・郵便物逓送用 封鉛(ふうえん:Sealing Lead)の研究(1)
( Study of Japanese Postal Sealing Lead -No1-, Yamanashi Pref. )
誌上で「封鉛」の現物、あるいはこれらに関する情報の提供をお願いして1年近くになるが何の
反応もなかった。
一方、今更ながらネット時代の威力、便利さを痛感させられた。オークションに「封鉛」が3ケ出品さ
れていたので、何人かと競(せ)って落札した。送られてきた「封鉛」は、「切手類」と圧印された、持っ
てないタイプのもので、使われた時期や目的が違うようだ。
1つ新たなもの(事実)が見つかると1つ新たな謎が生まれる、まさに、『謎が謎を呼ぶ』だ。
さらに、『封鉛』をキーワードにネット検索したところ、鉄道郵便車の元乗務員・Nさんと知り合い、
貴重な情報をいただいた。「封鉛」を使った封緘作業などを見学できるイベントがあると教えていた
いたので、少し遠いが出かけてみるつもりだ。
( 2015年8月 入手・報告 )
オークション落札品 | 骨董市で購入品(代表例) | 表 | 「〒」を囲む鳳凰(唐草?) | 「〒」を囲む桜の枝と花 | 裏 | 中央縦に「切手類」 | A欄 ローマ字局名「I IDA」 | B欄 右書きで局名「青森」 | B欄 右書きで局名「飯田」 | A欄、C欄 印字なし | C欄 No.1 | 封鉛重量 | 約6グラム | 約6グラム | 麻ひも直径 | 約0.9ミリ | 約2ミリ |
2.2 2つのタイプの「封鉛」の比較結果
2つのタイプの「封鉛」を比較して次のように推理した。
(1) 共に表面中央には郵便マーク(〒)があり、局名が右書きになっているので、戦前に郵便物
逓送に使われた「封鉛」である。
(2) 表面の図案が違うのは、使われた時期の違いだろうと思われる。
(3) 2つのタイプは裏面に「切手類」と郵便物の種類が印字されている点が最大の違いで、使用
目的が明示(細分化)されていて、使用時期はより新しいと思われる。
( 表の図案の鳳凰(唐草?)が抽象化されていて、より現代風だ )
(4) 郵便物を入れたすべての袋が封印されたわけではなくて、「現金書留」や「切手類」などに限ら
れていた。
『封鉛』をキーワードにネット検索したところ、鉄道郵便車に乗務しておられたNさんと知り合うことが
できた。自己紹介のメールにHPのURLをお知らせしたところ読んでいただき、折り返し次のようなメール
をいただいた。
『 ホームページを拝見しました。鉱物の研究と郵便趣味をされていることから、「封鉛」に関心を
私の乗務当時は、車内清掃で他の標札類と共にほうきでかき集め、帰ってから鉄道郵便局の
ご存じのように、消印、日付印は趣味にされることが一般的で、鉄郵印は珍重されているよう
公開(イベント)に来ていただければ封鉛など現物をお見せします。
持たれているようですね。
(イベントで使用する)当方の圧縮器を使うと封鉛に独特の模様が刻印されます。実演では鉛
を締め付けし、麻紐の出っぱりを切断して大郵袋に入れるといっちょう上がりなのですが、再度の
実演(昔の作業の再現)ではナイフで麻紐を切ると鉛も廃棄します。
ゴミボテ(プラかご)に入れたきりでしたが、ここには各局の刻印がある封鉛が多くあったことと思わ
れます。
なお、廃棄前に鉛だけを選別して別のところに引き渡していたと聞いていますが、詳細は定か
ではありません。
また、乗務で使用した圧縮器を使うとおそらく「大阪鉄道郵便局」という刻印があったはずで、
これで手持ちの鉛を押しつぶして記念に残しておけばよかったと後悔しきりです。
です。しかし、「封鉛」に着目する人は少なく、限られたルートでしか入手できない、あるいは存在
自体を知らない、というところです。
・・・・・・・・・・・ 』
Nさんから頂いたメールで、「封鉛」がどのように使われ、使い終わった後、どのように取り扱われていた
か、そして世の中での認知度も理解できた。
(1) 現金書留などを入れた「専用の郵袋」の口の「麻紐」を縛り*、その端末に「封鉛」を通して
ペンチのような「圧縮器」で「締め付け(つぶし)」端末を縛って**、出っぱりをナイフで切った。
これを「大郵袋」に入れて輸送した。
→ * 開封後に残されている麻紐の長さが長いことから、何重かに口に巻き付けてから縛った
可能性もある。
** 縛ってから締め付けた可能性もある。
(2) 到着した大郵袋を開け、「専用の郵袋」の麻紐をナイフで切って開封した。
→ 今回入手した「封鉛」には麻紐が7〜8センチ残されていて、使われていたときの状態が
推定できた。
【密封】
@ 巾着(きんちゃく)袋状の口を絞るか麻紐を巻き付けて縛る。
A 麻紐の端末を「封鉛」の穴に通す。
B 「封鉛」を「圧縮器」で締め付ける(潰す)。
C 麻紐の端末を縛り、出っぱりをナイフで切る。
【開封】
D @で縛った麻紐の片側をナイフで切り、「封鉛」ごと麻紐を袋から抜き取る。
(3) 麻紐の切れ端のついた「封鉛」は床に捨てられ、勤務の終わりの車内清掃でほうきで
かき集めて持ち帰り、鉄道郵便局の「ゴミボテ(プラかご)」に入れておいた。
(4) 『 (麻紐を取り除いて)「封鉛」の鉛部分だけを選別・回収して別な部署(業者?)に
引き渡していた』、と聞いたこともある。
→ 鉛をリサイクルしていた時期もあった。
骨董市で入手した「封鉛」には麻紐がほとんど残っておらず、この過程で残された品で
あろう。
(5) Nさんは、身の回りに文字通り“掃いて捨てるほどあった「封鉛」”を貴重なものとも思わず、
今になって記念押印ならぬ記念刻印しておかなかったことを悔やんでいる。
(6) 「鉄郵印」は郵趣のジャンルの1つとして確立しているが、「封鉛」に着目する人は少なく、
限られたルートでしか入手できないことから、目に触れることもなく、存在自体を知らない郵趣家
がほとんどのようだ。
→ JPS甲府支部でも、「封鉛」を知っている会員はいなかった。
ふるさと鉄道保存協会のHPを読むと、平成10年に「のと鉄道(株)」殿から貴重な鉄道郵便車
「オユ10 2565」を譲渡してもらい、能登中島駅に移し、同社の支援と理解のもと保存活動を続
けている。
協会の鉄道郵便ワーキンググループは、この鉄道郵便車オユ10が能登半島観光スポットとして
注目されるよう保存と活用に努め、鉄道郵便の歴史を目に見える形で後世に語り継いでいる、とある。
この鉄道郵便車は、のと鉄道(株)殿の協力で、能登中島駅係員の案内で平日に内部を見学
させていただける、とHPにある。
年に1、2回開催するフェスティバルのときには、郵便車内を開放し、「封鉛」による封緘作業などを
実演して、往時の鉄道郵便業務を自分の目で確認できるありがたい企画もあるようだ。
JPS甲府支部の会誌担当・M氏からフェスティバルの模様を取材してくるようにと依頼されている。
私にとって何よりなのは、「封鉛」を使った封緘作業が実演されるというので、見学させていただき
ビデオやデジカメで撮り記録に残し、わからない点を教えていただくつもりだ。