出前授業 「君も水晶博士になろう!!」

                  出前授業
             「君も水晶博士になろう!!」

1. 初めに

    2009年8月、石友・小Yさんから、「長野県川上村にある町田市の施設で、東京の小学校
   6年生70名余りに鉱物の話をしてほしい」、と打診があった。鉱物に興味がある小中学生や
   保護者を産地に案内しながら解説したりするのは何度もやっているので、2つ返事で引き受
   けた。(全生徒約120名中、約50名は林業体験を選択し受講しない)

    「講師をお願いしたい」と正式に依頼があってから出前授業当日まで3週間余りしかなかっ
   た。その後、千葉に住む3男夫婦が住宅を購入したいというので、物件の下見、契約、資金
   調達などで甲府を離れることが多く、準備にかかれたのは10日ほど前からだった。

    何を伝えるか、次の3つにポイントを絞った。
    @ 水晶
       私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』、がある。水晶を通
      して『やさしい鉱物学入門』を話そう。
    A 鉱物の鑑定
       「水晶」と「トパズ」の違いなどを通して、鉱物の鑑定方法を体験してもらう。
    B 川上村の鉱物
       講義を行うのは長野県川上村で、講義の後、湯沼鉱泉の「水晶洞」を見学する予定
      だという。それならば、鉱物の宝庫・『川上村の鉱物』もぜひ説明しておきたい。

    こうして、講義のタイトルとスライドの最初のページが決まった。

     

  子ども達がすきな水晶の
 極め付きが『日本式双晶』だと
 思い、トップのページに
 もってきた。


    講義の時間は2時間以上とタップリある、とのことなので、次のようなキーワードを頭に置き
   ながら授業準備を進めた。

     (1) 「実物教育」
          『五無斎』こと、保科百助の”ニギリギン教育”にならって、私が持っている実物の
         標本や機材を使う。また、子ども達と先生にはラベル付き「水晶」の標本を一人1組
         プレゼントするため、130組作成
     (2) ”Audio Visible”
          単調な説明では子ども達が飽きてしまうので、パワーポイントを使った、プレゼン
         テーションを軸に説明する。スライド1枚1分の計算で、100枚余りのスライドを準備
         することにした。
          使ったスライドは配布資料として、各クラス1冊、計4冊印刷してあげ、子ども達が
         後で見直せるようにする。
          また、参考資料として益富先生の「水晶」を2冊学校の図書館に寄贈し、発展的に
         学習できるようにする。
     (3) こども達も参画
          こども達にこちらから質問する回数を増やしたり、クイズに答えてもらったり、さら
         に、『面角』や『比重』などを子ども達に実際に測定してもらう体験型授業にする。

    準備も整った講義の前日、小Yさんから「湯沼鉱泉・水晶洞の見学も入れて2時間でお願い
   したい、と言っている」、との電話があった。湯沼鉱泉への往復移動の時間も含めると講義の
   時間は45分くらいしかない。短くするのは簡単で、途中をバッサリ削ることにした。

    当日、講義開始1時間前に町田市の施設に到着し、持参した標本をテーブルに並べ、パソ
   コンとプロジェクターを接続したが映らない!!
    何回か電源を入れ直したり、接続をチェックし映るようになってひと安心。だが、講義が始
   まる予定時間になっても子ども達が集まってこない。全員が揃ったのは、予定より15分遅れ
   だった。

    自己紹介の後、講義のポイントを話し、質問があればいつでも手をあげてもらうようにして
   講義がスタートした。
    講義の内容を聞き漏らすまいと、皆んな真剣に耳を傾けてくれている。多くの子供が見聞き
   したことをノートにとっている。

    時間の都合で、『面角測定』と『右左水晶鑑定』しか子ども達に参加してもらえなかったが
   体験を通じてより確かな知識にしてもらえたようだ。

    最後の質疑応答では、「水晶を採るのに免許は要りますか?」、というような質問も出て、
   子ども達が採集にも興味があることがうかがえた。

    講義の後、湯沼鉱泉「水晶洞」の見学に同行・解説した。社長に皆であいさつの後、見学の
   ポイント(必見の場所)を説明した。
    @ 露頭にあったままの緑水晶双晶
    A 「扁平苦土電気石」、「川端下の双晶」など『川上村の鉱物』

    見学の後の感想を何人かの子供たちから直接社長に伝えてもらった。「わかりやすく展示
   してある」、「スゴイ!!」、「きれいな標本がたくさんあった」など、子ども達の素直な声を聞き
   ながら社長は眼を細めていた。

    再び町田市の施設に戻り、挨拶をして、子ども達とお別れした後、湯沼鉱泉にお礼を言って
   帰宅した。

    言い古された言葉だが、” Teaching is Learning ” で、不確かな知識を確認するため
   何冊かの本を引っぱり出したり、インターネットを駆使して1枚のスライドを作成するのに1時
   間以上かかることもあった。おかげで、自分の知識も体系化し直すことができたのは、大き
   な収穫だった。
    後日、担任の先生からの手紙に、「いただいた資料に子ども達が夢中です」、とあり、受け
   持たせていただいたことを感謝している。
    このような機会を作ってくれた石友・小Yさんにも感謝している。
    ( 2009年10月 実施 )

2. 講義の準備

 2.1  「実物教育」
       大勢の子ども達や先生の前で『実物』を示すとなると”親指大”の水晶では、迫力が
      ないし、遠くから見えず、”Visible”にならない。
       そこで、家中探して、30cm超の柱状結晶と約20cmの平板結晶『巨晶』はじめ展示や
      測定に使う標本を準備した。

       


  平板結晶



  柱状結晶

川上村川端下(かわはけ)産巨晶


       子ども達は、実物標本を手にしながら学習したほうが効果があるだろうと考え、子ども
      達と先生にプレゼントするラベル付き「水晶」の標本を一人1組、計130組作成することに
      し、そのため、きれいな頭付き水晶がズリで採れる産地に、何回か足を運び、必要な数
      を入手した。

       


子ども達への
プレゼント




山梨県産水晶


 2.2 ”Audio Visible”
      単調な説明では子ども達が飽きてしまうので、パワーポイントを使った、プレゼンテーシ
     ョンを軸に説明することにした。
      プレゼンテーション用ソフト”Power Point”を買いにY電機に行くと、3万円弱するという。
     店員が「アカデミーパック」なるものがあることを教えてくれた。教員や学生は約半額で
     購入できるとのこと。「そうだ、出産間近の3男の嫁さんに頼もう!」。彼女は、卒業が決
     まったが某大学・英文学科の4年生なのだ。こうして、”Power Point”が入手できた。
      経験から、スライド1枚1分の計算で、100枚余りのスライドを準備した。使ったスライドは
     配布資料として、各クラス1冊、計4冊印刷してあげ、子ども達が後で見直せるようにした。

       配布資料

      また、参考資料として益富先生の「水晶」を2冊、学校の図書館に寄贈し、発展的に学習で
     きるようにした。

 2.3 こども達も参画
      こども達にこちらから質問する回数を増やしたり、クイズに答えてもらったり、さらに、
     『面角』や『比重』などを子ども達に実際に測定してもらう体験型授業にするための機材を
     準備した。

      『面角』測定は、「接触測角器」を使えば簡単にできるのだが、自宅は無論、学校にすら
     ないので、身近にある機材を使った測定方法も教えることにした。

         
             接触測角器                      身近な用具
                            面角測定機材

3. 講義

 3.1 講義のシナリオ
     講義のあらすじを次のように決め、これを2時間で説明するつもりでいた。

      (1) 鉱物って何?
      (2) 「水晶に始まり、水晶に終わる」
      (3) 水晶の楽しみ
          ・鉱物の形・色・共生鉱物・内包物(インクルージョン)
          ・石英(水晶)のなかま
      (4) 山梨の水晶加工の歴史と製品
      (5) 鉱物の鑑定
      (6) 川上村の鉱物
      (7) 鉱物をもっと知りたい人のために

     しかし、時間の関係で45分程度で終わらせなければならないことになり、(3)の後半
    (4)、(5)、(6)そして(7)は駆け足になってしまった。

    以下、講義の内容をスライドを中心に解説する。

 3.2 鉱物って何?

      

 ”定石”通り

長石

石英

雲母

3種類の鉱物からなる
巨晶花崗岩(ペグマタイト)


      





鉱物の定義




      


意外な鉱物「氷(ICE)」

氷の結晶『雪』
を描くオーストリア切手


同じ化学式 H2O
だが、液体の水や
ガス(気体)の水蒸気が
「鉱物」でないのはなぜ?



 3.3 「水晶に始まり、水晶に終わる」
      私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』、がある。
     改めてこの理由を整理してみた。

      


「水晶に始まり、水晶に終わる」



・人と長いつきあい
・一番身近にある鉱物
・いろいろな楽しみかた
 形・色・共生鉱物
 内包物(インクルージョン)



      


人と長いつきあい(日本)


・石器時代から矢じりなどに利用
・古墳時代から首飾りなどの
 宝飾品として利用
・近代から印鑑など実用と
 宝飾を兼ねて利用
・現在は「珪石器時代」とも呼ばれ
 重要性が一段と増している



      


人と長いつきあい(西洋)


・水晶は、氷の結晶と
 長い間信じられていた。

・「ボイルの法則」で有名な
 ボイルが「おかしい」、と
 言い出したのは
 17世紀になってから



      


「珪石器時代」


・コンピュータや携帯電話など
 あらゆる電子機器にシリコン(Si)で
 作った集積回路が使われている。

・今後、太陽光発電などで
 ますます重要性が高まる



      


「水晶」と「石英」どっちがどっち?


・3世紀(日本は卑弥呼の時代)
 現在の「水晶」は、「石英」と
 呼ばれていた

・取り違えたのは、江戸時代の学者
 貝原益軒だと益富先生はおっしゃる
 が・・・・・



      


調としての「水精(水晶)玉」

・天平5年(733年)出雲国(現島根県)
 から、調(特産品を納める税金の1種)として
 奈良の都に「水晶玉」が送られた記録が
 残っている。

・これらの「水晶玉」の一部は、”ご褒美”として
 地方の豪族に配られたのではないだろうか。


      


地方から出土した「水精(水晶)玉」

・写真の「水晶玉」は常陸国(現茨城県)
 から出土したもの。
・現在残されているこの時代の「水晶玉」は
 現在の「水晶」と同じように、”透明感”
 あり、すでに8世紀には、現在と同じに
 なっていた。

・貝原益軒が間違えたのではない?


      


・地殻、海、空気中にある元素の
 存在率(%)をアメリカの地球学者
 クラークの名前をとって、「クラーク数」
 という。

・50%が酸素(O)、25%が珪素(Si)だ。
 珪素(Si)と酸素(O)の存在比率は
 1:2で、SiO2(石英)が最も身近に
 ある理由も納得できる。


      


・『白砂青松』、とよばれる
 日本の代表的な風景の1つを
 作っているのも石英あれば
 こそだろう。


 3.4 水晶の楽しみ
      私の石友・ASさんのように、”水晶しか集めない”、という人がいるほど、水晶は魅力が
     があり、奥深いものがある。
      水晶の楽しみかたをいろいろな角度から掘り下げてみよう。

  (1) 形

       


・石英(水晶)には、『高温石英』と
 『低温石英』、とよばれる2種が
 ある。

・一般に「水晶」と呼んでいるのは
 『低温(型)石英』のことである。
・『高温石英』は、一般には8面体を
 している。
・「高温」と「低温」の境目は573℃だ。


       

       


・水晶は、各面がほぼ同じ大きさに
 成長した『六角柱状』が理想的な
 形(結晶形)だ。

・『平板(ひらばん)』、とよばれる
 2面がほかの4面よりも大きく
 成長した形がある。


 

       

・こんなに形が違うのに
 同じ水晶なのだろうか?

『面角』1)を測って同じ
 ものか調べてみよう。

 1) ここでいう、「面角」:αは、
    「鉱物学的な面角」:βの”補角”
    α=180−β
 

 「面角測定用具」を使って、A君に
測ってもらおう


 

       


 「面角」は120度で同じだ!!

・こんなに形が違うのに
 「面角」は同じだ


・何か、ルール(法則)が
 あるのかな?


 

       


・同じような疑問を抱いた人が
 約350年前のデンマークに
 いたんだ。
・ステノは、アルプス産の水晶を
 使って、「面角」を測って、
 みな120度だと調べたんだ。
・これを『面角安定(一定)の法則』
 といい、鉱物によって面角は
 決まっている。
 逆に「面角」を調べれば、鉱物の
 名前も絞られるんだ。


 

       


 「左利きの人、手を挙げて」
 というと数人が手を挙げてくれた。

・水晶にも「右水晶」「左水晶」
 あるんだ。
・横から見て、左(右)の肩に
 ”s面”、”x面”があるのが
 「左(右)水晶」だ。


 

       


・「右水晶」と「左水晶」を上から
 見てみると、120度おきに同じ
 形になっている。

・3つの方向に結晶が成長した
 ように見えるから、水晶の結晶系は
 「三方晶系」と呼ばれるんだ。


 

       


・この水晶は、「右水晶」、「左水晶」
 どっちかな?

 「右水晶」・・・・・2名
 「左水晶」・・・・・1名

・正解は、「左水晶」だ。
 大勢が言うことが必ずしも
 正しいとは限らない。


 

       


 2つの水晶が組み合わさって
面白い形の水晶ができる。

 「並行連晶」・・・・・2つの結晶の軸が
            並行
 「貫入双晶」・・・・・2つの結晶の軸が
            一定の角で交差
 「接合双晶」・・・・・2つの結晶が
            1平面(双晶面)で接合



 

       


 「貫入双晶」の例

 「ドフィーネ右双晶」・・・・2つの右水晶の組合せ

 「ドフィーネ左双晶」・・・・2つの左水晶の組合せ

 「ブラジル式双晶」・・・・・右水晶と左水晶の組合せ


 

       


 「並行連晶」の例

 「松茸水晶(セプター・クオーツ)」
あるいは「冠水晶」、と呼ばれる
水晶が代表的なものだ。



 

       
 「松茸水晶」はどうしてできたのかな?

 最初にできた水晶は
普通の水晶だった。
 水晶の成長が中断する
時期があって、最後にできた
水晶は、最初にできた水晶の内
大きな水晶の上にだけ成長した。

 最初にできた水晶が”軸”
最後にできた水晶が”傘”に
なったわけだ。


       


 「接合双晶」の例

・接合双晶の代表的なものが
 「日本式双晶」だ。

・2枚の水晶が84度33分の
 角度で接合している。

・◇ の直角(90度)よりも
 少し狭い角度で接合している。


       


 どうして「日本式」と言うのかな?

・この形の双晶は、日本だけでなく
 世界各地で採れるんだ。
・最初に発見されたのは「ドフィーネ式
 双晶」が発見されたフランスの
 ドフィーネだ。
・1905年ドイツ人のゴールドシュミットが
 ”日本に大きくてきれいな双晶が多い”ので
 「日本式双晶」と命名したんだ。


       


 「日本式双晶」にはその形から
いろいろな呼び名が生まれている。



       
・一度矢印のところで折れた水晶が
 再び接合している。
 これを「接着水晶」、と呼んでいる。

・最初にできた水晶が
 折れるような地殻変動があって
 そのあと、水晶の成長が再開したんだ。
・水晶の成分が”糊”の役目もして
 折れた水晶を接合した。
 同時に、最初にできた水晶の上に
 水晶が成長し『松茸水晶』にもなったんだ。


  (2) 色

       


・水晶には、いろいろな色があって
 それぞれに呼び名がついている。

・着色の原因もいろいろあるんだ。

 

       


 「煙水晶」

・色の濃さによって、”茶”、”煙”、”黒”
 などの呼び名がついている。
・アルミニューム(Al)と放射能の
 影響とされている。


       


 「緑水晶」

・「緑簾石」、「緑閃石」、「透閃石」
 などの細い針状結晶が入って
 いるので緑色に見えるんだ。
 

       


 「黄水晶」

・着色の原因は?

 

       


 「赤鉄石英」

・水晶の中に、「赤鉄鉱(ヘマタイト)」
 の細かい結晶が入っているので
 赤く見えるんだ。
 

       


 「青石英」

・着色の原因が「内包物」なのか
 「光学的な干渉」なのか、まだ
 わかっていない。
 

       


 「紫水晶」

・水晶に含まれる微量の
 元素の影響らしい。
・「アメジスト」というのは間違いで
 「アメシスト」が正しい。

 

       


 「紅石英」

・微量の元素と放射能が
 着色の原因のようだ。

 

      

  (3) 内包物(インクルージョン)
       水晶の中に含まれる、各種の鉱物の名前や似ているものの名前をとって、「ススキ入
      り水晶」、「まりも入り水晶」などと呼ばれている。

       


 「水入り水晶」

・水晶が成長する過程で水晶の表面に
 生まれたくぼみ(骸晶)の中に液体や
 ガス(気体)が封じ込められた。
・写真のものは、水晶を動かすと丸い
 気泡(ガス)が液体の中を左右に動く
 のが観察できる。

 

       


 「ススキ(草)入り水晶」

・”ススキ”と言っても、植物が入っている
 わけではない。
・山梨県甲州市(旧塩山市)竹森産で
 「草入り」あるいは「ススキ入り」として
 昔から有名なもの。
・「ススキ」の正体は、「苦土電気石」の
 針状結晶だ。

 

       


 「まりも入り水晶」

・”まりも”と言っても、本物が入っている
 わけではない。
・「雲母」や「緑泥石」の球状結晶が
 あたかも、切手にも描かれている
 ”まりも”に似ているので、そう呼ば
 れている。

 

       


 「金入り水晶」

・”金”と言っても、本物の”金”が入っている
 わけではない。
・金色に見える「黄鉄鉱」や銀色に見える
 「磁硫鉄鉱」、「硫砒鉄鉱」など“金属
 鉱物”が入ったものを呼んでいる。

 

       


 「ザクロ石入り水晶」

・小さな”ザクロ石”の結晶が入っている。
 「鉄バンザクロ石」で、新鮮なものは
 ”赤”いが、錆びて”黒”くなっているのが
 多い。

・似たようなものを、高名な先生が
 「モナズ石」と誤認した ケースも
 ある。

 

       
 「山入り水晶」

・水晶の中に、入っている水晶の先端が
 ”山”のように見えるところから、
 「山入り水晶」と呼ぶ。

・英語では”ファントム(幽霊)・クオーツ”

・水晶の成長が休止する時期があり
 初めにできた水晶の表面に付着した
 気体、液体、雲母などの鉱物が
 ”山”に見える正体だ。

 

  (4) 水晶の共生鉱物(なかよし)
       水晶(石英)と一緒に産出する(採れる)ことが多い、”共生鉱物”をいくつか紹介しよう。

       


 「カリ長石」

・「カリ長石」の一種で、「微斜長石」

・長石の上に水晶が成長していることから
 長石→水晶 の順で成長したことがわかる。

・益富先生は、「水晶が全て平行している
 (同じ方向を向いていている)のに疑問を
 持ちたい」、と言っておられた。

 

       
 「チタン3兄弟」

・チタン(Ti)の酸化鉱物は、TiO2という
 化学式をもっている。
・同じ化学式を持っているのに、
 結晶の形(外観)が全く違う鉱物が
 ある。これを、「同質異像」という。

 @ ルチル(金紅石)
 A 鋭錐石
 B 板チタン石
 これらを、私は「チタン3兄弟」、と呼ぶ。
 

       
 「希元素鉱物」

・ウラン(U)やトリウム(Th)などの
 放射性鉱物など、まとまって産出する
 ことが少ない元素を”希元素”、という。

・写真の「ジルコン」は、宝石にもなる
 ジルコニウム(Zr)を含む鉱物
 

  (5) 水晶のなかま
       水晶(石英)と同じ化学式【SiO2】からできている鉱物を紹介しよう。

       


 「メノウ(瑪瑙)」

・不均質な石英で部分的に色、濃淡
 透明度が違い、それらが層状に
 なっている。
・昔は、加熱処理して”色を出した”が
 現在では、染料を染み込ませた色とり
 どりのものが売られている。

 

       


 「玉髄(ぎょくずい)」

・微粒の石英の集合で、強靭

・鉄片を打ち付けると”火花”が
 でるので、江戸時代、「燧石
 (ひうちいし)」に利用した。

 

       


 「碧玉(へきぎょく)」

・不純物(鉄)を含む微粒の石英

・島根県玉造温泉にある「花仙山」では
 古くから採掘・加工されていた。
・「玉造部(たまつくりべ)」は、勾玉や
 管玉などを加工する職業集団

・神奈川県の石友・Hさんの恵与品

 

       


 「碧玉(赤玉石)」

・不純物(酸化鉄)を含む微粒の石英

・新潟県佐渡が有名な産地

・神奈川県の石友・Hさんの恵与品

 

       


 「碧玉製管玉(くだたま)」

・碧玉は、大昔から、装飾品の
 「管玉(くだたま)」を作る材料として
 利用されていた。

・写真の品は、茨城県の古墳から
 出土したと伝えられている。

 

 3.5 山梨の水晶加工の歴史と製品

     『甲斐(山梨県)の名産は葡萄(ぶどう)と水晶』、といわれるように、山梨では江戸時代
    から水晶の採掘・加工がおこなわれ、現在でも甲府市は「宝飾の街」とうたっている。

       


 「山梨の水晶加工の歴史(1)」

 

       


 「山梨の水晶加工の歴史(2)」

 

       


 「山梨の水晶加工の歴史(3)」

 

       


 昇仙峡土産 「水晶のトッコ(群晶)」

・山梨県の観光地・昇仙峡の奥にある
 黒平(くろべら)の集落の人々は、農閑期に
 水晶を採掘し、それらを昇仙峡の土産物屋に
 売っていた。

・写真の品は、お土産用に作られた人工の
 トッコ(群晶)


       


 「水晶印材」

・一般の人々にとってもっとも身近だった
 水晶製品は印鑑だろう。
・明治25年ごろから水晶製の印鑑が全国的に
 ブームになり、六郷町(現市川三珠町)の
 人々が全国を行商して売り歩いた。

・写真は、行商人が持ち歩いた「印材見本」


       


 「櫛(くし)」

・江戸時代〜明治〜昭和初期まで、
 女性のおしゃれは、結った日本髪を
 飾る「櫛(くし)」や「簪(かんざし)」そして
 着物の帯に飾る「帯留(おびどめ)」だった。

・写真は、水晶製の「櫛(くし)」
 細かい歯が、丹念に加工された”芸術品”


       

 「簪(かんざし)」

・江戸時代〜明治〜昭和初期まで、
 女性のおしゃれは、結った日本髪を
 飾る「櫛(くし)」や「簪(かんざし)」そして
 着物の帯に飾る「帯留(おびどめ)」だった。

・写真は、水晶製の「簪(かんざし)」
 真中には、”象牙”を使った”贅沢品”

・何よりも、桐箱に「甲府市 深輪屋」、と
 あるのが貴重


       


 「帯留(おびどめ)」

・江戸時代〜明治〜昭和初期まで、
 女性のおしゃれは、結った日本髪を
 飾る「櫛(くし)」や「簪(かんざし)」そして
 着物の帯に飾る「帯留(おびどめ)」だった。

・写真は、水晶製の「帯留(おびどめ)」
 戦後のものだが、箱に「甲斐産水晶」、と
 あるのが貴重


       


 「置物(おきもの)」

・写真は、水晶製の「ニワトリ」と
 水晶店を描く絵葉書

・「水晶細工品 甲府市玉泉堂 」、とある。
 この置物の現物も入手した。


 3.6 鉱物の鑑定
     採集、入手した鉱物が何かを調べること(鑑定)は、鉱物採集の大切なプロセス(作業)
    なのだ。

       


 なぜ、鑑定は必要なの?

 ”採ったらおしまい”、ではダメ

 きれいにクリーニングして、『ラベル』を
 つけて”保管”するまでが鉱物採集の
 一連のプロセスなんだ。


       


 『ラベル』に必要な情報は?

 @産地
 A採集年月日
   の2つは、絶対必要
 B「鉱物名」がわからなければ
   詳しい人に聞いて書き込めばよい。
   いつまでも、名無し、は困るね

  名前を付けてあげるのが『鑑定』なんだ。


       


 「鑑定」に役立つ、鉱物の性質

・調べようとする鉱物の性質を調べ、
 鉱物の名前を絞り込んでいくんだ。

・まるで、”犯人”を探す探偵のようだネ。


       


 「蛍光(けいこう)」

・紫外線を当てると、光る性質を  『蛍光』という。
 蛍(ほたる)が光るような、ほのかな
 明るさだから、『蛍光』というんだ。


       


 キズつきやすさ「モース硬度」

・調べようとする鉱物をあらかじめ硬度が
 わかっている鉱物をで引っ掻いてキズか
 つく/つかない を調べる。



       


 「比重」ってなに?

・「同じ体積の水に比べて何倍重いか」
 なんだ。
・複雑な形をしている鉱物の体積を
 調べるのに工夫がいるんだ。


       


 「体積の測定」

・水を入れた”メスシンダー”を使って、
 鉱物を入れる前後の体積の差から
 鉱物の体積がわかる。

・台所でお母さんが使う”計量カップ”でも
 役に立つよ。


       
 アルキメデスの原理を使った「比重の測定」

・アルキメデスは、王様から冠が純金で
 できているかどうか、王冠を壊さないで
 調べるように、と言われてこの方法を
 発見した、と伝えられている。

・「水に中に物体を沈めると、沈んだ体積分だけ
 重さが軽くなる」、というのがアルキメデスの原理だ。
 軽くなった重さを”浮力”という。

・水に入れる前後の重さの差が体積になるのだ。


       


 比重を測ってみよう!!

・水晶に似た、2つの鉱物がある。

・比重を測って、それぞれの鉱物が
 何か、鑑定してみよう。


       


 「比重測定用具」

・はかり・・・・・郵便物の重さを測るもの
・糸・・・・・・・・木綿糸
・容器・・・・・・水を入れた容器
         お味噌の空き箱
・電卓・・・・・・・あると計算が簡単
         なければ、紙に書いて
         計算すれば良い。

【この日は、時間がなくて測定はパス】


       
 「比重測定」結果

・左の鉱物・・・・・比重 2.7
           →「水晶」の可能性大
             「山入り」になっているし、
             「水晶」に確定
・右の鉱物・・・・・比重 3.5
           →「トパズ」の可能性大
             「条線」が縦で、モース硬度も
             水晶より硬い
             「トパズ」に確定

【この日は、時間がなくて鑑定もパス】


       


 「磁性」

・磁石が吸いつくかどうかで
 鑑定する。


       


 「放射能」

・ウラン(U)などの放射性元素は
 長い時間かけ放射線を出して
 安定な鉛(Pb)に変化していく。

・放射線を検出することで
 放射能鉱物かどうかを鑑定
 できる。


       

 「ガイガーカウンター」

・放射線を検出する専用の測定器の1つが、
 「ガイガーカウンター」だ。

・写真のものは、自分で作った
 最も簡単な構造のもので
 放射線を検出すると、”ピッ”、”ピッ”と
 音がする。
・何秒間隔で音がしたかで、
 自然放射能の何倍強いか、
 判定できる。


 3.7 長野県川上村の鉱物
     出前授業を行った長野県川上村の鉱物がいつごろ、どうしてできたのか、どのような鉱
    物が採集できるのかを講義の後の湯沼鉱泉「水晶洞」見学に備えて事前に説明した。

       

 「川上村の鉱物のでき方」

・石灰岩と花崗岩が反応した
 「スカルン(接触交代)鉱床」


       

 「川上村のスゴイところ」

・あちこちに産地がある。
・1つの産地が広い
 今でも、新しいポイントが発見される。
・いろいろな鉱物が採れる。
・標本が大きい
 (日本ばなれ)


       

 保科 百助 「五無斎」

・川上村、いや信州(長野県)の鉱物や
 教育を語る上で「五無斎」をぬかすことは
 できない。

・「五無斎」は、何回か川上村を訪れ数日
 鉱物採集したことが、彼の野帳(フィールド
 ノート)に残されている。

・「五無斎」に因むものを含め、川上村の
 代表的な鉱物を紹介する。


       

 「鎌形/鎌 水晶」

・川上村川端下(かわはけ)で採れる
 「日本式双晶」で、その形が農作業の
 草刈りに使う”鎌(かま)に似ていることから
 「鎌形水晶」あるいは「鎌水晶」、と呼ばれる。

・「五無斎」が愛した鉱物の1つ


       

 扁平「電気石」

・川上村御所平穴沢で採れる扁平な電気石で
 日本を代表する鉱物の1つとして、「パリ万博」に
 出品された。

・「五無斎」が産地を訪れた、明治30年代には
 ”絶産”に近かったようだ。
 しかし、湯沼鉱泉社長などの力で、2007年に
 私の妻が写真のような”完形品”と”母岩付き”を
 採集している。


       

 「灰曹柱石(かいそうちゅうせき)」

・桜井欽一博士が1940年に川上村を
 訪れて採集した。
・それまで、「角閃石」とされていたものが
 「灰曹柱石」であることを、翌年発表した。


       

 「自然金」

・川上村にあった最も大きな鉱山である
 甲武信鉱山は、武田信玄・勝頼の時代から
 金を採掘したと伝えられる。
・精錬所跡から出土した武田時代の土器に
 ”金の粒”が付着していることが2009年11月
 明らかになり、この言い伝えが裏付けられた。
・現在でも、写真のような蒼鉛(Bi)を含む
 「ホセ鉱」を伴う「自然金」が採集できる。


       

 自形結晶の「砒鉄鉱」

・川上村の甲武信鉱山では、俗に
 ”フカヒレ”と呼ばれる、自形結晶の
 「砒鉄鉱」が採集できる。

・専門書に「自形結晶で出る砒鉄鉱は
 まずない」、とされているが、これを
 覆した点でも発見の意義は大きい。


       

 宝石級の「ベスブ石」

・大きなものは、4cmを超える
 完形結晶も産出し、まさに”宝石級”に
 ふさわしい美しさだ。


       

 私設博物館・「湯沼鉱泉・水晶洞」

・湯沼鉱泉社長・山中氏が数億円の
 私財を投じて建設した私設博物館

・露頭の状態のまま展示してある「緑水晶
 日本式双晶」や「川上村の1級鉱物標本」は
 必ず見てね。


 3.8 鉱物をもっと知りたい人のために
      鉱物をもっと深く知りたい、自分で採集してみたい、という人のためのガイドだ。

       

 鉱物をもっと知りたい!!

・鉱物について、もっと詳しく
 知方法や鉱物を手に入れる
 方法はいくらでもある。


       

 鉱物採集に行く

・自分の手で鉱物を採って
 みたい!

・そんな君のために、鉱物採集に
 行く上での注意事項をまとめて
 みた。


 

       

 鉱物採集の服装と持ち物


 3.9 鉱物標本、水晶製品、文献の見学
      講義のしめくくりの質疑応答では、「水晶を採るのに免許は要りますか?」、というような
     質問も出て、子ども達が採集にも興味があることがうかがえた。
      この後、持参した鉱物標本、水晶製品、文献などを子ども達に見学してもらった。

        標本を見学する子ども達

4. 湯沼鉱泉・「水晶洞」見学

    講義の後、湯沼鉱泉「水晶洞」の見学に同行し、子ども達に解説した。社長とお姐さんに
   挨拶しに行くと、見学に行くことの連絡が事前になかった様子で驚いていたが、対応していた
   だけた。

    社長に皆であいさつの後、「水晶洞」は山中社長が数億円の私財を投じて、皆の後ろに
   見える山を重機を使って削って作った私設鉱物博物館だ、と話すと、子ども達は驚いた様子
   だった。

     社長に挨拶する子ども達

    「水晶洞」内に入ってしまうと、細長い列になり、全員に解説することは困難なので、事前に
   見学のポイント(必見の場所)を説明した。

    @ 露頭にあったままの緑水晶双晶
    A 「扁平苦土電気石」、「川端下の双晶」など『川上村の鉱物』
    B 湯沼鉱泉で飼っている狼(オオカミ)の子孫の川上犬

     食い入るように「緑双晶」を見る子ども達

    見学の後、事務所にいる社長にひとり一人お礼の挨拶をさせ、何人かの子供たちの感想
   を直接社長に伝えてもらった。
    「わかりやすく展示してある」、「スゴイ!!」、「きれいな標本がたくさんあった」など、子ど
   も達の素直な声を聞きながら社長は眼を細めていた。

    再び町田市の施設に戻り、挨拶をして、子ども達とお別れした後、湯沼鉱泉にお礼を言って
   帰宅した。

5. おわりに

 (1) 標本の棚卸
      講義に使用する標本、水晶製品、関連する文献などは基本的に手持ちのものを使うこ
     とにした。
      そうなると標本探しから始めねばならないが、妻が3男夫婦の新居への引っ越し手伝い
     で不在なため、私が単身赴任中に勝手に移動した標本箱は行方がわからない。

      そこで、1980年代に採集した「竹森の草入り水晶」を除き、ここ1、2年で入手した標本
     を使うことにした。これなら置き場所もだいたい記憶しているし、湯沼鉱泉社長、小Yさん、
     ASさんなど、多くの石友のお蔭で、ここ数年の間に、大型、完形品標本などがかなり揃っ
     ているはずだ。「甲武信鉱山の自然金」のように、2週間前に、秋のミネラル・ウオッチング
     の下見のときに採集した、採れたて”ホヤホヤ”のものもある。

      「印材」、「櫛」、「簪(かんざし)」などの水晶製品は、妻が留守にする前にまとめておい
     てくれたので、難なく探すことができた。

      こうして、標本は揃い、片端からデジカメで撮影した。

      出前授業に必要な標本を車に積み込むため梱包してみると、大型の段ボール2つ分
     しかない。逆にいえば、2時間程度の講義にはこれだけあれば十分だということだ。

      そうすると、家にある100箱以上の段ボール、木箱そしてプラスチック衣装ケースに入っ
     ている標本は何なんだろう?

      @ 単なる”屑標本”!?
         奈良の石友・Yさんが、「採集を始めたころの標本を引っぱり出してみたら、何でこ
        んな(貧弱な)標本を持ち帰ったのか??」、と言っていたが、私もそうなのだろうか。
      A 産地・ジャンル違い?
         今回、山梨県と長野県川上村の標本を中心に「水晶」をテーマに講義したので他の
        都道府県産鉱物や2次鉱物などジャンルの違うものは出番がなかったことも確かだ。

      11月に3男夫婦に初孫が生まれ、3人の息子夫婦が帰省した時に、1家族1部屋で寝て
     もらえるようにするには、標本箱が山積みなっている部屋をなんとか片付けねばならず、
     『標本の棚卸』がこれからの課題だ。

      【後日談】
       我が家の状況を見透かしたかのように、奈良の石友・Aさんから、次のようなメールが
      届いた。

       『 念願の初孫、女の子が誕生されたとのこと、本当におめでとうございます。当分は
        ハンマーを封印し、両手でお孫さんをダッコしてあげないといけませんね。
         また、部屋の掃除もお忘れなく。お孫さんが遊びに来られた時に、水晶や石榴石
        を口に入れると大変なことになりますよ。
         余剰品は、玉手箱用としていただければ、皆さん喜ばれますよ。
         春になりましたら、ご一緒できるのを楽しみにしています               』

 (2) ” Teaching is Learning ” 
      言い古された言葉だが、” Teaching is Learning ” で、不確かな知識を確認するため
     何冊かの本を引っぱり出したり、インターネットを駆使して1枚のスライドを作成するのに
     1時間以上かかることもあった。
      おかげで、自分の知識も体系化し直すことができたのは、大きな収穫だった。
      後日、担任の先生からの手紙に、「いただいた資料に子ども達が夢中です」、とあり、
     受け持たせていただいたことを感謝している。
      このような機会を作ってくれた石友・小Yさんにも感謝している。

6. 参考文献

 1) 小出 五郎:長野県川上村川端下(かわはけ)付近の鉱物,我等の鉱物,昭和16年
 2) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 3) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年
 4) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
 5) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
 6) 名古屋鉱物同好会編:東海 鉱物採集 ガイドブック,七賢出版株式会社,1996年
 7) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 8) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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