珪線石同質異像鉱物群
この講座では、同質異像関係に何組かの鉱物をあげ、それらからどのようなことが
解ったのかを話された。
鉱 物 種 | 化 学 式 | 明らかになったこと | 珪線石( Sillimanite ) 紅柱石( Andalusite ) 藍晶石( Kyanite ) | Al2SiO5 | 上の図のように 安定領域が存在する |
黄鉄鉱( Pyrite ) 白鉄鉱( Marcasite ) | FeS2 |
安定領域がわかっていない
白鉄鉱を加熱すると黄鉄鉱に転移するところから 黄鉄鉱が高温相ではないかとされたこともあった。しかし 黄鉄鉱は低温でも生成する。 白鉄鉱の産状を見ると、その全てが液体の存在下で 行われており、可溶性のFe2+の溶液を用いれば合成が 可能で、いわば化学的同質異像関係にあると考えられる。 |
方解石( Calcite ) 霰石( Aragonite ) | CaCO3 |
後者は、高い圧力の広域変成岩の中に 見られるが、温泉沈殿物や蛇紋岩などの 風化部分にも見られ、あるときは物理条件に 支配されあるときは支配されない |
クリストバス石(Cristobalite ) 高温石英( High Quartz ) 低温石英( Low Quartz ) =水晶(Rock Crystal ) 鱗珪石(Tridymite ) コース石( Coesite ) スティショフ石( Stishovite ) 未命名γ-PbOSiO2型相 石英ガラス | SiO2 |
二酸化珪素(SiO2)は、常圧でこれを過熱すると 約1710℃で融解し、2227℃で気化する。 融解したものを冷やすとクリストバル石 相当の固体になり、さらに冷やすと870℃位で 高温石英相当の固体に変化し、約573℃で 低温石英という、われわれになじみの深い 水晶と同じ原子配列を持ったものになる。 鱗珪石に相当するものを作るには、正タン グステン酸ナトリウム(Na2WO4)のような物質を 融剤として加え、約1470℃〜870℃の間で加熱 する必要がある。 融剤がないと合成できない。しかし出来上がった 鱗珪石は純粋な二酸化珪素であり、SiO2の 1つの変態と考えられる。 コース石は、約600℃以上、25,000気圧以上 スティショフ石は、約800℃以上、90,000気圧以上 γ-PbOSiO2型相は300,000気圧以上 でそれぞれ生成される。 石英ガラスは、変態の一つであるが、正しくは 鉱物種には含めない。(非晶質:アモルファス)
天然のクリストバル石や鱗珪石の生成は石英の |
方キューバ鉱( Isocubanite ) キューバ鉱( Cubanite ) | CuFe2S3 |
方キューバ鉱は深海のスモーカーの周囲の 堆積物から発見された新鉱物 化学式 Cu1-xFe2+xS3の x>1 にもかかわらず、キューバ鉱と同質異像 関係にあると見なされている。 |
閃亜鉛鉱( Sphalerite ) ウルツ鉱( Wurtzite ) | α-ZnS β-ZnS |
α-ZnSを真空中で約1,000℃で過熱すると β-ZnSに転移することが確められている。 天然のウルツ鉱は冷泉の中で生成されており そのような高温ではなく、40℃がよいところ 不活性気体の中に、亜鉛の蒸気と硫黄の 蒸気を反応させガラス板の上に反応生成物を 着生させると、混合比が1:1を境にして、硫黄 過剰であればα相が、亜鉛過剰であればβ相が 生成されることが判っている。 |
アダム鉱( Adamite ) パラアダム鉱( Paraadamite ) | Zn2AsO4(OH)2 |
アダム鉱は紅柱石と同じ、パラアダム鉱は 藍晶石と同じ原子配列を持っているが、高圧下での 生成ではなく、金属鉱床の酸化帯に2次鉱物として 産出する。 |
灰簾石( Zoisite ) 斜灰簾石( Clinozoisite ) | Ca2Al3(Si2O7)(SiO4)O(OH) |
違いは、単位格子単位の並び方 灰簾石は斜方、斜灰簾石は単斜 |
菫青石( Cordierite ) インド石( Indialite ) | Mg2Al3AlSi5O18 Mg2Al3(Al,Si)6O18 |
インド石は、SiとAlの位置が同価になっていて 低温相の菫青石より対称が上がっている。 |
頑火輝石( Enstatite ) 斜頑火輝石( Clinoenstatite ) | (Mg,Fe2+)2Si2O6 |
合成実験では、斜頑火輝石のほうが低温相 という結果が出ているが、天然の産状では 頑火輝石は変成岩や超塩基性岩あるいは それらの中に脈となって出るのに対して 斜頑火輝石は、希に特殊な玄武岩の中に知られて おり、実験結果とは逆である。 これは、灰簾石のときと同様に、斜頑火輝石の 単位格子を格子単位で並べ替えると頑火輝石の 単位格子を導くことができることが判っている。 |
ヨハンセン輝石( Johannsenite ) バスタム石( Bustamite ) | CaMn(Si2O6) (Ca,Mn)3(Si3O9) |
ヨハンセン輝石はバスタム石の低温相に あたる。 CaとMnの比率は、ヨハンセン輝石では 厳密に1:1であるが、バスタム石ではかなり 広い幅で変化する。 |
珪灰石( Wollastonite ) 擬珪灰石( Pseudowollastonite ) | Ca3Si3O9 |
擬珪灰石は珪灰石の高温相で、実験的には 1,126℃で転移する。 天然ではこのような高い温度条件は考えられない 上のバスタム石は、珪灰石と同一の基本基を持ち そのCaのかなりの部分がMn2+で置換されたもの。 |
バラ輝石( Rhodonite ) パイロックスマンガン石( Pyroxmangite ) | (Mn,Ca)Mn4Si5O15 (Ca,Ca)Mn6Si7O21 |
合成実験では同質異像関係になるが天然では この関係の存在は証明されていない。 バラ輝石の方が、高温で安定 |
玻璃長石( Sanidine ) 正長石( Orthoclase ) 微斜長石( Microcline ) |
K(Si,Al)4O8 KAlSi3O8 KAlSi3O8 |
基本基の中のAlとSiの配列形式の違いによって 特徴付けられ、玻璃→正→微斜長石の順に 高温から低温で安定になる。 |
鉱 物 種 | 化 学 式 | 明らかになったこと | 直閃石( Anthophyllite ) カミントン閃石( Cummingtonnite ) | (Mg,Fe2+)(Si4O11)2(OH)2 |
この2つは、永い間同質異像関係にあると されてきた。 カミントン閃石を合成するときには、ごく少量の CaOが必要で、これを入れないと合成できない ことが分った。天然物を改めて調べてみると極微量の CaOの存在が認められ、同質異像関係にないことが 明らかになった CaOはごく微量であるため、理想化学式は同一に なっている。 |
ゾノトラ石( Xonotlite ) ローゼンハーン石( Rosenhahnite ) |
6CaO・6SiO2・H2O 3CaO・3SiO2・H2O |
ゾノトラ石を合成し、高圧処理した鉱物が ゾノトラ石と同質異像同質異像関係にあると され、天然のものも発見され、新鉱物ローゼン ハーン石と名付けられた。 しかし、ゾノトラ石を分析しなおしてみると Ca5.9H0.2[(OH)2Si6O17]のように、整数比と 比較するとCaがやや不足し、H2Oが過剰になって いるが当時の分析例が少なく、このような事実が わかっていなかったために起った |
この発見は、同じような層状の原子配列を持つ輝水鉛鉱( Molybdenite , MoS2 )にも
影響を及ぼした。輝水鉛鉱でも3R相のものは、原子の空きのところにCuやFeなどの
二価の金属イオンが不純物として入り込んでいることが多い。
モリブデンは、大砲の砲身をつくる特殊鋼に不可欠の金属だが、不純物が入ると
その性能は甚だしく劣化する。第二次世界大戦で戦艦「武蔵」の主砲が一回の試射で
欠損したのは、砒素が含まれていたためとされている。
ドイツでは、モリブデンからCuを取り除くのに、手間をかけたと伝えられている。
5.2 解釈できなかった同質異像関係
隕石の衝突では、瞬間的に超高圧が発生し、実験室で再現できない(解釈できない)
鉱物が天然に存在しうるケースがある。
(2) 同質異像鉱物は不遜かも知れないが、人間に例えてみると「一卵性双生児」のようなもの
ではないだろうか。DNA(原子・分子)配列は全く同じだが、性格(物性)は違う。
このように考えると、自然界にある全てのものが、何らかの意図のもとに作られて
いるという考え方にも説得力を感じる。
(3) しかし、自然は一筋縄ではなく、頑火輝石( Enstatite )と斜頑火輝石( Clinoenstatite )の
例のように、実験結果と自然界では逆の結果もあるようです。
これが、鉱物の世界の面白さなのかも知れません。