茨城県花園山の希元素鉱物

        茨城県花園山の希元素鉱物

1. 初めに

    2009年 明けましておめでとうございます。

   この春、3男が結婚することになり、なにかとバタバタ忙しい。年が明けてもフィールドに
  出られず、古くて恐縮だが、2008年暮れのミネラル・ウオッチング記が続くことになる。

    2008年11月、今年の「採集納め」をどこにしようかと考え始めていたころ、茨城県のTさん
  から、「茨城県花園山を案内します」、とのメールをいただいた。HPにも書いたように、
  過去にも数回花園山を訪れ「紅柱石」、「鉄バン柘榴石」などは採集できたが、「希元素
  鉱物」は眼にしていなかった。
   Tさんが、新しい産地情報を入手した、とのことなので、2つ返事で案内をお願いした。

   師走に入った日曜日、まだ薄暗い早朝、Tさん宅近くで落ち合い、Tさんの車に乗せていた
  だき常磐道を北上すると、夜明けから降り出した雨が時折激しくなる。危うし”晴れ男”
   「北茨城IC」で降り、花園神社で福島県のAさんと合流した。

   最初に案内していただいたのは、青色の「含ストロンチウム方解石」産地だった。先人が
  採り溜めてくれた貯鉱の中から標本を探す。ミネラル・ウオッチングの「玉手箱」分を含め
  数個採集した。
   ( これについては、別な機会に報告したい )

     
             産地               標本
               「含ストロンチウム方解石」

   次に案内していただいたのは、「紅石英」産地で、ここも初めて訪れる場所だった。産地
  に着く前から雨は雪に変わっていた。珪長石堀場跡らしく、地表に点々と石英が見られ、
  中には「紅石英」もある。少し掘ると、「紅柱石」、「鉄電気石」の5cmを超える良晶が出て
  きた。

   【後日談】
    電気石が付いているのだろうと持ち帰った石英・長石塊には、「ジルコン」、「モナズ石」
   そして「ゼノタイム」があった。標本を洗ったバケツの底に残った一つまみほどの土砂を
   パンニングしたところ、「ジルコン」、「モナズ石」そして「コルンブ石」などの希元素鉱物が
   あり、HPのタイトルを『花園山の希元素鉱物』 にした。
    「紅柱石」には、かなりの比率で『サファイア(コランダム:鋼玉)』が見られ、この産地で
   初めて自力採集できた。

   今回訪れた産地は、一般には知られていないようで、ズリもほとんど手付かず状態だった。
  このような貴重な産地を案内、往復とも車を運転してくれたTさん、同行していただいたAさん
  に厚く御礼申し上げる。
  ( 2008年12月採集 )

2. 産地

   常磐道「北茨城IC」で下り、すぐに左折し、花園の標識に従って進む。水沼ダムの上を
  通り、花園神社域に至る。ここまで、約10kmで、信号も少なく、20分程度だ。

   私が知っている花園山のポイントは次の3ケ所である。

   (1) 花園山登山道脇の鉱山ズリ
       通称「峠下橋」、鉱物同志会の採集会が2001年に開催された場所
   (2) 花園神社奥の院の駐車場から川の上流の右岸のペグマタイト脈
       通称「滝見橋」
   (3)花園神社の駐車場から南西に林道を走った右側の
       ペグマタイト貯鉱場と奥の採掘跡

     (1)は何回か訪れ、成果が一番あったので、その結果はHPに掲載してある。

     今回、Tさんが案内してくれた場所は、私が全く知らない場所だった。ここは、かつて
    珪長石を掘った跡らしく、地表に点々と石英が見られ、中には「紅石英」もある。ただ
    大きな露頭などは見当たらず、小規模な露天掘りで終わったようだ。ズリを少し掘ると
    5cmを超える「紅柱石」、「鉄電気石」など良晶が出てくる。

      産地

3. 産状と採集方法

   「茨城の自然をたずねて」によれば、花園神社から西には、竹貫(たかぬき)変成岩が
  露出し、この岩は地下約20kmで高温の変成作用を受けた粗粒の片麻岩、とある。
   この黒雲母片麻岩が高温・高圧で溶けて紅柱石、柘榴石になったらしい。また、一部に
  花崗岩が貫入し、もともとあった石灰岩体に変成作用を与え、粗粒晶質石灰岩(大理石)
  に変化し、この際ストロンチウムによって水色に色づいた、と考えられる。

   今回、貯鉱を叩いたり、ズリを掘って採集したが、「希元素鉱物」の母岩付きを狙うなら
  石英・長石塊を洗ったり、ブラシで擦り、ルーペで見るのが良く、分離結晶で良いならパン
  ニングが一番確実だろう。
   ( パンニングは、沢水が豊富にあり、冷たくない季節を選ぶほうがよいだろう )

4. 産出鉱物

 (1) 鉄コルンブ石【FERROCOLUMBITE:FeNb2O6
     黒色、板状結晶の集合として産する。頭が尖っているのが特徴。今回、持ち帰った
    標本に付着した土砂をパンニングした結果、分離結晶が2つ得られた中の1つ。

     鉄コルンブ石【長さ 2mm】

 (2) 紅柱石【ANDALUSITE:Al2SiO5
     その名の通り、紅色〜白色、の柱状結晶が平行に集合(平行連晶)し、全体として
    先細り柱状で産出する。紅柱石の回りを紅柱石から変質した白雲母が覆っていること
    もある。
     拡大画像を見れば、細い柱状の結晶が集合していることから『柱石』、と言われる
    理由がわかるだろう。

       
         全体              拡大
                 紅柱石

 (3) サファイア/鋼玉【Sapphire/CORUNDUM:Al2O3
     同行したAさんの年賀状に 『・・・非常に小さいですが、ブルー(サファイア?)がついて
    いるのが何点かありました 』 
、とあった。
     2009年の年が明けて、採集した紅柱石を実体顕微鏡で見てみると、約50%の紅柱石
    には「サファイア(鋼玉)」が見られた。眼が慣れると明るい太陽光の下であれば肉眼で
    も探すことができる。( 水で濡れているとさらに見つけやすい )
     白雲母を青色に染めるものと、紅柱石の一部が青〜青黒くなったものの2つの産状が
    ある。

           
         雲母に伴う【 2mm】          紅柱石の中【 2mm】
                    サファイア(鋼玉)

 (4) 鉄電気石【SCHORL:NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
     真っ黒でガラス光沢の柱状結晶で産する。大きなものは、径3cm、長さ5cmに及ぶ
    鉄電気石の中や周辺に希元素鉱物が見られる。

      鉄電気石【縦15cm】

 (5) 鉄バン柘榴石【ALMANDINE:Fe3Al2(SiO4)3
    赤錆色〜真っ黒い偏稜24面体で産出するが、全周完全なものは少なく、ほとんどが
    錆びがきている。写真のように、光沢がある標本はまれ。

      鉄バン柘榴石【縦 40mm】

 (6) 煙水晶/石英【Smoky QUARTZ/QUARTZ:SiO2
     花園山周辺のペグマタイトは晶洞性でなく、脈状であったためか、六角柱状の水晶は
    極ごく、希にしか採集できない。
     何面か結晶面の見えるものを1ケ採集した。石英は、放射能の影響か黒く色づいた
    『煙水晶』になっている。
     ほかの産地なら持ち帰らない代物だが、「花園山」なので標本として持ち帰った。

      煙水晶【縦 5cm】

 (7) 紅石英【Rose Quartz/QUARTZ:SiO2
      ほんのりと紅色に染まった石英が塊状で産出する。珪長石を採掘し、小割りしたとき
     不純物が多いということで捨てられたらしく、大きな塊は少なく、5cmもあれば大きな
     ほうだ。

      紅石英【横 5cm】

 (8) 希元素鉱物【Rare Element Minerals】
      今回採集できた希元素鉱物を一覧表に示す。

No   鉱  物  種
    【 英  名 】
  説      明    写        真  備  考
1ジルコン
【ZIRCON】
 黄褐色、ガラス光沢の
頭が尖った細柱状で
産する
 母岩付

黄緑色の
ゼノタイムと共生

2ゼノタイム
【XENOTIME-(Y)】
 黄緑色、油脂光沢の
複錐8面体結晶で産する
母岩付き
パンニング
両方採集可

 写真のものは
パンニング品で
ジルコンと平行連晶を
なす典型的な
標本

3モナズ石
【MONAZITE-(Ce)】
 黄色、ガラス光沢の
薄板状〜粒状結晶で
産する

      分離品


      母岩付

母岩付き
パンニング
両方採集可

5. おわりに 

 (1) この日は、雨から雪に変わり、帰路に見た関東の名峰・筑波山の上半分は白く薄化粧
    していた。
     常磐道の中央分離帯に植えられた山茶花は”真っ赤な花”をつけ、『石英』、『柱石』
    の紅い色のミネラル・ウオッチングの締めくくりに相応しい光景だった。

      常磐道の『紅い花』(山茶花)

 (2) 今回訪れた産地は、一般には知られていないようで、ズリもほとんど手付かずの状態
    だった。
     このような貴重な産地を案内、往復とも車を運転してくれたTさん、同行していただいた
    Aさんに厚く御礼申し上げる。

     Tさんから、「ミニ採集会を開催しても良いですよ」、とありがたい言葉をいただいた。
    私が開催する”ミネラル・ウオッチング”の参加者から、『北関東で開催してほしい』、と
    いう声が聞かれる。「矢塚の緑簾石」や「貯鉱場のリチア電気石」などを念頭において
    のことと思われが、ここは、女性や子供たちでも、十分楽しめる産地なのでコースに
    加えたいと思っている。

6. 参考文献

 1) 長島乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会,1960年
 2)        :茨城の自然をたずねて,,
 3) 中津川鉱物博物館:第10回企画展 長島鉱物コレクションと蛭川の鉱物
                展示標本一覧,同館,2006年
 4) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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