長野県茅野市蝋石山の鉱物

            長野県茅野市蝋石山の鉱物

1. 初めに

    2010年の月遅れGWミネラル・ウオッチングの2日目、新産鉱物を求めて、30名の皆さんと
   長野県茅野市金鶏鉱山を訪れた。
    いつものように、事前に産地を確認しておくための下見で訪れると、金鶏鉱山の手前に
   「ロー石山入り口→」の標識があるのに気付いた。

     「ロー石山入り口」標識

    「ロー石山」、というからには「葉蝋石(パイロフィライト)」を採掘した鉱山跡だろうと想像し
   たが、いつの時代のものか全く予備知識がなかった。
    産地に立つ説明板によれば、ここは、武田信玄が金を採掘した鉱山跡と伝えられ、18世
   紀末から19世紀初頭には、印材として文人墨客に珍重されたようだ。
    その後、高島藩によって採掘は禁止されたが、明治になって採掘が許可されると、石板に
   字を書くための石筆(せきひつ)として使われた。

    産地のアチコチに、表面が”ツルツル”し、爪を立てると簡単にキズがつき、『モース硬度1』
   の見本のような「ロー石」が点々と落ちていて、それを拾うだけのお手軽採集だった。

    現在でも石筆は、一部の建設業関係者は使っている、とも聞くが、私が子どもの頃、ロー
   石で道路に線や絵を描いて、遊んだ記憶がある。
    関東の骨董市で、「ロー石」を売っていたので購入した。他にも買っている人を見かけたの
   で、懐かしさを感じる人もいるようだ。

    「蝋石」のなかまは、長野県各地で採掘された事があるようだが、いまひとつ人気がない
   ようだ。物好きな方は、金鶏鉱山へのついでに立ち寄ってみるのも良いだろう。
   ( 2010年5月 採集)

2. 産地

    JR中央線の「青柳駅」近くから、標識に従って金鶏鉱山に向かって林道を走ると、金鶏鉱
   山の約2km手前に、「ロー石山入り口→ 北に170m」の標識がある。
    ここから20mも入ると、正面の山の斜面に白い案内板が立っている場所が産地だ。

    「ロー石山」の歴史を記した、金沢歴史同好会が建てた案内板の内容を引用させていた
   だく。

    『 発見された時代は明らかではないが、伝承では武田信玄が金鶏鉱山(当時は青柳金
     山)で採掘中に発見されたのでは、とも言われている。
      文人書家の間で珍重されはじめたのは、寛政(1789〜1801年)のころと言われ、その
     発見者は、茅野の本陣・五味文嘯(ぶんしょう)である。文嘯は、ロー石を天竜道人はじ
     め多くの文人墨客に贈った。当時82歳の道人が文嘯にあてた享和2年(1802年)の手紙
     によってそのことを知ることができる。
      文嘯は高島藩の許可を得て採掘し、藩主・忠粛へ献上した。忠粛は、天竜道人に命じ
     て印材・肉地・筆筒などに加工させた。その後、採掘を禁じた、とある。
      明治になって採掘が許可されると、大正〜昭和初期にかけて、金沢小学校はじめ近
     隣学校の遠足の目的地として賑わい、また教材(  ・石筆)としても使用された。

              平成11年 5月吉日     金沢財産区     金沢歴史同好会
                                金沢区                       』

3. 産状と採集方法

    産地には、坑道跡か露天掘跡と思われる、おおよそ幅2m、長さ10mの窪(凹)地がある。
   その周辺に、「蝋石」の塊が点々と落ちているので、それを拾うだけである。

     「坑道」「露天掘り」跡(?)

4. 産出鉱物

 (1) 葉蝋石【PYROPHYLLITE:Al2Si4O10(OH)2
      白〜白色、指で触ると、つるつる(ヌルヌル?)した肌さわりである。爪(モース硬度21/2
     で簡単にキズがつき、軟らかいのも大きな特徴。

       「葉蝋石」

      蝋石は、葉蝋石を主体とし、ダイアスポア、鋼玉(サファイア)、カオリナイト、明礬石など
     の鉱物からなっていることが多いようだ。広島県勝光山では、これらが産出するとある。

      勝光山でも、最初は地元民によって、「石筆」用に採掘され、1910年(明治末期)から
     耐火物の原料として利用されるようになった、と「日本の鉱物」にある。

 (2) 武石(褐鉄鉱)/ゲーテ鉱【Limonite/GOETHITE:FeOOH】
      黄鉄鉱が酸化し、ゲーテ鉱になった「武石」が小さな水晶を伴う石英脈の中に見られる。
     金鶏鉱山(青柳金山)の自然金は、電気石を伴って産出する、と聞いたことがあるが、も
     しかして、武石の中にあるのではないかと持ち帰ってみた。

       「武石」

5. おわりに

 (1) 3度目の正直 『 金鶏鉱山 』
      金鶏鉱山を初めて訪れた(正確には、訪れようとした)のは、もう5年も前の春だった。
     林道を進むと、雪で折れた大きな倒木が道路を塞いでいた。とても通れそうもなく、引き
     返した。
      舗装道路に出てみると、後輪がパンクしていて、”踏んだり蹴ったり”の初訪山だった。

      2009年夏、「信濃境の角閃石」を採集した後、「金鶏の湯」に入ると、温泉の説明の中
     に「金鶏金山」があり、訪れねばと思いつつ時間が経ち、訪れたのは年が明けた、2010年
     1月になってからだった。

      2010年の冬は例年より寒さが厳しく、金鶏鉱山入口にあたる麓の集落では、ほとんど
     積雪が見られなかったが、「ロー石山」入り口付近の吹き溜まりには30cm以上の積雪が
     あり、4WD、スタッドレスでも危険を感じ、途中から引き返してきた。

         
             麓の集落            「ロー石山」入口
               金鶏鉱山への険しい道【2010年1月】

      2010年5月、「月遅れGWミネラル・ウオッチング」の下見でようやく産地に到着すること
     ができた。まさに、『3度目の正直』だった。

 (2) 『 幻のフローレンス石 』
      さて、産地にたどりついたのは良いのだが、お目当ての「フローレンス石」が一向に姿
     を見せてくれないのだ。

      ミネラル・マーケットで会った、KN氏は、「人が採れるモンは、ワシゃ採れる」、と言って
     いた。そこまで言い切る自信はないが、採れるはずだと信じている。

      しかし、「山の神」は、一向に微笑んでくれないのだ。

      そんな訳で、ミネラル・マーケットで「フローレンス石」を買う羽目になってしまった。

6. 参考文献

 1) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 2) 松原聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年


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