岐阜県五加(ごか)鉱山の2次鉱物

      岐阜県五加(ごか)鉱山の2次鉱物

1. 初めに

   2007年6月、岐阜県東白川町にあった五加鉱山を訪れ、「イットリウム・アガード石」や
  最近この産地で確認された「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」を採集できたのは既報の
  通りである。

   2008年10月、地元出身のI氏に案内していただき、「ヘナK小隊」ことK夫妻と一緒に
  金加鉱山で「輝安鉱」「ベルチェ鉱」そして2次鉱物の「バレンチン石」「鉄黄安華(トリプ
  ヒ石)」を採集し車に戻ってもまだ昼前だった。

   午後は、I氏、「ヘナK小隊」が訪れたことがない「五加鉱山」を案内することにした。
  選鉱場跡の「イットリウム・アガード石」も魅力的なのだが、「燐銅ウラン石」の誘惑が強く
  2007年にMさんが探してくれたズリに向かった。

    ズリに向かう参加者

   30分ほどでズリに到着し、見渡してみると、その後おおぜいが採集に訪れた形跡も
  全くない。1年前の経験から、持参したバケツに近くの沢から水を汲んできて、それらしい
  石を洗いながらの採集となった。

   採集を始めてまもなく、I氏が「この青色のは何ですか?」と差し出したのは、この産地の
  目玉の1つ「青鉛鉱」の立派な結晶だった。まさに、『ビギナーズ・ラック』である。
   ドロドロの粘土に覆われたズリ石から「水鉛鉛鉱」を探すのは難渋したが、そろそろ引
  き上げようかというときに、私が採った緑鉛鉱に覆われたズリ石の表面に肉眼でもわかる
  「水鉛鉛鉱」が点々とあった。『ラスト5分』の伝説の再来である。

   鉱物採集を始めて3、4回目のI氏は、2次鉱物の美しさに魅(ひ)かれたらしく、メール
  には、「実体顕微鏡があれば・・・」とあった。仲間が増えるのは大歓迎である。

   五加鉱山は、現在も鉱山主がおられ、入口にはロープが張られている。管理を任され
  ている選鉱場跡手前の家の人に了解を得て採集して欲しい。

    選鉱場跡入口

   千葉の単身赴任先に帰って標本を整理、写真に収めてみると、「黄鉛鉱(水鉛鉛鉱)」
  「青鉛鉱」「白鉛鉱」そして「緑鉛鉱」”4色勢ぞろい”の見事さである。
   案内・同行していただいたI氏、「ヘナK小隊」に厚く御礼を申し上げる。
  ( 2008年10月採集 )

2. 産地

    「東海地方をたずねて」が参考になるが、新しい道路と橋が造られていて、入口が
   この案内図通りではないので注意が必要である。

   
          五加鉱山案内図
    【「東海地方をたずねて」から引用】

    「東海地方をたずねて」によれば、五加鉱山はじめ加茂郡にあった鉱山は、濃飛流紋
   岩中の銅、亜鉛、鉛鉱床とされる。五加鉱山から南に約3km離れた黒川鉱山では昭和
   30年(1955年)代にウランが注目され、「燐銅ウラン石」、「カソロ石」などが産出したと
   ある。
    案内図には、採集ポイントA〜Dが示されている。しかし、最近発見された、「水鉛鉛鉱」
   や「燐銅ウラン石」が採れるズリ【E】は書いていないので、自力で探すしかない。

      
     選鉱場跡ズリ【A 2007年】         精錬場跡【B 2008年】
      
       ズリ【D 2007年】          ズリ【E:最近発見 2008年】
                    産地
     

3. 産状と採集方法

    採集する鉱物は、ズリ石の表面や空洞部分に生成した2次鉱物なので、青緑色〜茶
   褐のズリ石の表面をルーペで観察する。
    ズリEのズリ石は”ベタベタ”の粘土に覆われ、表面に2次鉱物があるのかどうか判ら
   ない。そこで、持参したバケツに近くの沢から水を汲んできて、洗いながら持ち帰る
   ものと現場で捨てるものを判別したが、非常に具合が良かった。

    「簡易バケツ」【2007年の応急措置】

4. 採集鉱物

    ここでは、「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」など鉛、「孔雀石」などの銅を主成分とする
   2次鉱物が産出する。2007年に訪れた時に採集できなかった、「燐銅ウラン石」は無
   理だとしても、「白鉛鉱」と「青鉛鉱」は採りたいと思っていた。

   
No 鉱物種
(英語名)
【化学式】
説明  採集標本備考
1水鉛鉛鉱
黄鉛鉱
(WULFENITE)
【PbMoO4
 黄色、半透明の錐状や
キャラメル状(四角板状)
結晶もある

  緑鉛鉱の前に生成


   緑鉛鉱の後に生成

 皮膜状「緑鉛鉱」の
上に生成

 緑鉛鉱の皮膜に
一部覆われたものもあり
生成が時期が交互に
何回か繰り返えされた
ようだ。

 俗名「モリブデン鉛鉱」

2緑鉛鉱
(PYROMORPHITE)
【Pb5(PO4)3Cl】
 無色〜白色〜黄緑色
透明〜半透明の
六角柱状結晶で
中央部が太い
”ビヤ樽状”を示す
 針〜柱状結晶も
まれに見られるが
皮膜状が多い
 今回の採集品は
柱状結晶が集合した
”美晶”
3青鉛鉱
(LINARITE)
【CuPb(SO4)(OH)2
 青色、透明の
柱状結晶で産する
  
4白鉛鉱
(CERUSSITE)
【PbCO3
 白色、透明〜半透明の
板状結晶で産する
 肉眼でもわかる
”巨晶”
5孔雀石
(MALACHITE)
【Cu2(OH)2(CO3)】
 緑色、絹糸状光沢で
毛状結晶が集合した
ものが得られた
 似たような青緑色
鉱物として、珪孔雀石
が産出する

5. おわりに

 (1) 千葉の単身赴任先に帰って標本を整理、写真に収めてみると、「黄鉛鉱(水鉛鉛鉱)」
  「青鉛鉱」「白鉛鉱」そして「緑鉛鉱」”4色勢ぞろい”の見事さである。

    単に色鮮やかなだけでなく、化学組成など、産出する鉱物が多様なことを改めて知
   らされた。

    水鉛鉛鉱・・・・・・・・・【酸化鉱物:Oxを持つ】
    緑鉛鉱、燐銅ウラン石(採っていないが)・・・・・・・・・・【燐酸塩鉱物:PO4を持つ】
    青鉛鉱・・・・・・・・・・・【硫酸塩鉱物:SO4を持つ】
    白鉛鉱、孔雀石・・・・・・・・【炭酸塩鉱物:CO3を持つ】

     「ヘナK」小隊長が好きな”赤い鉱物”がないのが淋しい・・・・・・・・・・。

 (2) 約1年ぶりに再訪し、産地がほとんど荒れていないので”ホッ”としている。ここの目
    玉は何と言っても「燐銅ウラン石」のようだ。単身赴任先に文献を持ってきていない
    ので、どのような産状なのか判っていない。

     石友にコピーを送ってもらい、次回「黒川鉱山」と一緒に回ってみたいと考えてい
    る。

 (3) 「金加鉱山」「五加鉱山」そして「蛭川村(中津川市)」を回る計画は、1週間前に決
    まり、当方の準備不足で目的の鉱物が採集できるかどうか一抹の不安があった。
     ( Iさん、「ヘナK小隊」 ゴメンなさい )

     予想以上の成果だったので、十分満足している。案内・同行していただいたI氏
    「ヘナK小隊」に改めて御礼を申し上げる。

     次回は、「黒川鉱山」攻略戦に出撃だ!!

6. 参考文献

 1)加藤、松原、野村:鉱物採集の旅 東海地方をたずねて ,築地書館,1983年
 2)加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 3)松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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