績ではなかった。
ちなみに、最も良かったのは、群馬県西ノ牧鉱山産、次いで石川県尾小屋鉱山産の
ものであった。
(2)Aさんと息子のT君に案内してもらい、東は三重県、西は和歌山県の県境近くまで
奈良県内の鉱物産地を縦横に駆け巡って、主な産地を訪れ、それぞれの産地の代表的な
標本をほとんど網羅することができた。
名阪国道の天理ICまで送って頂き、満足感一杯で、奈良県を後にした。
日の出前から日没まで、産地を案内していただいたAさんとT君に厚く御礼申し上げます。

6.参考文献

1))大阪地域地学研究会:関西地学の旅 宝石探し,東方出版,1998年
2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
3)東京地学協会編:日本鉱産誌 T−a,砧書房,昭和30年
4)工業技術院地質調査所編:日本鉱産誌 W,東京地学協会,昭和28年
inserted by FC2 system