5人組 越後路 秋のミネラル・ウオッチング











        5人組 越後路 秋のミネラル・ウオッチング

1. 初めに

    滋賀県の石友・Oさんから、「新潟県飯豊鉱山のドロマイトを採集したい」、と聞いたのは
   もう1年近く前のことだった。その後、Oさんは、何人かと何回か飯豊鉱山を訪れ、黄鉄鉱
   は採集できたものの、ドロマイトのポイントは判らず仕舞いだったようだ。
    そこで、Oさんが、新潟県の代表的な産地、三川鉱山、飯豊鉱山そして白板鉱山の3か
   所を2泊3日で巡る、『 越後路 秋のミネラル・ウオッチング 』を計画してくれた。参加者は
   滋賀県のN氏、三重県のO氏(以下OY氏)、石川県のY氏、主催者のO氏(以下OH氏)、
   そして私の5人だった。初めてお会いするのはOY氏だけで、ほかは何度かフィールドで
   ご一緒した顔なじみだ。
    4ケ月前に案内してもらった飯豊鉱山だったが、ルートを取り違え、4時間も山の中を彷
   徨し、5人組が『後認組』になってしまったが、何とか見覚えのある坑口を探しだし、OH氏
   に念願の「ドロマイト」を採集していただき、旅の目的の大半は達せられた。
    最終日に案内していただいた「白板鉱山」では、方鉛鉱結晶の群晶に「三角黄銅鉱」の
   結晶が点々と付いているのも私には嬉しい。

    『 100%雨 』、の予報を覆してまずまずの採集日和となったのは、誰とは言わないが
   『晴れ男』のお蔭だ。その上、初めての産地を案内していただき、良品を採集させていた
   だいた皆様に、厚く御礼申し上げる。
    ( 2010年10月 採集 )

2. 行き掛けの駄賃『沼尻鉱山の重晶石』

    3連休が始まる前夜、千葉県を出発、常磐道を北上、磐越道の阿武隈SAで車中泊。初
   日、14時の集合時間まで間があるので、『標本玉手箱』で配る「重晶石」を求めて、久し
   ぶりに「沼尻硫黄鉱山」跡を訪れてみた。
    「白糸の滝」周辺や、鉱山があった山頂付近ではすでに一足早く紅葉が始まっている。

     紅葉の「白糸の滝」

    フィールドに着いて驚いた。あれほどあった「重晶石」が見当たらないのだ。どうやら産
   地を土砂が覆い尽くしてしまったようだ。
    仕方なく、広い範囲を探査してみると、以前、千葉県の石友・Tさんに案内してもらった
   時には訪れなかった坑口や古い噴気孔があった。その周辺で、4人に配るにギリギリの
   数の「重晶石」と「自然硫黄の自形結晶」を何とか確保できた。

       
              坑道                      自然硫黄結晶
                         沼尻硫黄鉱山

    ここの「重晶石」は、結晶の大きさこそ1cm足らずだが、シッカリした形で、OH氏が言う
   「バラバラになるから、バライト」、とは縁遠い。中には、インクルージョンを含み、結晶
    内部が黒くなっているものもあり、標本としてゲット。

     「重晶石」

    この産地の近くは、沼尻温泉の泉源になっていて、アチコチから温泉が湧き出している。
   川の中にお湯を引き込んで、『掛け流し露天風呂』を満喫している人がいたので、お断りし
   てパチリ。

     「露天風呂」

    小雨が降り出し、傘を差しながら駐車場に戻る道すがら、陸続と、タオルを片手にした人
   たちとすれ違う。山奥の源泉で入浴するのが流行っているようだ。
    駐車場に戻っても、時間はまだ10時。
    「沼尻硫黄鉱山」関連の展示施設がないか、猪苗代町で聞き込むと、軽便鉄道の旧会
   津下館(しもだて)駅近くに新設されたというので訪れた。展示は、ファンが多い軽便鉄道
   関係が主だが、一部に鉱山稼働当時の写真や硫黄製品などがあり、鉱山で働いていた人
   から当時の貴重な話を伺うこともできた。階下は地元の主婦が運営する食堂になってい
   て、地元の手打蕎麦(そば)をおいしくいただいた。

       
              沼尻鉱山展示               会津の手打ち蕎麦

3. 温泉が素晴らしい『三川鉱山』

    再び、磐越道に乗り、三川ICで降り、集合場所の三川鉱山の駐車スペースに到着した
   のは、集合時間・14時ジャストだった。三重県ナンバーの車が1台止まっているので、てっ
   きりOH氏一行が先に着いて、入っているものとばかり思い込んでいた。ほどなくして、ヒョ
   コヒョコと下山してきた人がいる。顔を見ると、6月に偶然ここで会った三重のYさんだった。
    やがて、OH氏一行が到着、霧雨も降り出し、傘をさして産地に向かう。OY氏と私はズリ
   を掘って「炭酸青針銅鉱」を探すが、他の3人は、2次鉱物には興がのらないようだ。
    夕闇が迫り、ルーペでの採集は難しくなり下山。この日の宿は、三川温泉の「You & 湯
   ホテル みかわ」だ。到着して、すぐに風呂に入り、冷えた体を温める。豊富な湯量と高い
   湯温を誇る三川温泉だが、ぬるめの湯が好きな私はノボセル寸前だった。
    湯から出ると、宴会がスタート。まずはビールで乾杯。いつもながら、疲れが吹き飛ぶ。
   地元の食材、そして「越後米」のご飯を頂き、満腹になって部屋に戻る。『標本玉手箱』で、
   OYさんから、『メッセル石』と『エオスフォル石』をいただく。

    『豚児に真珠(あられ石)』、『猫に小判(金)』・・・・・・・蔭の声

       
              『メッセル石』                『エオスフォル石』
                           標本玉手箱

    鉱物、石人についての四方山話(噂話?)を伺うと、皆さんの鉱物の博識ぶりにはただ
   ただ感服するばかり。
    今日一日の疲れもあり、22時過ぎに消灯。

4. 5人組が後認組!? 『飯豊鉱山』

    翌朝、小鳥の声で目を覚ますと、雨は降っていない。山すそから雲が頂を目指して上っ
   ている「昨夜の100%雨の予報は何だったんだ」、とうれしさを隠しながら口々に叫ぶ。
    ものごと100%はないということを、この後、思い知らされる5人組だった。

    飯豊鉱山のダムサイトに到着すると既にT県ナンバーのそれらしい車が2台止まってい
   た。鉱山への踏み分け道は予想以上にハッキリしていて、訪れる石人が多いことを物語
   っている。
    6月に三重・Yさんに案内してもらった帰りにたどった採石のベンチカット跡に到着し、
   私の記憶通り一段上がったのだが、踏み分け道が途切れている。
    皆さんを残し、私が先行し、ルートを探索することにする。上から下のほうが探査が楽と
   思い、高みに上がり、ジグザグに下に探していったがそれらしい坑口が見つからない。
    1時間も経ったころ、OH氏に写真で見せてもらった、彼らが前に入った坑口がある。さら
   に下ると、赤錆びたタンクなどの遺構があるが、これは見た記憶がない。そのまま行くと、
   獣道は、川のレベルに近づいている。こうしている内に2時間がたった。
    こんなに下ではなかったので、登りながらジグザグに探査し、ひとまず皆さんの待つ場
   所に戻ることにした。
    既に登山開始から4時間が過ぎ、昼時なので、まずは昼ごはんを食べる。お腹が一杯に
   なると、『 私の迷案内人のせいで、5人組が産地”後認組”になった 』、などと冗談も飛
   びだす。
    前回登った下のルートから攻めることにした。OYさんが見覚えのある踏み分け道に入り
   手分けして探すと、目的の坑口があり、皆さんを呼び寄せる。

    パイライトのポイントには、T県の先客2人がおり、われわれはその後塵を拝する形での
   採集を余儀なくされた。 それでも、パイライトの結晶は面白いように出てくる。だが、大き
   さは2cmどまりがほとんどだが、それでも今回3.5cmの『巨晶』を掘り当てた。
    残り時間をドロマイトのポイントに案内する。ドロマイトはより取り見取りで、皆さんザックの
   大きさと体力と相談してパッキングしていたようだ。
    念願叶ったOH氏は、産地を離れがたいのか、『ラスト30秒』まで粘り、大粒の結晶が付
   いた良標本を手にしたのはさすがだった。

       
             黄鉄鉱【35mm】                ドロマイト
            【採集、撮影:M.H】            【採集、撮影:OH氏】
                        飯豊鉱山標本

    この日の宿は、160kmほど南の魚沼市で、三川ICから磐越道、北陸道、関越道を乗り
   継いで20時近くに宿に着いた。
    ドロドロの服装を見て、女将さんに「食事の前に風呂に入って下さい」、と釘を刺される。
   遅い夕食をとり、一日の疲れで私はバタンQ

5. 三角黄銅鉱と四角い方鉛鉱の『白板鉱山』

    翌朝目が覚めると、青空が見え、天気は急速に回復しているようだ。多い人は白板鉱
   山を訪れるのが4回目とのことで、坑内を知り尽くしている。初めての私に良いポイントを
   割り当ててくれ、思う存分叩かせてくれたのだが、堅いの何の。タガネが全く利かない。
   それでも、少しグズグズしたところを狙って叩き、方鉛鉱がビッシリついたマズマズの群晶
   を手にすることができた。最大1cm近い『三角黄銅鉱』が点々と着いているのも私には
   嬉しい。
    2次鉱物、ほとんど「青鉛鉱」だと思うが、洗浄して実体顕微鏡で観察するのが楽しみだ。

       
                方鉛鉱                  三角黄銅鉱
                          白板鉱山標本

    もっと採集を続けたいのだが、私の小さなザックは満杯状態なのと、帰りの関越道の渋
   滞を考え、お昼で引き上げさせていただいた。
    解散式の後、皆さんとお別れして、7時間かかって千葉の単身赴任先に無事帰った。

6. おわりに

 (1) 終わり良ければ
      『 100%雨 』、の予報を覆してまずまずの採集日和となったのは、誰とは言わない
     が『晴れ男』のお蔭だ。その上、初めての産地を案内していただき、良品を採集させて
     いただいた皆様に、厚く御礼申し上げる。
      飯豊鉱山では、迷案内人のせいで、『後認組』になり、採集時間が短くなってしまい、
     皆さまには申し訳なく、深謝いたします。

      ただ、開き直りではないが、(A)、(B) いずれが良いかは自明であろう。
      (A) 1時間でそれらしい場所に着いたが、目的の場所ではなく、当然”スカ”
      (B) 4時間かかったが、目的のポイントで念願の標本を採集できた。

 (2) 日本海側の産地

      「三川鉱山」では、薄暮ドローになった感があり、再訪を期すのだが、10月末に某鉱
     物同好会の採集会があるようなので、産地はどうなることか・・・・・。

      「飯豊鉱山」は、2回目なので、採集するものを絞ってポイントに立った積りだった。

      @ パイライトは、大きな結晶と菱面体結晶
          35mmサイズと別なページで報告するが、e面が発達した「菱面体結晶」を採集
         でき目的を達成した。
          OY氏によれば、今回訪れた坑道が「古岐(こまた)沢」にあり、この近くに「小
         岐坑(鉱山?)」があったらしい。
          「日本の鉱物」に、「小岐鉱山の菱面体黄鉄鉱」が掲載されているが、ここの
         ものなのか追いかけてみる必要がありそうだ。
      A ドロマイトは、「鍾乳石状」のもの
         これも、全面結晶した、鍾乳石状のものを採集

       しかし、10月末の「出前授業」で、児童たちに配る「黄鉄鉱」を人数分採集しようと、
      急に心変わりした。「菱面体結晶」も、たくさん観察したからこそ採集できたと思って
      いる。

       「白板鉱山」は、初めて訪れ、「三角黄銅鉱」が採集できたのは望外の喜びだ。以
      前、同じ新潟県の「間瀬(まぜ)銅山」跡を訪れ、「三角黄銅鉱」を採集し、感激したこ
      とがあった。
       有名な「三角黄銅鉱」を産した「荒川鉱山」も秋田県にあり、日本海側特有の産出
      条件があるようだ。
       1cmを越えるピカピカの三角黄銅鉱を求めて、再訪を期している。

7. 参考文献

 1) 井上 ひさし:私家版 日本語文法,新潮社、昭和56年
 2) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
   3) 沼尻鉱山と軽便鉄道を語り継ぐ会:思い出文集 「一山一家」
                          ・・・鉱山に住むものはみなひとつの家族だった・・・
                          同会,2010年
 4) 沼尻鉱山と軽便鉄道を語り継ぐ会:思い出文集 第二集 「一山一家」
                          ・・・鉱山に住むものはみなひとつの家族だった・・・
                          同会,2010年
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