奈良県吉野郡天川村五代松鉱山の各種水晶

奈良県吉野郡天川村五代松鉱山の各種水晶

1.初めに

  私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた
 人たちと採集会を開催するようになって、4年目を迎えた。
  今回は、奈良県のAさん主催で、「川迫(こうせ)鉱山」と「五代松鉱山」を
 案内していただいた。
  地元奈良県以外に、愛知、兵庫などの石友14名が参加し、楽しい採集会と
 なった。
  川迫鉱山での採集の後、五代松鉱山を訪れ、地元奈良のNさんが「日本式双晶」を
 愛知県のIさんが5cm近い単晶を採集するなど、大勢で訪れた採集会ならではの
 収穫があった。
     案内していただいたAさんと息子のT君に厚く御礼申し上げます。
(2004年4月採集)

2. 産地

 奈良県天川(てんかわ)村洞川(どろがわ)温泉街を抜け、大峰山への登山口に
「日本100名水・ごろごろ水」の湧出場所(今回行ったら有料になった)があり
その先の林道脇に鉱物採集記事で見慣れた五代松鉱山跡が見える。
 前回(2002年11月)に訪れたときに比べ、林道が拡幅・舗装されたのをはじめ
ズリの斜面が整備され見違えるようです。

   五代松鉱山跡

 現在、橋梁の架け替え工事が行われており、鉱山前には駐車スペースがありませんので
かなり手前の無料駐車場に停め、そこから歩くようです。

3. 産状と採集方法

 3.1 五代松の地質
   ここは、数億年前の泥岩、チャート、石灰岩などに閃緑岩が貫入してできた
  いわゆるスカルン鉱床です。

 3.2 五代松鉱山
   「日本鉱産誌」や「本邦重要鉱山要覧」などに五代松鉱山の記述はなく
  採掘の規模などの詳しいことは分かりません。
   と言う事は、余り歴史が古くないようです。
   インターネットで調べると、昭和4年ごろから8年にかけ、この地で鍾乳洞を
  探洞・発見した赤井五代松氏が経営したので「五代松鉱山」の名前がついたと
  言われています。
   赤井五代松翁を顕彰した氏の胸像が「ごろごろ水」の湧き出し口脇に建って
  います。また、鉱山の事故で亡くなった人々を慰霊する碑があることにも
  今回初めて、気付きました。

       
       五代松翁胸像          殉職者慰霊碑
             鉱山に因む記念物

   鉱山の坑道は既に塞がれており、その前に選鉱場があったらしく、選鉱ベルトや
  鉱石貯鉱場の施設(残骸)がかつての鉱山の隆盛を偲ばせてくれます。

   
         選鉱場跡

       
         貯鉱場跡        鉱山看板【吉野??褐ワ代松鉱山】

             五代松鉱山遺物

   「関西地学の旅」によれば、五代松鉱山は原子炉の遮蔽材として磁鉄鉱を
   採掘し、1980年代に廃坑になった様です。

 3.3 産状と採集方法
   道路脇から30mも上がった所に、水晶の採れる露頭とズリがあり、私が金曜日に
  訪れたときは雨上がりで、水晶がキラキラと光るが長さ1cm以下の”針水晶”が殆んど。
   感じとして、福島県塙町矢塚の緑簾石産地に似ている。
  Nさんは、表面採集で日本式双晶、Iさんは、粘土質のズリを掘って、5cm近い
 単晶を採集した。
  ここでは、雨上がりに表面採集の後、ズリを掘るのが良いようです。<BR>

       
                   採集風景

   ズリの下の斜面(伐採されたばかりの杉の木がある)には、真っ白い
  方解石を伴うスカルン鉱物が落ちており、表面採集でもそこそこのものが
  採集できます。
   塊状の磁鉄鉱は、鉱山施設のベルトコンベアの上にたくさんあり、磁石を
  持参すれば簡単に判別できます。

4. 採集鉱物

(1)水晶【Rock Crystal:SiO2】
   ここでは、透明〜黄色(レモン色)の水晶が見られます。
  日本式双晶以外にも、各種の形態の水晶が採集でき、結晶形態学的にも面白い
  産地です。
  @日本式双晶【Rock Crystal Twin Japanese Law:SiO2】

   
  五代松鉱山産日本式双晶【2002年11月採集品】

  A両錐水晶【Rock Crystal Bipiramid Type:SiO2】
    細い針状の透明で両錐のものを採集した。

   両錐水晶

  Bインクルージョン入り水晶【Rock Crystal with inclusion:SiO2】
    角閃石(?)と思われる白色繊維状の鉱物が樹枝状や柱状にインクルージョン
   として水晶の中心軸(C軸)方向に成長しているものが多数ある。
    ”茶色”の角閃石と思われるインクルージョンを含む水晶は、全体に”茶色”で
   私は勝手に”レモン水晶”と名付けています。
    

   ”レモン”水晶

  C平行連晶【Rock Crystal Parallel Growth Type:SiO2】
    何本かの水晶が寄り添うように集まり、成長軸(C軸)の方向が一致している
   平行連晶があった。
    面や陵にクサビ状に切れ込みがある水晶もあり、結晶の成長が非連続であったことを
   示しています。
    並行連晶の頭部だけ見えているものは、”日本式双晶”のように錯覚し
   ”ドキッ”とします。

   平行連晶

  D松茸(冠)水晶【Rock Crystal Crest Type:SiO2】
   錐面のてっぺんにチョコンと冠を被った松茸水晶もあった。

   松茸(冠)水晶

  D中子持ち水晶【Rock Crystal Coaxial Type:SiO2】
    C軸の中心部が空洞になった”穴あき水晶”に小さな水晶が差し込まれた”中子持ち水晶”
   があった。
    中心部の水晶が成長、回りに黄鉄鉱などが成長、その周囲に新たに水晶が成長。
   やがて、黄鉄鉱が錆びて褐鉄鉱になり、”中子持ち”になったと推定しています。

       
         中心部に穴       小さな水晶が入れ子になった状態
                  中子持ち水晶

(2)磁鉄鉱【Magnetite:Fe2O4】
   ここの磁鉄鉱には、塊状のものと方解石の中や磁鉄鉱の集合体の上に
  自形結晶を示すものの2通りがある。

   塊状磁鉄鉱【磁石に吸い付く】

(3)灰鉄輝石【Hedenbergite:Ca(Mg,Fe)Si2O6】
   緑色四角柱状の結晶が菊の花のように放射状になった結晶がある。

   灰鉄輝石

(4)灰鉄柘榴石【Andradite:Ca3Fe(SiO4)3】
   方解石や磁硫鉄鉱に隣接して、黄褐色〜緑黒色の結晶で産出する。

   灰鉄柘榴石

(5)このほか、ここでは磁鉄鉱が風化し自然に磁気を帯びた”磁赤鉄鉱”の産出が
   報告されていますが、今回も採集できなかった。

5. おわりに

(1)奈良県五代松鉱山での採集の後、愛知県のKさん親子の先導で「針インター」を
   目指した。一部渋滞があったが、それを抜け間道をひた走り、1時間ほどで
   「針インター」に到着した。
    道中の長い我々夫婦は、「針TRS」で、入浴し採集の汚れを洗い落とし
   腹ごしらえをして、一路甲府へ向かった。
    自宅に無事帰りついたのは、翌日の1時過ぎであった。
(2)われわれ夫婦が、急いで甲府に戻った訳は、次のHPで報告いたします。

6. 参考文献

1)大阪地域地学研究会:関西地学の旅 宝石探し,東方出版,1998年
2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
3)地団研地学事典編集委員会編:地学事典,平凡社,昭和45年
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