蛭川村恵比寿鉱山のトパーズ

蛭川村恵比寿鉱山のトパーズ

1. 初めに

 私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと採集会を開催する
ようになって、4年目を迎えた。
 最近では、参加メンバーが新たに開拓した産地を案内していただくスタイルに定着しつつある。
 2004年6月ミニ鉱物採集会は、「ベルチェ鉱の古里と蛭川村の有名・無名鉱山を訪ねて」と
題して、愛知県の石友・HさんとIさんに案内していただいた。
 採集会最後の訪問地は、「鉱物採集の旅」にも掲載されている恵比寿鉱山で、神奈川・Mさんが
鉄マンガン重石を伴う晶洞の中のトパーズの良品を発見し、文字通り”ヱビス顔”でした。
これは、Mさんの行動力(産地での嗅覚)の賜物でしょう。
 17時過ぎ、次回の採集会でお会いするのを楽しみに、お別れした。この後、私たち夫婦は蛭川村の
「紅岩山荘」に宿泊した。次の日、私だけ朝4時に起き、「恵比寿鉱山」を再度訪れ、トパーズや
「地学研究」に報告のある緑柱石など代表的な標本を一通り採集できた。
 翌週には、名古屋の石友・Sさんが早朝5時から12時まで粘って、1cm大頭付きトパーズを採集した
との、写真付きメールをいただいた。また、訪れたい、産地の1つです。
 案内いただいた、Hさんに改めて、御礼申し上げます。
(2004年6月採集)

2. 産地

   加藤・松原・野村先生による「鉱物採集の旅 東海地方を訪ねて」に記載してある有名な
  産地です。地図を参考に示しますが、近年道路が新しくできて、昔の地図は役に立たないかも
  知れません。

    恵比寿鉱山【鉱物採集の旅から引用】

   今でも道路脇に鉱山施設が残されていますので、わかると思います。

    恵比寿鉱山跡

3. 産状と採集方法

   恵比寿鉱山は、濃飛(のうひ)流紋岩に類する流紋岩、石英斑岩や花崗斑岩中の鉄マンガン重石
  や輝水鉛鉱などを明治時代から1960年頃迄採掘した。案内のHさんが、紫色の蛍石と輝水鉛鉱が
  共生した標本を採集したズリで、表面採集やズリを掘って採集しました。ズリは、かなり広範囲に
  広がっていますので、場所によって鉱物種の多寡があるようです。

    採集風景

4.採集鉱物

    輝水鉛鉱は比較的ふんだんにあり、鉄マンガン重石はやや少なく、蛍石、トパーズが稀にあり
   緑柱石も確認しています。

 (1)輝水鉛鉱【Molybdenite:MoS2】
     石英の上に、板状結晶が重なり合って褶曲した集合体としてみられ、鉛灰色で軟らかく
    指で触れると、”スベスベ”した感触で、指先が黒く汚れる。

    輝水鉛鉱

 (2)鉄マンガン重石【Wolframite:(Fe,Mn)WO4】
     石英脈や晶洞の中に、黒色・板状の結晶として見られる。

    鉄マンガン重石

 (3)トパーズ【Topaz:Al2SiO4(F,OH)2】
     鉄マンガン重石を伴う晶洞には高い確率で、トパーズが見られる。
    C軸に並行に条線があることと”キラキラ”と特有の輝き(高い屈折率)で水晶とは区別
    できます。
               
        母岩          単晶【名古屋・Sさん採集】        晶洞中結晶
                       トパーズ

 (4)蛍石【Fluorite:CaF2】
     脈状あるいは結晶として産する。色は無色と紫がある。木曾福島・Iさんが採集したものは
    紫色で、私の妻が後々まで言っていた、綺麗な標本である。

       
 紫色【採集,撮影:木曾福島・Iさん】        透明
                   蛍石
 (5)水晶【Rock Crystal:SiO2】
     煙水晶が採集できるとの情報がありましたが、採集会では、誰も採集できなかった。
    しかし、翌週訪れた名古屋・Sさんは、比較的容易に採集できたとのことです。

       
          単晶             群晶
                煙水晶

 (6)緑柱石【Beryl:Be3Al2Si6O18】
     「地学研究」に報告のある通り、緑柱石が採種できます。しかし、私が採集したのは
    ”黄柱石”に近いものです。
     蛭川村の他の産地では、鼻も引っ掛けられない標本ですが、「恵比寿鉱山」ならでは
    でしょうか。

    緑柱石

5. おわりに

 (1)今となっては、恵比寿鉱山は古典的な産地かもしれませんが、初めて訪れると心ときめかす
    鉱物と出会うことができます。
    故櫻井欽一博士の『古泉に水涸れず』でしょうか。
 (2)私たち夫婦は、採集会の後、蛭川村の「紅岩山荘」に宿泊した。今まで、日帰り入浴だけで
    であったが、この機会に一泊してみた。
    @鮎の塩焼きは逸品
     この近くには”簗場”が数多くあり、そこで採れた新鮮な鮎の塩焼きは逸品です。

    夕食

    A泉質はやや硬い
    Bセキュリティは万全
     翌朝、4時に起床し、外に出ようとしたが、全ての出入口は某警備システムでロックされて
     おり、外に出るのが一苦労でした。(中には入れないと思います)
    Cなんじゃもんじゃの木
     蛭川村には、「なんじゃもんじゃ」の巨木があるそうで、それと同じ木が入口に植えられて
     います。

6. 参考文献

1)益富地学会館編:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
2)加藤昭・松原聡・野村松光:鉱物採集の旅 東海地方を訪ねて,築地書館,1983年
inserted by FC2 system