北関東の「水鉛鉛鉱」その2

1. 初めに

   2006年4月、念願の産地のひとつであった「北関東産の水鉛鉛鉱」を東京の石友・
  Mさんと探索した。
   産地と思しき一帯を片端から走破することにした。いくつかの沢を詰め始めて
  数時間が過ぎたころ、先行するMさんが「青い2次鉱物がある!!」と叫び
  転石を1つ拾い上げた。手にとって見ると、間違いなく「青鉛鉱」である。やがて
  「緑鉛鉱」の表面に「水鉛鉛鉱」が結晶したものも見られた。
   露頭や転石から、鉛の2次鉱物である「水鉛鉛鉱(黄鉛鉱)」「緑鉛鉱」
  「青鉛鉱」
そして 「白鉛鉱」「硫酸鉛鉱」を採集でき、”5色揃い踏み”、と
  なった。
   しかし、採集品の母岩の多くが”ボロボロ”で、クリーニングの段階で”雲散霧消”
  してしまう「水鉛鉛鉱」が多く、私の標本として残ったのは数点でしかない。
   Mさんと、露頭の表面を覆うマサが洗い流された頃を狙って訪れる約束であったが
  Mさんの都合がつかず、千葉の石友・Tさんの強いリクエストで案内することにした。
   露頭は先人(グループ?)によって掘り込まれ、その周辺の露頭やズリでも「水鉛
  鉛鉱」は簡単に採集できた。しかも、風雨に耐えた結晶で、母岩にシッカリと付き
  標本としてもまずまずのものが採集できた。
   この産地は、規模が小さく、2次鉱物が見られる露頭は限られているが、まだまだ
  良品が眠っているとの印象である。
  ( 2006年4月採集 2006年5月公開 2006年10月再訪 )

2. 産地

    この産地は、極めて狭い範囲であり、産地保護の観点から、詳細は割愛させてい
   ただく。
    某氏が鉱物雑誌上で発表すると聞いていたが、未だに発表されていないようであ
   る。

    産地地図

3. 産状と採集方法

   ここは、徳川時代、明治中期そして昭和12年〜13年にかけて稼行したとされる鉱山
  跡である。露頭には、入口が半分塞がった古い坑道が残されている。この辺りの地名
  から、銀を採掘したと推測できるが、銀鉱物は見当たらない。
   花崗岩に貫入した石英脈に伴って「方鉛鉱」「閃亜鉛鉱」そして少量の「黄銅鉱」が
  みられる。分析する術もないので確かなことは言えないが、「含銀方鉛鉱」である
  可能性が高い。これらの表面には褐鉄鉱や鉛の2次鉱物に覆われている部分が
  ある。
   また、基岩をなす礫岩の割れ目に、「水鉛鉛鉱」が「緑鉛鉱」と共に見られるケース
  がある。

       
       産状と採集風景            古い坑道
                  鉱山跡

   2次鉱物が生じている部分の母岩は”ボロボロ”に近く、タガネやドライバーで
  簡単に崩すことができる。標本は、ダメージを受けやすいので、慎重に取り
  扱う必要がある。
   先人(グループ?)が、幅、深さ60cm、長さ1.5mにわたって掘り込んでおり、その
  周辺では表面採集でもそこそこの良標本が多数得られた。

4. 採集鉱物

 4.1 前回の採集品【2006年4月】

 (1)水鉛鉛鉱【Wulfenite:PbMoO4
     緑鉛鉱の表面やその近傍、割れ目の”ヤケ”の表面に結晶が見られる
    ”飴色”で表面の輝きが強い。結晶は、板状、サイコロ状そして錐状の3通り
    が見られる。

         
            板状                錐状
                     水鉛鉛鉱

 (2)緑鉛鉱【Pyromorphite:Pb5(PO4)3Cl】
     緑〜黄〜灰白色でガラス光沢を示す。皮膜状〜ビヤ樽のように中太い
    針状結晶、そしてそれらが放射状に集合した”菊花状”、”イガ栗状”
    そして”柱状”で産出する。
     「緑鉛鉱」と言いながら、”灰白色”〜”黄色”まであり、むしろ緑色の
    方が少ない印象である。

        
           柱状              イガ栗状             菊花状
                             緑鉛鉱

 (3)青鉛鉱【Linarite:PbCu(SO4)(OH)2
     天青色、ガラス光沢の針状〜柱状結晶や皮膜状で産する。長石が変質
    したと思われる白色粗鬆質粘土のような晶洞の中に微細な頭付き結晶が
    見られる場合もある。

     青鉛鉱

 (4)白鉛鉱【Cerussite:PbCO3
     白色、半透明のギラギラした光沢の柱状〜皮膜状で産する。微細な針状で
    産する場合もあるとの情報もあるが、稀のようである。

     白鉛鉱

 (5)硫酸鉛鉱【Anglesite:PbSO4
    白色、半透明〜不透明で、「重晶石」に似た小さな厚板状結晶が折り重なる
   ように集合して産する。

     硫酸鉛鉱

 (6)珪孔雀石【Chrysocolla:(Cu,Al)2H2Si2O5(OH,O)4・nH2O】
     青緑色、ガラス光沢で塊状や仏頭状集合で見られる。破面は貝殻状を示す。
    このように立派な珪孔雀石を関東地方で採集できる場所は少ない。

     珪孔雀石

 (7)方鉛鉱【Garena:PbS】
     黒色、金属光沢の微細な粒状結晶の集合で産する。部分的には、結晶の
    粒が大きくなり、特有の劈開面がみられる部分もある。方鉛鉱には、閃亜鉛鉱も
    伴っており、また、金色の黄銅鉱が見られることもある。
     これらが、「水鉛鉛鉱」はじめとする鉛の2次鉱物の”源”になっていると思わ
    れる。

     方鉛鉱【黄銅鉱を伴う】

 4.2 今回の採集品【2006年10月】

 (1)水鉛鉛鉱【Wulfenite:PbMoO4
     緑鉛鉱や青鉛鉱の表面やその近傍、割れ目の”ヤケ”の表面に結晶が見られる
    ”飴色”で表面の輝きが強い。結晶は、板状、サイコロ状そして錐状の3通り
    が見られる。

     水鉛鉛鉱【キャラメル状】

 (2)赤銅鉱【Cuprite:Cu2O】
     輝銅鉱(?)→黒銅鉱に変化した表面部分に、赤色、皮膜状や絹糸状で産する。
    あまりに鮮やかな紅色なので、”ルビーシルバー”と誤認して、石友・Mさんに
    『 ルビーシルバー 発見 !! 』 誤メールを入れたほどである。

     赤銅鉱

 (3)桃簾石【Thulite:Ca2AlAl2(Si2O7)(SiO4)O(OH)】
     桃色で母岩の石英の中に点在する。某オークションに「○○○の桃簾石」として
    出ていたので、よほど珍しい鉱物かと思いきや、その気になって産地を見回すと、
    ”掃いて捨てるほど”あることが判った。
     日本産の桃簾石は、単斜灰簾石【Clinozoisite】とされ、いわゆる「桃簾石」は
    ”桃〜赤色の単斜灰簾石”と呼ぶのが正しいようである。
     

     桃簾石

    このほか、「孔雀石」などが観察できる。「ブロシャン銅鉱」が産する、との情報も
   あり、それらしい標本は採集できたが、確認できていない。

5. おわりに 

 (1) 2006年4月、初回の訪山で採集した標本は、先人の採集記事にもある通り、母岩の
    多くが”ボロボロ”で、クリーニングの段階で”雲散霧消”してしまい、私の標本と
    して残ったのは数点でしかなかった。
     今回、満を持しての2回目の訪山で、狙い通り、良標本をいくつか採集できた。

 (2) 今回案内したTさんも、2006年1月の鉱物同志会新年会のオークションに出品された
    「水鉛鉛鉱」に涙を飲んだ1人であった。
     Tさんは、同志会の某氏からこの産地の存在をほのめかされたが、場所は教えても
    らえなかったらしい。

 (3) この産地は、規模が小さく、2次鉱物が見られる露頭は限られているが、まだまだ
    良品が眠っているとの印象である。

6. 参考文献 

 1) 渡辺 新六 et al:奥鬼怒地域調査報告,栃木県,1955年
 2) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 3) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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