夏休みに入ってまもなくの2008年8月初旬、Sさん一家と猫啼温泉で落ち合い
いくつかのフィールドをご一緒した。
最初に訪れた猫啼地区では、苦労の末たどりついた選鉱場跡、と思われる場所
のズリの表面で、Sさんの奥さんが”透明・ブルー”の”宝石級・アクアマリーン”
を採集したのを皮切りに、「完全24面体鉄ばん柘榴石」「母岩付ジルコン」そして
「1cmクラスのフェルグソン石」などを採集した。
続いて訪れた玉川村の「川辺鉱山」では、”1cmクラス”を筆頭に、「頭付モナズ
石」を多数採集し、まさに”Sさんの奥さんデー”の感があった。
最後に訪れた「金田(かねだ)川」では、桜井先生ゆかりの『砂金』採集に挑戦
したが、1粒も採れず、”幻の砂金”に終わってしまった。
Yさんは、お父さんの指導で、ガイガーカウンターの製作に挑戦し、プリント基
板組み立てまではうまく行ったのだが、最後にGM管の取り付けをお父さんに頼
んだところ、GM管に力を加えすぎ雲母板が変形し、ガスが抜けてしまったらしい。
そんな訳で、この日は、お父さんが買ってくれた『完成品』を持参してきたが
私の持っている”自作品”よりも感度が良く、カウント数をデジタル表示するなど
機能も優れていて、役に立った。
Yさんは、来年高校進学を控え、今年が最後の「自由研究」になるわけだが、
中学時代の良い想い出になってくれることを祈っている。
( 2008年8月採集 )
この地区には、「井筒山(いづつやま)」「一戸屋敷(いっこやしき)」「幸蔵山
(こうぞうやま)」などの採掘場所があった。戦後になった昭和29年(1954年)
折からウラン平和利用ブームでウラン資源調査を目的に地質調査所(当時)
の手によって採掘場とその周辺の鉱床調査が行われ報文も出ている。
以前から東京の石友・Mさんと探査する約束になっていたが果たしていな
かったため、今回全体像を把握するための探査も行った。
Sさん一家を安全な場所に残し、単身、背丈以上もある篠竹や葛の生い茂
る藪をこぎながら、採掘場跡を探した。
安全と思われる場所では、全員が横一列になって、”しらみつぶし”(意味?)
に探す戦法もとった。
しかし、石英や長石塊が表土や落ち葉に半ば埋もれて見られるのだが、
報文にある坑道は全く見当たらなかった。
実は、この産地にあった「選鉱場跡」と思われる場所を2001年1月に福島
県の石友に案内してもらった。その場所を思いだしながら山裾を歩いている
と、犬を連れた婦人が来たので尋ねると、こちらが女性や子ども連れだった
ので気を許してくれたのか、先頭に立って案内してくれた。
ものの100mも行くと、サマルスキー石を採集した見覚えのある場所だった。
婦人の話では、「坑道は全部埋めてしまった」、とのことで探してもない訳だ。
2.2 産状と採集方法
猫啼地区の地質はほとんど花崗閃緑岩からなり、その中にペグマタイトが
胚胎している。しかも、この地域は表土に深く覆われ、点々と母岩が露出
しているだけである。
(1) 幸蔵山鉱床
昭和29年(1954年)当時珪長石を採掘しており、坑道の延長は約50m
あった。鉱床は厚さ3〜4mのレンズ状で延長約60mが確認されていた。
構成鉱物は微斜長石・石英・黒雲母および少量の白雲母で、これに
ザクロ石と磁鉄鉱、ジルコン、褐簾石、フェルグソン石、コルンブ石、
サマルスキー石などが随伴していた。
(2) 井筒山鉱床
主要鉱体は厚さ3m程度のレンズ状または板状で、延長約15mが確か
められていた。構成鉱物は微斜長石・石英・黒雲母および少量の白雲
母で、このほか希元素鉱物としてゼノタイム、モナズ石、燐灰ウラン石
ジルコン、フェルグソン石、コルンブ石、サマルスキー石などを伴ってい
た。
昭和29年当時、かつて長石を採掘した約10mの坑道切り上がり採掘
空洞があり、希元素鉱物を含む黒雲母帯が残されていたようだが、
埋められてしまったらしく見当たらなかった。
(3) 一戸屋敷鉱床
昭和29年当時、かつて珪長石を採掘した延長約20mの坑道が残され
ており、まだ豊富な珪長石が埋蔵されていた。
構成鉱物は微斜長石・石英・黒雲母・カリ長石および少量の白雲母
からなり、これにやや多量のザクロ石と黒雲母に随伴してゼノタイム
モナズ石、サマルスキー石などが認められた。
このほか、小規模なペグマタイト露頭が数箇所あった。
われわれは、杉の木立の中に白い石英や長石が散乱している「選鉱場跡」
と思われる場所で採集する事にした。
産地に着いてすぐ、Sさんの奥さんが「この青いのは何ですか?」、差出した
のは、『アクアマリン』と呼ばれる、”透明・宝石級の緑柱石”だった。
土砂の中から希元素鉱物を探すのは難しく、持参した土嚢袋にズリ石を詰め
北須川まで運びパンニングした。
Sさんの奥さんは、「完全24面体鉄ばん柘榴石」「母岩付ジルコン」そして
「1cmクラスのフェルグソン石」などを採集した。
2.3 採集鉱物
(1) アクアマリン/緑柱石【Aquamarine/BERYL:Be3Al2Si6O18】
アクアマリンとは、「青緑色透明な緑柱石」を指す。まるで、南洋の海の水
を思わせるところから名付けられ、宝石にもなっている。
猫啼地区での「緑柱石」の産出報告は初めてではないだろうか。
(2) モナズ石【MONAZITE-(Ce):CePO4】
黄褐色、ガラス光沢で平板状の結晶で産出する。今回採集したものは
パンニング品で、頭付きしかもサイズが12mmあり、猫啼地区の”逸品”だ
ろう。
(3) フェルグソン石【FERGUSONITE-(Y):YNbO4】
四角柱状、表面は青黒く、破面は漆黒、ガラスのよう。通常、希元素鉱物
は”メタミクト(metamict)化”していることが多い。
メタミクト化、とは、外形は結晶形を保っていても、光学的、X線的、ある
いは示差熱分析では無定形の特徴を示す。ウランやトリウム、あるいは
その子孫の元素から放射されるα(アルファ)粒子に叩かれて、結晶構造
が壊された結果生ずるものである。
一般に隙間の少ない構造を持った鉱物は結合が強くメタミクトしにくいが
ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)を含む複合酸化物は壊れやすく、多くメタミク
ト化している。メタミクトするかしないかは、鉱物原子間の結合力の強弱に
よるもlので、放射能の強弱は2義的意味しか持たない。
(4) ジルコン【ZIRCON:ZrSiO4】
ジルコンは、緑褐色、油脂光沢の錐状で産する。
(5) 褐簾石【ALLANITE-(Ce):CaCeAl2Fe2+(SiO4)(Si2O7)(OH)】
四角柱状〜平板状、黒色、ガラス光沢で分離結晶がパニングで得られた。
表面には細かい網目状の模様が見られる。
(6) 鉄礬柘榴石【ALMANDINE:Fe3Al2(SiO4)3】
石英、あるいは長石と黒雲母の境界に、赤〜黒色、24面体で産する。
石川地方の鉄礬ザクロイ石の多くは、表面に鉄錆が生じ、結晶の角も
丸まって余り魅力的ではないのが多いのだが、猫啼地区のものは、角も
シャープで面も”ピカピカ”したものがあり、黒江鉱山産のものと双璧をな
す。
鉄礬柘榴石
土砂にまみれたズリ石(選鉱カス?)から希元素鉱物を探すのは困難なので
ズリ石を土嚢袋に詰め、水場まで運んでパンニングする。
パンニングすると希元素鉱物は真っ黒い電気石(一部はサマルスキー石と
思われる)や赤〜赤黒色の鉄礬柘榴石とともに最後までパンニング皿の底に
残るのでまとめて持ち帰り、自宅(単身赴任先)でジックリと選別した。
選別は、新聞紙などの上で乾燥させ、”茶こし”で篩いかけした後、顕微鏡の
下でピンセットを使い鉱物種別に選り分ける。
( 茶こしの網目より小さな標本を集めても・・・・・・・・・ )
先を急ぐ採集では、”三ツ岩岳の土嚢袋作戦”のように、自宅に持ち帰って、
ジックリとパンニング・選別するのも良いだろう。
3.3. 産出鉱物
川辺鉱山のモナズ石は、黄色〜黄褐色、ギラギラと脂ぎったガラス光沢を
示し、薄板〜細長い柱状で産出する。
比重が5.1と石英の約2倍あり、パンニングすると真っ黒い電気石や赤〜
赤黒色の鉄礬柘榴石とともに最後までパンニング皿の底に残るので色の
違いだけでも選別できる。
Sさんの奥さんがパンニングで採った「モナズ石」は、「1cm級・頭付き」で
素晴らしい標本だった。
今回、私が採集できた最大のものは幅4mm、長さ10mmだったが、多くは
5mm前後のもので、頭がないものが半分以上だ。
川辺鉱山のモナズ石結晶は、a面(100)とm面(110)の柱面が発達した薄
板〜細柱状を示すのが一般的で、先端のv面(-111)の錐面が発達し、先端
が尖って錐状になったものとx面(-101)とw面(101)からなる”クサビ状”の
2通りが多いが、後者が90%以上を占めモナズ石の産地として知られる
三重県竹原産のものと違いを見せている。
注) ”-1” は、”バー付きの1”を示す。
結晶形態 | 結 晶 図 | 採 集 標 本 | 備 考 | 錐状 | 結晶図の 裏面から見た形 2005年採集品 |
クサビ状 | 今回採集 |
「日本希元素鉱物」には、川辺産のモナズ石の双晶の結晶図が掲載されている。”傾軸双晶”
と”共軸双晶の松茸”の2種が2005年には採集できたが今回は見当たらなかった。
(2) ジルコン【ZIRCON:ZrSiO4】
ジルコンに希元素鉱物を含む変種ジルコンで、青緑色を示すところから苗木石
【Naegite:(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4】の系統と思われる。
『 大正14年(1925年)頃、希元素鉱物探索の目的で東京帝国大学鉱物学教室の
方々が、大橋川(金田川・観音山の下)の川底の土砂を採集しヨナゲました。
( 注:ヨナゲとは、パンニング(椀掛け)のこと )
その結果、自然蒼鉛、褐簾石、紫紅色のコランダムと共に砂金が採集されました。
町の歴史民俗資料館に展示されている砂金は、その折、小学生で参加されていた
桜井 欽一博士からその時の1個をいただいたものです。』
今は亡き古老の話では、大正2年(1913年)から10年間、東京の岩井 喜八氏
(一説には磐井 初弥氏)が、和久の金田川で、夏だけ砂金採りをした、と伝え
られている。
2005年に訪れ、写真のような砂金を採集したので、今回Sさん一家を案内する
ことにした。
4.2 産状と採集方法
金田川の川底には、ペグマタイト(石英)脈が露出している場所があり、これら
の中に金が含まれた金が数百万年の時間をかけて川底で濃集したと考えられ
る。
現に、昭和50年(1980年)、某氏が金田川沿いの当時稼動中の和久鉱山
新房鉱床で長石に小さな金粒がついたものを採集した。
ここでの採集方法は、川床の土砂をパンニングします。
4.3 採集鉱物
(1) モナズ石【MONIZITE-(Ce):CePO4】
黄色〜黄褐色、ギラギラと脂ぎったガラス光沢を細長い柱状で産出する。
『 理科研究の方は着々と進んでいます。USBでつなげるガイガーカウンター
なので、パソコンにつないでもらって希元素鉱物の放射線レベルのデータを
とっています。
お父さんは試料の量は同じくらいじゃないとダメなんじゃないの、と言うの
ですが・・・・・・・・・。
M・Hがフェルグソン石は放射線が強いと言っていましたが、確かにガイガー
カウンターがビコビコ鳴りっぱなしです。
小妻で採集してきたジルコンもかなりビコビコ鳴っています。量にもよるので
しょうが、鉱物の種類でもかなり違うことがわかって楽しいです 』
前回、茨城県の産地を案内したとき、Yさんに『目ざせ、日本のマリー・キューリー』
とエールを送った。今回、夫人の生誕100年を記念してフランスから発行された
夫人と乳鉢のラジウムを描く切手をYさんにプレゼントした。
お母さんさんから、「キュリ(胡瓜)夫人じゃダメだよ」、と念をおされるYさん
だった。
(私は、”呆け茄子”よりましだと思うが・・・・)
(2) この産地は、いつ訪れても楽しい発見が待っている。もう少し涼しくなったら、猫啼
温泉に宿泊してユックリ訪れてみる積りだ。