高校受験を3ケ月後に控えているが、リフレッシュしてもらうつもりで、マル秘産地の1つ
「北関東産の水鉛鉛鉱」産地をご一緒することにした。
集合場所の今市IC出口に行くと男体山が間近に見え、中腹まで雪に覆われていて採集
できるのか危ぶまれたが、行くだけ行ってみることにした。産地に近づくにつれ、路面が
凍結したり、ところどころに初雪が解けずに残っている。産地には、落ち葉が分厚く積もっ
ていて”布団”の役をしているお蔭か凍っておらず、採集には全く支障がなかった。
眼の(も?)良いYさんは、青色や黄色に色づく露頭を目聡く見つけ、「青鉛鉱」の良品を
いち早く採集し、青色系が大好きだが苦手(?)なお母さんは歯軋りして悔しがった。やがて
皆さん眼が慣れてきたのか、Yさんのお父さんも素晴らしい露頭を発見するなど、それぞれ
に収穫があったようだ。
あと1、2週間もすれば産地は冬篭りの季節に入り、再び訪れることができるのは半年後
だろう。
( 2006年4月採集 2006年5月公開 2006年10月再訪 2008年11月再々訪 )
この辺りの地名から、銀を採掘したと推測できるが、銀鉱物は見当たらない。
花崗岩に貫入した石英脈に伴って「方鉛鉱」「閃亜鉛鉱」そして少量の「黄銅鉱」が
みられる。分析する術もないので確かなことは言えないが、「含銀方鉛鉱」である
可能性が高い。これらの表面には褐鉄鉱や鉛の2次鉱物に覆われている部分が
ある。
また、基岩をなす礫岩の割れ目に、「水鉛鉛鉱」が「緑鉛鉱」と共に見られるケース
がある。
2次鉱物が生じている部分の母岩は”ボロボロ”に近く、タガネやドライバーで<簡単に
崩すことができる。標本は、ダメージを受けやすいので、慎重に取り扱う必要がある。
今回は、手つかずの露頭が何箇所か発見でき、今までにない良標本を採集できた。
(1)水鉛鉛鉱【WULFENITE:PbMoO4】
緑鉛鉱の表面やその近傍、割れ目の”ヤケ”の表面に結晶が見られる
”飴色”で表面の輝きが強い。結晶は、板状、サイコロ状そして錐状の3通り
が見られる。
(2)緑鉛鉱【PYROMORPHITE:Pb5(PO4)3Cl】
緑〜黄〜灰白色でガラス光沢を示す。皮膜状〜ビヤ樽のように中太い
針状結晶、そしてそれらが放射状に集合した”菊花状”、”イガ栗状”
そして”柱状”で産出する。
「緑鉛鉱」と言いながら、”灰白色”〜”黄色”まであり、むしろ緑色の
方が少ない印象である。
緑鉛鉱
(3)青鉛鉱【LINARITE:PbCu(SO4)(OH)2】
天青色、ガラス光沢の針状〜柱状結晶や皮膜状で産する。長石が変質
したと思われる白色粗鬆質粘土のような晶洞の中に微細な頭付き結晶が
見られる場合もある。
(4)白鉛鉱【CERUSSITE:PbCO3】
白色、半透明のギラギラした光沢の柱状〜皮膜状で産する。微細な針状で
産する場合もあるとの情報もあるが、稀のようである。
(5)硫酸鉛鉱【ANGLESITE:PbSO4】
白色、半透明〜不透明で、「重晶石」に似た小さな厚板状結晶が折り重なる
ように集合して産する。
(6)珪孔雀石【CHRYSOCOLLA:(Cu,Al)2H2Si2O5(OH,O)4・nH2O】
青緑色、ガラス光沢で塊状や仏頭状集合で見られる。破面は貝殻状を示す。
このように立派な珪孔雀石を関東地方で採集できる場所は少ない。
(7)方鉛鉱【GARENA:PbS】
黒色、金属光沢の微細な粒状結晶の集合で産する。部分的には、結晶の
粒が大きくなり、特有の劈開面がみられる部分もある。方鉛鉱には、閃亜鉛鉱も
伴っており、また、金色の黄銅鉱が見られることもある。
これらが、「水鉛鉛鉱」はじめとする鉛の2次鉱物の”源”になっていると思わ
れる。
(8)赤銅鉱【CUPRITE:Cu2O】
輝銅鉱(?)→黒銅鉱に変化した表面部分に、赤色、皮膜状や絹糸状で産する。
あまりに鮮やかな紅色なので、”ルビーシルバー”と誤認して、石友・Mさんに
『 ルビーシルバー 発見 !! 』 誤メールを入れたほどである。
(9)桃簾石【THULITE:Ca2AlAl2(Si2O7)(SiO4)O(OH)】
桃色で母岩の石英の中に点在する。某オークションに「○○○の桃簾石」として
出ていたので、よほど珍しい鉱物かと思いきや、その気になって産地を見回すと、
”掃いて捨てるほど”あることが判った。
日本産の桃簾石は、単斜灰簾石【Clinozoisite】とされ、いわゆる「桃簾石」は
”桃〜赤色の単斜灰簾石”と呼ぶのが正しいようである。
4.2 今回の採集品【2008年11月】
(1)水鉛鉛鉱【WULFENITE:PbMoO4】
緑鉛鉱や青鉛鉱の表面やその近傍、割れ目の”ヤケ”の表面に結晶が見られる
”飴色”で表面の輝きが強い。結晶は、板状、サイコロ状そして錐状の3通りが見ら
れる。
このほか、「緑鉛鉱」、「青鉛鉱」、「珪孔雀石」、「桃簾石」などは量的に多いのだが、
特筆するほどのものはなかった。
私の年代だと、「キャラメル」といえば、M社やG社の「ミルクキャラメル」を食べた
記憶がよみがえり、”色や姿・形”を思い描くことが出来るが、若い人もそうだろうか。
水鉛鉛鉱は、「黄褐色、四角い板状」、と言ったのだが、肉眼サイズを見つけた
Yさんは、『 三角に見える!!』 、と叫んだ。
□ の結晶も、角だけ頭を出していると △ に見えるのだから無理もない。
比較的鑑定が容易なはずの「水鉛鉛鉱」ですらこのような難しさがあるのだが、逆に
言えばそれだけ鉱物は奥が深く、面白い、ということでもある。
(2) 2006年4月、初回の訪山で採集した標本は、先人の採集記事にもある通り、母岩の
多くが”ボロボロ”で、クリーニングの段階で”雲散霧消”してしまい、私の標本として
残ったのは数点でしかなかった。
今回、過去の経験を生かし、新鮮な露頭を探して採集するように心がけたのが良かっ
たようだ。
(3) 産地周辺は大雨が降ると”激流”が走るようで、林道の路面はところどころ深くえぐ
られていた。それなりの車でないとアプローチが難しいだろう。
今回、産地への途中で、Sさん一家の車を置いて、私の車に乗っていただくほどだった。
(4) 帰途、車を目前にして、Sさんの奥さんが「ハンマがない!!」、と言い出した。Sさんが
使っているのは、日曜大工店で買った1,000円足らずの私のものと違いW社の高級品だ。
足跡をたどって探しに戻ったところ、「あった!!」、となり、今回のミネラル・ウオッ
チングも無事に終了した。