秩父鉱山大黒河原の自然金

秩父鉱山大黒河原の自然金

1.初めに

 2003年の春、東京都のTさんの案内で緑簾石や黄色い灰鉄(灰礬?)ざくろ石が
採集できるという、秩父鉱山大黒河原の露頭を訪れた。
 ここには、石英脈中の自然金を追っている先客があり、後発の我々は
露頭前の転(割)石から、当初予定したスカルン鉱物が採集できたので
早々に引き上げた。
 しかし、自然金産地が気になり、秩父鉱山の自然金露頭を最初に発見した
古い石友のOさんに手紙を出して場所を確認すると、はっきりとは
教えてもらえなかったが、ここに間違いないだろうと考えられた。
 Oさんによれば、
 @自然金の産状として、特異な場所なので、専門家の調査・研究が終わるまで
  ”そーっと”しておいて欲しい。
 Aこの一帯は、秩父鉱山(現在は「ニッチツ」)の鉱区内(?)なので、勝手に
  採集するのは、いかがなものか。
  との事であった。
 あれから、半年余りが過ぎた8月末に、産地を訪れてみると、最近は、誰も
訪れた形跡もなく、元の落ち着いた風景に戻っていた。
 露頭周辺のズリの土砂をフルイ掛けやパンニングして、母岩付と分離した
自然金(山金)を採集できた。
 そこで、翌週の日曜日に「自然金採集会」を各地の石友に声を掛けたが
余りに急だったせいか、参加していただいたのは横浜のMさんだけだった。
 2人とも3mmサイズの分離自然金などを採集できた。自宅に持ち帰った
石英を含む母岩を、秋の夜長に片っ端から実体顕微鏡で覗きながら
母岩付きを探すのがこれからの楽しみです。
(2003年8、9月採集)

2. 産地

 この産地について、各種の情報が出されていますので、割愛します。
   大黒自然金産地

3. 産状と採集方法

 秩父鉱山は、接触交代鉱床・熱水鉱床の代表で、石灰岩に石英閃緑岩などの高温の
マグマが貫入してできたと言われます。
 ここでは、柘榴石・緑簾石・石英からなる母岩の晶洞部分に自然金が胚胎しています。
石英脈だけでなく柘榴石脈の晶洞にもあります。黄鉄鉱とは共生しないようですので
採集の道しるべになると思います。
 皆さんが叩いた石英脈のカケラが散在しており、それをパンニング皿の上にフルイを
2段重ねにしたものに入れて川岸まで運び、水の中で洗います。
 フルイの中には、母岩付きが、パンニング皿には、分離結晶が残るという、一挙両得の
採集方法です。

 パンニング皿の上にフルイを重ねる

 ズリの土砂を入れる

 フルイに残った母岩

 パンニング【Mさん】

4. 採集鉱物

(1)自然金【Native Gold:Au】
   文字通り、黄金色で産出します。ここでは、黄鉄鉱も産出しますが
   黄鉄鉱は”角張っていて、品のない青黒い金色”なので、見間違う事は
   少ないと思います。

       
         石英晶洞          柘榴石晶洞【偏菱24面体】
                大黒産母岩付き自然金

   産出する自然金の中には、”リボン(薄板)状”のものや”ピラミッド状”
   そして、”糸状”のものがあります。
   @板状のもの・・・・・・米国コロラド州産にみられる。
   Aピラミッド状・・・・・自然金は等軸結晶系に属しており普通の形が
               八面体(ピラミッドを底面で2つ合わせた形)で
               産出する。
               理想的なピラミッドはありえず、どちらかの軸方向に
               引き伸ばされた形になって、”犬牙状”と呼んだ方が
               相応しいものもあります。
   B糸状・・・・・・・・・上位の概念では、”樹枝状”、”紐状”そして”糸状”と
               なるのかも知れません。
               秩父鉱山で有名な閃亜鉛鉱の上の自然金は、”紐状”とか
               ”糸状”と呼ばれています。
               これらは、何れも自然金の結晶の平行連晶である。

     
      リボン状             ピラミッド状               糸状
                         自然金結晶形態

3mmサイズの自然金は、”石英を噛む自然金”で、露頭ならではの産出状況です。

 
       石英を噛む自然金

5.おわりに

(1)気にかかっていた産地を半年振りに訪れ、各種の形態の自然金を採集できた。
   パンニングでは、1回に数粒採集でき、概算では、トン当たり約10gで
   まずまずの品位である。
(2)持ち帰った母岩を実体顕微鏡で眺め、探し出せた母岩付き自然金は
   次の採集会の「標本玉手箱」用にと考えています。

6.参考文献

1)加藤 昭、松原 聡共著:鉱物採集の旅-東京周辺をたずねて-,築地書館,1982年
2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
3)新井 重三監修・須藤 和人編:埼玉県 地学のガイド,コロナ社,昭和61年
4)奥山 優:秩父鉱山の自然金 スカルン中の柘榴石に伴う自然金
         ペグマタイト 第57号,2002年
5)渡辺萬次郎:金銀読本,日本評論社,昭和9年
6)柴田 秀賢・須藤 俊男:原色岩石鉱物検索図鑑,北隆館,昭和48年
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