2002年秋の鉱物観察会-秩父鉱山大黒坑-

2002年秋の鉱物観察会-秩父鉱山大黒坑-

1.初めに

私のHPを見て、メールで問い合わせがあったり、山梨、長野、茨城などの
産地を案内して差し上げた方々に声を掛け、2002年秋の観察会を開催した。
今回、滋賀・京都・奈良・兵庫のメンバがだれも参加できず残念でしたが
参加された方々は、それぞれの産地の代表標本を観察でき、大満足の様子でした。
10月26日(土曜日)・・・・秩父鉱山(大黒・石灰沢・渦ノ沢)
10月27日(日曜日)・・・・水晶峠・乙女鉱山
観察会初日に、秩父鉱山大黒坑前を訪れ、”車骨鉱”をはじめ、菱マンガン鉱や
ブーランジェ鉱などを観察できた。
また、天気予報では60〜70%の雨だったのが、日ごろの行いの良さか晴れ間が
見えるほどで、秩父の紅葉も満喫できた。
(2002年10月観察)
秋の秩父鉱山

2. 産地

集合場所の道の駅「まきおか」に行くと愛知県のHさんが前泊で待っている。
集合時間の7時になっても、普段遅れたことがない千葉県のYさん親子が来ない。
やがて、雁坂トンネル方面からYさんが駆けつけた。道の駅「かりさか」で
待っていたが誰も来ないのでおかしいと思い、奥さんに電話し、メールを開いてもらい
集合場所が違っていたのに気が付き慌てて戻って来たとのこと。
全員揃ったので、私の車に乗りあわせて出発。国道140号線(埼玉と甲斐を
結ぶので彩甲斐街道と呼ぶ)の沿線は、紅葉の真っ盛り。雁坂トンネルを抜けて
中津川を目指し大黒に8時過ぎに到着。所要45分と雁坂トンネルができて
山梨から秩父鉱山は近くなった。
そこには、家の用事で来れないはずのTさんが、K君と一緒に立っているので
ビックリ。
K君だけでは、心配なので送って来て、すぐ帰るとのこと。自分の子どもの面倒だけでも
大変と聞いていたのに、他所の子どもまで面倒見るとは。そこがTさんの良いところ
なんです。
ニッチツの排水処理施設の脇を抜け、橋を渡った対岸の川原とそこに流れ込む沢筋が
産地です。

3. 産状と観察方法

秩父鉱山は、接触交代鉱床・熱水鉱床の代表で、石灰岩に石英閃緑岩などの高温の
マグマが貫入してできたと言われ、各種の金属鉱物やベスブ石などのスカルン鉱物が
見られます。
大黒坑は、秩父鉱山の主力坑の1つで、「日本の鉱物」に掲載されている秩父鉱山産標本の
殆どがここで採集したものであることからもその規模の大きさが推察できます。
神流川とそこに流れ込む沢筋にはたくさんの旧坑があり、そこで掘り出した鉱石やズリ石が
沢筋や川原に落ちており、これらを観察します。

左:旧坑【入坑不可】       右:神流川川原
ポイントは次の2点です。
@車骨鉱やブーランジェ鉱は菱マンガン鉱に伴うので、表面が真っ黒で丸みを帯びた
 重たい石を探す。
A方鉛鉱や硫砒鉄鉱は黄鉄鉱・黄銅鉱を伴うので、表面に金色硫化鉱物や茶色の錆びがついた
 重たい石を探す。
これらを割って、新鮮な面を出し、晶洞部分を時にはルーペで観察すると、各種の鉱物が
見られます。
川原での観察風景

4. 観察鉱物

(1)車骨鉱【Bournonite:CuPbSbS3】
閃亜鉛鉱の上の紐状自然金と並んで秩父鉱山の目玉である。菱マンガン鉱の上に柱面に
条線が発達した結晶で産する。柱面で双晶をなす事が多く、十字形や車輪状の集形を
なすことから鉱物名が付けられた。
この標本は、誰かが割った人頭大の閃亜鉛鉱を主とする塊の晶洞を覆う菱マンガン鉱の
上に晶出していたもので、残りがまだズリにあるはずです。
図鑑には短柱状とあるが、この標本のものは全て長柱状で、最初輝安鉱かと思った
ほどです。
車骨鉱
(2)菱マンガン鉱【Rhodochrosite:MnCO3】
マンガン鉱床の主要鉱石であるが、秩父鉱山ではマンガン鉱は採掘対象でなく、ズリ石として
比較的たくさん見られます。
新鮮な破断面は、紅色〜桃色を呈し、晶洞部分にはマッチ箱を押しつぶしたような菱餅状や
写真のように北海道稲倉石鉱山産と似た爪状の自形結晶が見られます。
菱マンガン鉱
(3)方鉛鉱【Galena:PbS】
劈開がサイコロ状で鏡のような鏡面を示す。まれに、ルーズな八面体の結晶面の何面かが
見える標本もある。自形結晶の表面は、白い白鉛鉱に覆われていることが多い。
車骨鉱と同じ晶洞から産出したものは、スピネル式双晶を示し、板状結晶である。
方鉛鉱
(4)ブーランジェ鉱【Boulangerite:Pb5Sb4S11】
青黒い細い針〜毛状で菱マンガン鉱の晶洞部分に産出する。菱マンガン鉱の破断面に
真っ黒い部分があればルーペで確認すると発見できることがある。
毛鉱【Jamesonite:Pb4FeSb6S14】との違いは、鉄を含むか含まないかで、肉眼での判定が
難しいため、ここでは毛状の鉱物はブーランジェ鉱としてあります。
ブーランジェ鉱
(5)硫砒鉄鉱【Arsenopyrite:FeAsS】
方鉛鉱、黄鉄鉱などを含む硫化鉱塊の晶洞部分に銀白色、菱餅状結晶で産出する。
硫砒鉄鉱
(6)花崗岩ペグマタイト【Granite Pegmatite: 】
ややピンク色を帯びた長石を含む花崗岩にペグマタイトがあり、真っ黒い柱状鉄電気石
水晶、長石の結晶が晶洞部分に見られ、貫入した側の代表鉱物として面白いものです。
ペグマタイトの晶洞
(7)松茸水晶【Rock Crystal - Mushroom Type :SiO2 】
閃亜鉛鉱、方鉛鉱、硫砒鉄鉱などの晶洞の中に水晶があり、希に松茸水晶も見られます。
松茸水晶

5.おわりに

(1)私が、最初に秩父鉱山に行ったのは、まだ東京に住んでいた15年以上前で
大黒坑下の川原で子どもの頭大の塊を割り、晶洞中から水晶と共に硫砒鉄鉱の結晶を
見て感激したのを思い出します。
2回目の下見に来たとき、秩父鉱山簡易郵便局の局員に伺ったところ、以前は川原でも
良品が採集できたが、砂防ダムができてから難しくなったとのことでした。
それでも、今回大黒坑を代表する標本の菱マンガン鉱とブーランジェ鉱は全員が観察でき
満足の行く結果でした。
(2)秩父鉱山の最新産地情報を教えてくれ、採集会の下見に同行していただいた
東京都のMさんに、あらためて御礼申し上げます。

6.参考文献

1)加藤昭、松原聡共著:鉱物採集の旅-東京周辺をたずねて-,築地書館,1982年
2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
inserted by FC2 system