五代松鉱山の産地
私は、露頭最上部の粘土質の土の中の黒褐色の脈をツルハシで掘るが、石英の
カケラも出てこない。Aさん親子は露頭最下部で、ズリを深く掘り込むと水晶が
出始めたらしい。
ここでは、ズリを掘り込むのが良いようです。
ズリの下の斜面(伐採されたばかりの杉の木がある)には、真っ白い方解石を伴う
スカルン鉱物が落ちており、表面採集でもそこそこのものが採集できます。
塊状の磁鉄鉱は、鉱山施設のベルトコンベアの上にたくさんあり、磁石を
持参すれば簡単に判別できます。
4.採集鉱物
(1)水晶【Rock Crystal:SiO2】
ここでは、緑石英が採集できるとも言われ、そのせいか緑色を帯びた水晶が多い。
日本式双晶以外にも、各種の形態の水晶が採集でき、結晶形態学的にも面白い
産地です。
@日本式双晶【Rock Crystal Japanese Twin:SiO2】
ズリの粘土質の土に埋もれたクラスタを発見。頭が少し見えるから持って帰ろうと
思い、坑口からの湧水で洗ってみてビックリ。両翼2cmの蝶型日本式双晶だ!!
パッと見ただけで何枚かの蝶型双晶とその片割れと思しき平板がいくつか付いている。
【後日談】
この塊には、蝶型9枚、平板2枚が付いていた。母岩は、黄褐色で一部に真っ黒い
焼けのあるもので、最初に私が追い掛けていた脈そのものです。
クラスタ 蝶型双晶
五代松鉱山産日本式双晶
Aさんも以前、ここで日本式双晶の分離結晶を採集したとの事で、まだ出る可能性が
有りそうです。
A両錐水晶【Rock Crystal Bipiramid Type:SiO2】
小さいながら、緑色で両錐でしかも山入りになったものを表面採集した。
両錐水晶
Bインクルージョン入り水晶【Rock Crystal with inclusion:SiO2】
角閃石(?)と思われる白色繊維状の鉱物が樹枝状や柱状にインクルージョンとして水晶の
中心軸(C軸)方向に成長しているものが多数ある。
インクルージョン入り水晶
C平行連晶【Rock Crystal Parallel Growth Type:SiO2】
何本かの水晶が寄り添うように集まり、成長軸(C軸)の方向が一致している平行連晶が
あった。この標本に限らず、面や陵にクサビ状に切れ込みがある水晶を何本か採集した。
何かの”仮晶”ではないかと思っている。
平行連晶
D松茸(冠)水晶【Rock Crystal Crest Type:SiO2】
錐面のてっぺんにチョコンと冠を被った松茸水晶もあった。
松茸(冠)水晶
(2)磁鉄鉱【Magnetite:Fe2O4】
ここの磁鉄鉱には、塊状のものと方解石の中や磁鉄鉱の集合体の上に自形結晶を示す
ものの2通りがある。
一般的に磁鉄鉱の結晶は、三角形を合わせた正六面体で産出することがほとんどだが
五代松鉱山では立方体の結晶をしているので、珍しい結晶形態といえる。
塊状 立方体結晶
磁鉄鉱
(3)灰鉄輝石【Hedenbergite:Ca(Mg,Fe)Si2O6】
緑色四角柱状の結晶が菊の花のように放射状になった結晶をT君が採集したものを
いただいた。
灰鉄輝石
(4)灰鉄柘榴石【Andradite:Ca3Fe(SiO4)3】
方解石や磁硫鉄鉱に隣接して、黄褐色〜緑黒色の結晶で産出する。
灰鉄柘榴石
(5)このほか、ここでは磁鉄鉱が風化し自然に磁気を帯びた”磁赤鉄鉱”の産出が
報告されていますが、今回は採集できなかった。
5.おわりに
(1)奈良県での鉱物採集は初めてでしたが、AさんとT君の案内で、日本式双晶
はじめ、五代松鉱山の標本を網羅でき、予想以上の成果に大満足です。
案内していただいたAさんとT君に改めて感謝申し上げます。
(2)ここで、一部分にのみ磁性を持つカラミと思われる溶融した形跡のある標本を
いくつか採集した。
磁鉄鉱は最も製鉄しやすい鉱石であり、古い昔に、このあたりに製鉄遺跡が
あったのではないかとロマンは広がります。
カラミ?
(3)今回は出来るだけ多くの産地を見て回るのが目的なので、後ろ髪を引かれる
想いで五代松鉱山を後にし、次の採集地である三尾鉱山へ向かった。
6.参考文献
1))大阪地域地学研究会:関西地学の旅 宝石探し,東方出版,1998年
2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
3)地団研地学事典編集委員会編:地学事典,平凡社,昭和45年