岐阜県五加(ごか)鉱山のアガード石

      岐阜県五加(ごか)鉱山のアガード石

1. 初めに

   比較的頻繁に訪れている岐阜県苗木地方の山を越えた西側、岐阜県加茂郡には
  いくつかの鉱山があった。加藤先生ほかによる「鉱物採集の旅 東海地方をたずねて」
  の「岐阜県加茂郡の金属鉱床」の章に、東白川町にあった五加鉱山、白川町の黒川鉱
  山と金加(きんか)鉱山が記述されている。

   近年になって、五加鉱山では「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」「燐銅ウラン石」そして希産
  とされる「アガード石」も採集できる、との情報を得て、東京の石友・Mさんと訪れる機会を
  虎視眈々と狙っていた。

   2007年6月、梅雨入りが宣言され、大雨が予想されたが、かねての予定通りに訪れた。
  産地の配置は「東海地方をたずねて」にある通りなので簡単に判ったが、「水鉛鉛鉱」な
  どを産するズリは記述されていないので、これを探すのに手間取ってしまった。
   行動力のあるMさんがズリを発見してくれたが、ズリ石は粘土に覆われ、近くの沢から
  水を汲んできて、それらしい石を洗いながらの採集となった。「水鉛鉛鉱」は現地での確
  認は難しく、持ち帰って、さらに表面の粘土を綺麗に落として、実体顕微鏡でようやく確
  認できた。

   「アガード石」は、選鉱場跡のズリでMさんが言う”それらしい石”を割ると、新鮮な針状
  結晶の集合を見つけることができるが、”希産”と言われるとおり、自力では採集できず
  Mさんから恵与いただいた2点だけであった。
  ( 私が割って捨てた石に入っていた!! )

   五加鉱山は、現在も鉱山主がおられ、入口にはロープが張られている。管理を任され
  ている選鉱場跡手前の家の人に了解を得て採集して欲しい。

    選鉱場跡入口

   車で移動中は激しい雨だったが、不思議と採集している間は、雨が”ピタリ”と止み
  ”晴れ男”は健在である。同行・案内していただいたMさんに、厚く御礼を申し上げる。
  ( 2007年6月採集 )

2. 産地

    「東海地方をたずねて」が参考になるが、新しい道路と橋が造られていて、入口が
   この案内図通りではないので注意が必要である。

   
          五加鉱山案内図
    【「東海地方をたずねて」から引用】

    「東海地方をたずねて」によれば、五加鉱山はじめ加茂郡にあった鉱山は、濃飛流紋
   岩中の銅、亜鉛、鉛鉱床とされる。五加鉱山から南に約3km離れた黒川鉱山では昭和
   30年(1955年)代にウランが注目され、「燐銅ウラン石」、「カソロ石」などが産出したと
   ある。
    案内図には、採集ポイントA〜Dが示されている。しかし、最近発見された、「水鉛鉛鉱」
   や「燐銅ウラン石」が採れるズリ【E】は書いていないので、自力で探すしかない。

      
         選鉱場跡ズリ【A】         精錬場跡【B】
      
            ズリ【D】          ズリ【E:最近発見】
                     産地
     

3. 産状と採集方法

    採集する鉱物は、ズリ石の表面や空洞部分に生成した2次鉱物なので、青緑色〜茶
   褐のズリ石の表面や割った破面をルーペで観察する。
    ズリEのズリ石は”ベタベタ”の粘土に覆われ、表面に2次鉱物があるのかどうか判ら
   ない。そこで、プラスチックの籠とビニール袋で「簡易バケツ」をこしらえ、近くの沢から
   水を汲んできて、洗いながら持ち帰るものと現場で捨てるものを判別したが、非常に
   具合が良かった。

    ( もっとも、車から降りたときに、Mさんが「バケツ持って行きましょうか?」と聞いて
     くれたのに、「東海地方をたずねて」に書いてある通り、「川の水で洗えば良いから
     要らない」、と答えたのが間違いの元だった。 )

    「簡易バケツ」

4. 採集鉱物

   
No 鉱物種
(英語名)
【化学式】
説明  採集標本備考
1イットリウム
アガード石
(AGARDITE-(Y))
【(Y,Ca)Cu6(AsO4)3
(OH)6・3H2O】
 希元素のイットリウム(Y)を
含む銅の砒酸塩鉱物
 鮮緑色、透明な針状結晶が
放射状に集合
 多くは、皮膜状で産する
 1985年広島県瀬戸田で
発見されたのが国内での
最初の報告
 他に奈良県三盛鉱山
竜神鉱山などで産出が
報告されているだけで
”希産”
2水鉛鉛鉱
黄鉛鉱
(WULFENITE)
【PbMoO4
 黄色、半透明の錐状結晶
キャラメル状結晶もある

  板(キャラメル)状結晶


          錐状

 皮膜状「緑鉛鉱」の
上に生成
 俗名「モリブデン鉛鉱」
3緑鉛鉱
(PYROMORPHITE)
【Pb5(PO4)3Cl】
 無色〜白色〜黄緑色
透明〜半透明の
六角柱状結晶で中央部が太い
”ビヤ樽状”を示す
 針状結晶も見られるが
多くは皮膜状
 

    この他、「青鉛鉱」や「白鉛鉱」の柱状結晶が採集できる、とあるが”青い皮膜”状の
   「青鉛鉱」しか採集できなかった。
    板状結晶が小さな球状に集合した標本も採集したのだが、これも「水鉛鉛鉱」なのか
   判断がつきかねている。鑑定結果が出次第、このページの更新も考えている。

5. おわりに

 (1) 岐阜県苗木地方は、この3年だけでも10回以上訪れているのに、「遠ケ根峠」を境に
    隣接する加茂郡にある金属鉱山は今まで一度も訪れたことがなかった。
     私の狙いは、「燐銅ウラン石」だったが採集できなかった。その代わり、イットリウム
    (Y)を含む希元素鉱物の「アガード石」、そして「水鉛鉛鉱」が採集でき、大いに満足し
    ている。
     同行・案内していただいたMさんに、厚く御礼を申し上げる。

 (2) 標本の多くは”ドロドロ”の粘土に覆われている。”ゴシゴシ”洗うと肝心の2次鉱物が
    ダメージを受けてしまう。石友・Mさんに教えてもらった、このような標本のクリーニング
    方法は、水道水をシャワー状にして水洗いした後、「手間無しブライト」なる漂白剤の
    原液に一晩漬けて置くやり方である。漂白液から出して水洗いし、真水に1日、2日漬
    けて置く。
     水から出して乾燥させてから、実体顕微鏡とニラメッコとなる。

 (3) 五加鉱山の周辺には「黒川鉱山」「金加鉱山」などがあり、それぞれ特徴のある鉱物
    が採集できる(できた?)、と「東海地方をたずねて」にある。
     この本が書かれて30年近くが経ち、その当時採集できた標本を期待するのは無理
    だと思うが、現状確認を兼ねて、訪れてみたいと考えている。

 (4) 加茂郡白川町周辺は、「白川茶」の産地として有名だと知った。「道の駅」には、栽培
    した人の名前が入った新茶が売られていたので、お茶好きのわれわれ夫婦は1袋買い
    求めて帰宅した。

6. 参考文献

 1)加藤、松原、野村:鉱物採集の旅 東海地方をたずねて ,築地書館,1983年
 2)加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 3)松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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