『 標本を売る気はないので、研究のお役に立つなら無償で標本を送る。花崗岩ペグマタ
イトに産出する「褐簾石」だが未分析。標本は山梨県の自宅においてあるので送るまでに
時間がかかる。』 旨の返信メールを送った。
翌2011年3月、千葉県に住む孫の雛祭りのお祝いを早めに済ませ、山梨に2ケ月ぶりに
戻った。標本は、ミネラル・ウオッチングを始めて間もないころに採集したもので、自作の木
製標本箱の中にあることは記憶していたので簡単に見つけることができた。
自分が採集した標本を外国の大学に送り出すとなると、気が早いが『孫娘の嫁入り』のよう
な心境で、嬉しさと寂しさが綯(な)え混ぜになった複雑な心境だった。この経緯については
下のページで報告した。
航空便で送って間もなく、標本が無事届いた、とJ教授からのメールがあった。
こうして、唯一の標本を手放してしまい、穴埋めをせねば、と思いながらも仕事が忙しく、
狭い産地なので、絶産が心配されたが、J教授に贈った標本に勝るとも劣らない佳品を
ここを初めて訪れたのは、山梨県に転勤になって2、3年経った1992年ごろのことだった。
・山梨県大菩薩の渇簾石
ここは、冬期(12/15〜3/31)車が通行止めで、7km以上歩くため、この期間をはずしての
褐簾石は、半透明の石英に白い長石が斑晶をなす部分にある。従って、この手の転石を
「日本希元素鉱物」には、この近くの沢の土砂をパンニングすると希元素鉱物が採集でき
今回採集した標本のいくつかを紹介する。
褐簾石に含まれる放射能鉱物の影響で、周りの石英が黒い煙水晶に変色する”ハロ”
褐簾石は、セリウム(Ce)とイットリウム(Y)の存在比で、ALLANITE-(Ce)とALLNITE-(Y)
(2) 褐簾石以外に、「灰重石」や「電気石」も採集できると「日本希元素鉱物」にあるが、未だに
ここを訪れる気になったのは、『虎の子』の標本をJ教授に差し上げた結果、手持ちの標
その結果、今まで採集した中で一番の「褐簾石」を採集する事ができた。まさに、『 情け
(2) パンニング
( Mail from Spain - ALLANITE from Daibosatsu Pass - , Yamanashi Pref. )
山梨に戻ることすら月一の状態が続き、のびのびになっていた。あれから1年半近くたった
2012年8月、夏休みを利用して、12年ぶりに産地を訪れた。
採集でき、産地が健在なことを確認できた。
( 2012年8月 採集 )
2. 産地
山梨県北部に長編小説のタイトルにもなった「大菩薩峠」がある。ここで、「褐簾石」が採集
できることは、長島乙吉・弘三親子の「日本希元素鉱物」はじめいくつかの文献に紹介されて
いる。
大菩薩案内板
その後、何回か訪れ、その結果について、2000年にHPに掲載した。
(Allanite of Daibosatsu Pass , Yamanashi Pref.)
採集をお勧めする。
3. 産状と採集方法
ここは、第3紀の花崗岩に由来するペグマタイトといわれ、粘板岩中に幅1mくらいのペグマ
タイト脈がある。これらの脈由来と思われる、一抱えもある転石がいくつか沢筋に観察できる。
花崗岩脈 転石
産地
探し、表面を見て結晶があればその部分を掻きとるか、転石を割って結晶を出す。
ただ、ここのペグマタイトは脈性で、晶洞はほとんどなくあっても1cm以下のものがほとん
どだ。褐簾石は硬い石英の中に埋没していたり、長石に接しているため、割った衝撃で結
晶が粉々になってしまう。結晶面が見えれば良い方で、今回採集できた柱面、頭が健在な
標本を採集するには、よほどの『運』に恵まれないと難しい。
る、とあり、今回初めて試してみた。
パンニング
4. 産出鉱物
(1) 褐簾石【ALLANITE:(Ca,Ce,Y)2(Al,Fe)3(SiO4)3(OH)】
ここの褐簾石は、山梨県を代表する鉱物の1つだと考え、HPの『標本箱(Gallery)』にも
掲載してある。
J教授に送った標本の写真を『嫁入り前』に撮り直した。
( 現物が手元になくなるので、いろいろな角度、倍率で写真を撮った。 )
全体 結晶
【 10mm】
大菩薩峠の褐簾石
【2000年採集品】
全体 結晶
【 15mm】
結晶
【7mm】
大菩薩峠の褐簾石
【2012年採集品】
を生じている。
のいずれかに分類される。この産地のものは、ALLANITE-(Ce)とされる。
場所を特定できていない。この探査が次の課題だ。
5. おわりに
(1) 『 情けは人の為ならず 』
今回、12年ぶりで褐簾石産地を訪れた。狭い産地なので絶産を心配したが、以前と大き
く変わっていないので安心した。
本がなくなり、その補充と産地の現状を確かめるためだった。
は人の為ならず 』 だ。
「日本希元素鉱物」には、長島 乙吉氏が、この近くで、いつも持ち歩いている塗り碗の
蓋でパンニングして希元素鉱物を採集した記述がある。
今回、パンニング皿の代りに、植木鉢の受け皿を持参し、パンニングの真似ごとをして重
鉱物を持ち帰ったので、単身赴任先で精密パンニングしてみる積りだ。
6. 参考文献
1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
同委員会,昭和45年(1970年)
3) 益富 壽之助:鉱物 −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
5) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
6) 日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,無名会,2008年