出前授業2010 「君も水晶博士になろう!!」











                  出前授業 2010
             「君も水晶博士になろう!!」

1. 初めに

    2010年9月、石友・小Yさんから、「2009年と同じように、長野県川上村にある町田市の
   施設で、東京の小学校5年生30名余りに鉱物の話をしてほしい」、と打診があった。鉱物
   に興味がある小中学生や保護者を産地に案内しながら解説したりするのは何度もやって
   いるし、昨年作成したパワーポイントの資料もあるので、2つ返事で引き受けた。(全生徒
   約100名が鉱物、林業体験など3つのグループに分れて体験)

    前の週末、単身赴任先から帰って、説明に使う実物標本や機材を段ボール箱に詰めた
   り、子どもたちに配る「麻績村の水晶」や「飯豊鉱山の黄鉄鉱」をラベルと一緒に袋詰め
   したりと忙しかった。

    何を伝えるか、次の3つにポイントを絞った。
    @ 水晶
       私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』、がある。水晶を通
      して『やさしい鉱物学入門』を話そう。
    A 鉱物の鑑定
       「水晶」と「トパズ」の違いなどを通して、鉱物の鑑定方法を体験してもらう。
    B 川上村の鉱物
       講義を行うのは長野県川上村で、講義の後、湯沼鉱泉の「水晶洞」を見学する予定
      だという。それならば、鉱物の宝庫・『川上村の鉱物』もぜひ説明しておきたい。

    こうして、講義のタイトルとスライドの最初のページが決まった。

     

  子ども達がすきな水晶の
 極め付きが『日本式双晶』だと
 思い、トップのページに
 もってきた。


    講義の時間は1時間という短いのだが、小学生が飽きてしまわないように次のようなキ
   ーワードを頭に置きながら授業準備を進めた。

     (1) 「実物教育」
          『五無斎』こと、保科百助の”ニギリギン教育”にならって、私が持っている実物の
         標本や機材を使う。また、子ども達と先生にはラベル付き「水晶」と「黄鉄鉱」の
         標本をプレゼントするため、それぞれ50セット計100セット作成
     (2) ”Audio Visible”
          単調な説明では子ども達が飽きてしまうので、パワーポイントを使った、プレゼン
         テーションを軸に説明する。スライド1枚1分の計算で、100枚余りのスライドを準備
         することにした。
           しかし、時間が1時間しかないので、途中飛ばさざるを得ないページも多かった。
          使ったスライドは配布資料として、各クラス1冊、計3冊印刷してあげ、子ども達が
         後で見直せるようにする。
     (3) こども達も参画
          こども達にこちらから質問する回数を増やしたり、クイズに答えてもらったり、さら
         に、『面角』を子ども達に実際に測定してもらう体験型授業にする。

    当日、講義開始1時間前にアシスタントの妻と一緒に町田市の施設に到着し、持参した
   標本をテーブルに並べ、パソコンとプロジェクターを接続したが映らない!!
    何回か電源を入れ直したり、接続をチェックし映るようになってひと安心。そうこうしてい
   るうちに、児童が集まってきた。

    自己紹介の後、講義のポイントを話し、質問と標本を見学する時間を設けることを話して
   講義がスタートした。
    講義の内容を聞き漏らすまいと、皆んな真剣に耳を傾けてくれている。多くの子供が見
   聞きしたことをノートにとっている。

    時間の都合で、『面角測定』と『右左水晶鑑定』しか子ども達に参加してもらえなかったが
   体験を通じてより確かな知識にしてもらえたようだ。

    講義の後、湯沼鉱泉「水晶洞」の見学に同行・解説した。社長に皆であいさつの後、見
   学のポイント(必見の場所)を説明した。
    @ 露頭にあったままの緑水晶双晶
    A 「扁平苦土電気石」、「川端下の双晶」など『川上村の鉱物』
    B 川上犬
      (1週間ほど前に子犬が6匹+α)生まれたばかり)

    「水晶洞」を出たところで、短時間の「採集会」を実施すると、次々に鑑定依頼が舞い込
   む。これは、「水晶」、「灰礬ザクロ石」、「ゲーテ鉱」などと鉱物名を教えると、喜々としてい
   る。昼食をとる間を惜しんで探している子どもたちもいる。
    見学の後、感想を何人かの子供たちから直接社長に伝えてもらった。「いろいろな水
   晶を見ることができて良かった」、「いろいろな標本が採集できて嬉しかった」など、子ども
   達の素直な声を聞きながら社長は眼を細めていた。

    ここで、子ども達とお別れした。この日は、恒例の「秋のミネラル・ウオッチング」の下見で
   午後から川上村の新しい産地を回り、「砂金」と「日本式双晶」を採集できることを確認した。
    湯沼鉱泉に一泊し、翌日始まったばかりの紅葉を愛でながら、ノンビリと甲府の自宅に
   戻った。

    言い古された言葉だが、” Teaching is Learning ” で、不確かな知識を確認するため
   何冊かの本を引っぱり出したり、インターネットを駆使して1枚のスライドを作成するのに1時
   間以上かかることもあった。おかげで、自分の知識も体系化し直すことができたのは、大き
   な収穫だった。
    このような機会を作ってくれた石友・小Yさんにも感謝している。
    ( 2010年10月 実施 )

2. 講義のあらすじ

     講義のあらすじを次のように決め、これを2時間で説明する分量のスライドを準備して
    いる。

      (1) 鉱物って何?
      (2) 「水晶に始まり、水晶に終わる」
      (3) 水晶の楽しみ
          ・鉱物の形・色・共生鉱物・内包物(インクルージョン)
          ・石英(水晶)のなかま
      (4) 山梨の水晶加工の歴史と製品
      (5) 鉱物の鑑定
      (6) 川上村の鉱物
      (7) 鉱物をもっと知りたい人のために

     しかし、時間の関係で1時間程度で終わらせなければならないので、(3)の後半
    (4)、(5)、(6)そして(7)は駆け足になってしまった。

       
              講義スタート              子どもたちも参画
                                   『水晶の面角測定』

    
              標本の解説
             【川上村の鉱物】
                          講義風景

3. 講義の内容

    2009年と基本的には同じなので、下記のページを参照ねがいたい。
    時節柄、「レア・アース」なども即席で追加説明した。

    ・出前授業 「君も水晶博士になろう!!」
     ( Presentation for Schoolchildren " Let's Study QUARTZ " , Nagano Pref. )

4. 湯沼鉱泉・「水晶洞」見学

    講義の後、湯沼鉱泉「水晶洞」の見学に同行し、子ども達に解説した。
    社長に皆であいさつの後、「水晶洞」は山中社長が数億円の私財を投じて、皆の後ろに
   見える山を重機を使って削って作った私設鉱物博物館だ、と話すと、子ども達は驚いた様子
   だった。

    「水晶洞」内に入ってしまうと、細長い列になり、全員に解説することは困難なので、事前に
   見学のポイント(必見の場所)を説明した。

    @ 露頭にあったままの緑水晶の日本式双晶
    A 「扁平苦土電気石」、「川端下の双晶」など『川上村の鉱物』
    B 湯沼鉱泉で飼っている狼(オオカミ)の子孫の川上犬

     生まれて1ケ月の子犬たち

    「水晶洞」を出たところで、短時間の「採集会」を実施すると、次々に鑑定依頼が舞い込
   む。これは、「水晶」、「灰礬ザクロ石」、「ゲーテ鉱」などを採集し、喜々としている。昼食を
   とる間を惜しんで探している子どもたちもいる。
    見学の後、感想を何人かの子供たちから直接社長に伝えてもらった。「いろいろな水
   晶を見ることができて良かった」、「いろいろな標本が採集できて嬉しかった」など、子ども
   達の素直な声を聞きながら社長は眼を細めていた。

       
              ミニ採集会                社長にお礼
                    湯沼鉱泉「水晶洞」見学

    ここで、子ども達とお別れした。

5. おわりに

 (1) 理科ばなれ
      2010年のノーベル化学賞に、鈴木先生と根岸先生のお二人が選ばれ、日本の科学
     技術のレベルの高さを実証していただけたのは、技術士として科学技術に携わる1人
     として素直に喜びたい。
      ただ、受賞したのは30年も昔に研究されたテーマだったのは気になるところだ。

      鈴木先生がインタビューのたびに、『日本は資源がない国だから、世界と伍していく
     には科学技術でトップにならなければ・・・』、という趣旨のお話をされていた。この言
     葉を、私は子供のころから聞かされて育ち、科学技術の道に進んだのも自然の成り
     行きだった。
      パフォーマンスの蓮舫さん、『2番目じゃダメなんです』

      10月24日 日本テレビの「バンキシャ!!」を見ていると、仕分けで廃止になった
     地方の農道の工事が現在も進行している箇所が多いらしい。
      廃止になった後、国から支給された交付金を自治体は廃止が決まった事業に振り
     向けたので、何事もなかったかのように、工事は継続している、というカラクリだ。
      仕分け人は、仕分けした事業がその後どうなっているのか、知らないし、知ろうとも
     しないらしい!?

      会社であれば、Plan(計画)→Do(実行)→Check(チェック)→Action(是正措置)が
     当たり前のサイクルとして回っていなければ倒産してしまうのに、仕分け人たちは
     ”廃止”と言ったきり、後は”知らぬ顔の半兵衛”を決め込んでいる。

      これが、”パフォーマンス”だけだ、と言う論拠だ。

      話が脱線したが、「理科ばなれ」、と言われて久しいが、今回の講義や見学案内を
     通して子どもたちに直に接してみると、理科(科学技術)に興味を持つ男子、女子児童
     が多いことを知った。
      子どもたちが、興味を持つキッカケを作ったり、それを継続する役割の一端を担わせ
     ていただけたなら、望外の喜びだ。

6. 参考文献

 1) 小出 五郎:長野県川上村川端下(かわはけ)付近の鉱物,我等の鉱物,昭和16年
 2) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 3) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年
 4) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
 5) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
 6) 名古屋鉱物同好会編:東海 鉱物採集 ガイドブック,七賢出版株式会社,1996年
 7) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 8) 21世紀の地学教育を考える 大阪フォーラム実行委員会編:講演概要・資料集
                                          同会,2000年
 9) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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