福島県伊達永井鉱山の近況

福島県伊達永井鉱山の近況

1.初めに

福島県裏半田鉱山の帰途、数年ぶりに、福島県霊山(りょうぜん)町にある、
伊達永井鉱山に立ち寄った。
丁度、鉱山の選鉱場などの建物を取り壊している最中だった。永井鉱山長が直々に
坑内を案内してくれ、「一般人で最後の入坑者」となった。
永井鉱山長のご厚意で、事務所においてある有名な「柘榴石」を見せていただき、
さらにズリで灰重石をはじめ、代表的な標本を採集させていただいた。
(2001年4月採集)

伊達永井鉱山の柘榴石【長さ 30cm】

2.産地

福島市の東25km、伊達郡霊山町石田にある。霊山町から相馬市に向かい、
石田集落の東はずれの藤搦(ふじからまり)のバス停から右に坂道を登ると、
約100m先の右手に鉱山施設がある。その手前の民家が永井鉱山長の自宅である。

伊達永井鉱山の近況【2001年4月21日撮影】

3.産状と採集方法

ここは、竹貫型変成岩に挟まれた石灰岩と黒雲母花崗岩による接触交代鉱床
(スカルン)である。長い鉱山長のお話では、昭和38年に試掘し、東京オリンピックの年、
昭和39年から昭和61年まで、灰重石を主に採掘したとのこと。
採掘した鉱石は、比重選鉱で、「灰重石」や「柘榴石」に分離・乾燥し、出荷した
そうです。タングステンは、福島県の新八茎鉱山に売鉱し、ザクロ石は床の研磨剤としての
用途があった。
タングステンは、値の良い時は、トラック1台で200万円くらいで売れたが、その後、
東西冷戦の雪解けでタングステンの戦略物資としての価値低下や安い中国産の輸入などが
重なり、値崩れを起こし、他の国内鉱山と同じように採算が合わず、休業に至った。
水平坑道を約50m進むと、斜め45°の急角度で斜坑が130m下まで伸び、同じ角度で
上に20m伸び地表の露頭になっている。

伊達永井鉱山の斜坑【130m下まで伸びている】
斜坑の最深部約10mは、水没しているとのこと。
樋幅は約60cmで、ミネラライトで照らしていただくと、灰重石が青白く蛍光し、
その回りには方解石、柘榴石、ベスブ石、緑簾石などの脈石があります。

伊達永井鉱山の灰重石露頭【ミネラライトで青白く蛍光】
採集は、鉱山長に断って、坑口付近や貯鉱場跡で採集させていただく。

4.産出鉱物

(1)灰重石【Scheelite:CaWO4】
長い鉱山の主要鉱石で、白色だが方解石のような光沢がなく、脈状に入っており、
ミネラライトを照射すると独特の青白い蛍光を示す。自形結晶は探せなかった。

灰重石【白い部分】
(2)灰ばん柘榴石【Grossular:Ca3Al2(SiO4)2】
赤黒〜赤褐〜黄、不透明〜透明まで、偏菱12面体の結晶で産する。幅の広い
方解石脈の中にあるものは、粒も1cmを超え、光沢も良く美しい標本となる。

灰バン柘榴石
(3)ベスブ石【Vesuvianite:Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8Al4(F,OH)2(OH,F,O)8(SiO4)10(Si2O7)4】
塊状の柘榴石の中に、柱状または放射状の緑褐色結晶として産出する。緑簾石との
見分けが付かないと言われるが、縦に条線がある事が特徴。

ベスブ石

5.おわりに 

(1)丁度、鉱山施設を取り壊している最中で、あと何年かすると、ここに
東北地方でも有数のタングステン鉱山があったことすら忘れられてしまうかと思うと
寂しい気がします。
その終焉に立ち会えたのも、何かの縁なのでしょう。
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